ユーザ事例

株式会社リンクス・デジワークス

(C)2008 株式会社リンクス・デジワークス

KUDAN
(株式会社リンクス・デジワークス)
ディレクション : 木村 卓
アニメーション : 山岸宏一
プロデュース : 福本隆司
製作 : 株式会社リンクス・デジワークス
「KUDAN」 は、デジタル映像プロダクション、リンクス・デジワークス製作のアートアニメーションである。上映時間 9 分 23 秒という短編ながら、精緻に作り込まれた世界観とストーリィ、そしてユニークかつ洗練されたビジュアルが高く評価され、文化庁メディア芸術祭で優秀賞を受賞。さらに海外各国のアニメーションフェスティバルや CG コンテストで多数の賞を受賞している。まさに世界的な注目を集めた 「KUDAN」 だが、実はたった 2 人の 「3ds Max 使い」 によって制作されたのである。その 2 人、アートディレクターの木村卓氏とアニメーターの山岸宏一氏に制作の経緯と背景について伺った。

自分たちの作りたいモノを自分たちの手で 

株式会社リンクス・デジワークス
アートディレクター
木村 卓 氏


アニメーター
山岸宏一 氏
息子の言葉を見失った男。奇妙な仮面の力で異世界へ飛ばされた彼は、人面牛身の異形「くだん」に変身する。奇怪な異世界を彷徨ううち息子に迫る危機を知った男/くだんは、失われた言葉を取り戻そうする――。ナレーションによる解説を排し、説明描写も抑えた 「KUDAN」 は、観客に想像力を求める作品だ。その不思議な魅力を味わうのに必ずしも完全な理解は要らないが、商業映画と対極のアート作品なのは間違いない。CG プロダクションのリンクス・デジワークスがこのような作品を製作したのは、まず自社のクリエイティヴパワーを世界へアピールし、発信しようというブランド戦略があった。
「もし会社の支援が得られなくても、私たちだけでも作るつもりでした」。そういって笑うのは、本作を企画し、ディレクションした木村卓氏である。
「スタートは 2004 年。2 人で行ったアニメフェスティバルで多くのアートアニメーションに触れ、刺激されたんです。で、こういうのを作りたい、と」。2 年後のアニメフェスティバル出展を目標に、仕事の合間を縫って 2 人でアイデアを出しあい内容を練り始めた。空いた時間に行うためペースはなかなか上がらなかったが、アイデアは徐々形となっていく。KUDAN の不思議なキャラクタも、アニメーションを担当した山岸氏が持ちこんだ小説が出発点だ。
「原作にどうか、と内田百間(間は本来は門構えに月)の『件』(くだん)を提案したんです。小説はテーマに合わず NG になりましたが、くだんのキャラクタは面白いということになりました」(山岸氏)。結局、内容は木村氏が温めていたテーマを活かすオリジナルとし、そこへ「件」のキャラクタを融合し物語を構築していった。
「物語ができあがったのは 2005 年暮れ。年明け早々会社へもプレゼンを行い、全面的な支援を取り付けることができました。完全にフリーな、6 カ月間の制作期間を与えられたのです」(木村氏)。
こうしていよいよ、2 人の本格的な 「KUDAN」 プロジェクトが動き出した。会社がプロデュースするとはいえ、実際に手を動かすのは木村氏と山岸氏の 2 人だけ。しかも、商業映画のような売上げは求められないものの、会社のブランド戦略のもと、かつてない高いクオリティが求められたのは言うまでもない。その意味でも、実際の作業の中心となる CG ツールの選択は重要だったが、これは即座に 「Autodesk® 3ds Max®」 を使うことが決まった。
「3ds Max は職場だけでなく家でも使っており、私自身が一番使い慣れていたんです。個人で導入したのは 97 年頃ですが、当時、自分に買える値段でプロユースに耐えるほぼ唯一のツールでした。ある意味、その後の 3ds Max の急速な進化とハードの高性能化が、「KUDAN」 プロジェクト実現を後押ししたとも言えるでしょう。いわば、私たちはこの時ようやく、自分たちが作りたいものを、自分たちの手で作れる環境を手に入れたんです」(木村氏)。


「現実にはありえないモノ」 のリアリティ

KUDAN 頭部に、表情アニメーションのためポイントヘルパーがセットアップされている。モーフターゲットはまぶた開閉にのみ使用している


Grim Reaper のひらひらした動きは途中までボーンの影響を受けながら、ある個所から布地モデファイヤによるクロスシミュレーションになる
「KUDAN」 でもっとも印象的なものの 1 つが、温かい光に満ちた日常世界とダークな異世界の鮮やかな対比である。グロテスクな異世界の描写など、一歩間違えれば絵空事になりかねないが、3ds Max で細部まで作り込まれた精緻な CG 描写によって、確固とした手触りと厚みを持った「もう一つの現実」として、観客の前に立ち上がってくるのだ。
「短時間で異世界のリアリティを感じてもらうため、キャラクタにも強い存在感を与えたかったんです。その立体感や素材感、手触りをどう出していくかが大きな課題でした」(木村氏)。ダークな異世界は実は日常世界と並行して存在し、これを裏側から支えている並行世界という設定である。異形たちの身体も、異様だがどこか見慣れたプリミティブな素材でできている――そんなイメージなのだ。たとえばくだんの身体は四角い木の枠に布を張った張りぼて様。巨大なハサミで人間を刈る死神 Grim Reaper は、僧侶/虚無僧の笠に浮遊する纏の布のイメージが融合された。もちろん現実には決してありえない存在だが、アニメ的な誇張を抑えた動きも相まって、不思議なほどのリアリティを生み出している。
「アニメーションはアメリカ風の誇張した動きにならないよう気をつけました。ポーズ・トゥ・ポーズでなく、ストレート・アヘッドなやり方で順に動かしていく方法ですね」。そう語るのはもちろん、アニメーションを一手に引き受けた山岸氏である。
「特に難しかったのは Grim Reaper 。ひらひら漂う布の動きは途中までボーンの影響を受け、あるポイントからクロスシミュレーションへ、ブレンドさせているんです。そのためボーンも 2 重に入れてあります。また主人公のフェイシャルも、モーフィングはまぶたの開閉だけ。他はすべてリグを入れて、きめ細かく表情を作っています」(山岸氏)。

最終工程は東京/シドニーで共同制作

GI を使うため、実写の撮影同様、物体に反射する光でライティング。KUDAN 左のグレーの箱がレフ板、上の半透明のボックスが遮光板


16bit の HDR 画像として OpenEXR で出力し、これをトーンマッピング画像と合成し色調補正して仕上げ。口から出るフォントはオリジナルで動きも手付けだ
やがて 6 カ月が過ぎたが作品は未完成だった。アニメーションは 9 割できたものの、ライティングや背景に手付かずの部分が多かったのだ。9 月に入ると 2 人には別の仕事が入り、制作は休止を余儀なくされる。本格的な制作再開は翌春へ持ち越された。
「既に山岸さんはシドニーのスタジオに行ってたし、作業は自宅で行いました。ネット経由で彼に修正を依頼し、上がった映像を1カットずつライティング、レンダリングして……。3ds Max の環境は会社と全く同じにし、レンダリング用マシンも 4 ~ 5 台買いましたね」(木村氏)。このライティングにおいて、木村氏はディティールを見せるため全カットにグローバルイルミネーションを使っている。実写撮影のように遮光板やレフ板を置いて、光をきめ細かくコントロールしていったのである。
「ですから今回、コンポジットも極力使っていません。レイヤ分けすると一体感が損なわれるので、一発で仕上げた方がいいんです。その方が素直で美しい絵になりますね」(木村氏)。仕上げについてもデフォーカスやモーションブラーもレンダリング時に合わせて行い、後処理は色調整程度で最後にグレインを載せている。これが KUDAN 独特の映画フィルムのような豊かな質感、密度を生み出したのだ。こうして 2008 年 5 月、ついに 「KUDAN」 は完成した。翌 6 月いきなりオーストリアのメディアイベントで受賞し、以降各国で受賞を重ねていったのである。だが、木村氏たちの視線はすでに未来へ向かっている。
「受賞はもちろん嬉しいですが、一番の収穫はめざすべき方向が見えたこと。私もそろそろ“次”を考え始めたいですね。もちろん全てはこれからですが、ツールはやはり使い慣れた 3ds Max になるでしょう。また Vault のような管理ツールも、機会があればぜひ試してみたいですね」(木村氏)。

【導入製品/ソリューション】

【導入目的】

  • 3D CG によるアニメーション制作のメインツールとして
  • モデリング/ テクスチャ/ リギング/ アニメーション/ 仕上げまでトータルに

【導入効果】

  • 制作メンバー間のスムーズなコミュニケーション
  • 新しい表現手法への積極的なトライアル&エラー
  • 総体的な作業効率化の実現

【今後の展開】

  • さらなる品質向上と作業効率化
  • より多彩かつハイレベルな CG 表現の追求
  • キャラクターアニメーションへの挑戦