ユーザ事例

新しい 「エヴァンゲリオン」の世界を短期間で再構築した3ds Max

第5使徒。「CGIなら昔やりたかったことができる」(鬼塚氏)と、デザインし直された。外観の変更に加え、触手と腹部の足が追加されている

第6使徒。新画コンテ担当の樋口真嗣氏が指示した「三次元に棲む人間には知覚理解もできない挙動」を、CGIを駆使して再現した

左から)鬼塚大輔氏(CGI監督)、小林浩康氏(CGI監督)
ヱヴァンゲリヲン 新劇場版:序
EVANGELION:1.0
YOU ARE (NOT) ALONE
●2007年
●製作:カラー
●制作:スタジオカラー
●配給:クロックワークス カラー
●配給協力・宣伝:日活
©カラー・GAINAX
原作・脚本・総監督:庵野秀明
監督:摩砂雪、鶴巻和哉
撮影監督:福士享(T2 Studio)
音楽:鷺巣詩郎
出演:緒方恵美、 林原めぐみ、三石琴乃ほか

安定性とスピードが実現させた短期での制作
3DCGの導入は、TVシリーズで簡略化した初期設定に改めて立ち返り、表現の復元・強化をもたらした。「序」の最大の見せ場である「ヤシマ作戦」は、その最たるものだ。CGでベースアップされた画面に、変圧器など手描きの作画が加わり、画の密度を高めている。作戦周りのモブシーンでは、重機や電源車などがCGIで描かれた
第3新東京市が使徒迎撃システムへと移行する様子は圧巻。これら兵装ビルには全て輪郭が施されている。庵野監督は、キャラクターには輪郭線を描くべきであり、背景美術以外は見せるべきキャラクターだとしている。ビルの輪郭線は、CGIの導入で可能になった
大口径機関砲を装備したビル群の設定画。兵装ビルは、“ヱヴァンゲリヲン”における特徴的な映像の1つ。TVシリーズで平面的だったビル群は、3DCG制作となったことでボリュームが増し、庵野監督により詳細な武器設定が加えられた

人類の約半数を消し去った未曾有の大災害“セカンド・インパクト”。世界が安定に向かう中、14才の少年・碇シンジは、父親に呼ばれて第3新東京市へと向かう。彼を待っていたのは、特務機関NERVと、人類の最後の砦とされる巨大人型兵器「エヴァンゲリオン」。シンジは、そのパイロットとして、人類を襲う謎の生命体“使徒”との戦いへと追い立てられていく。

庵野秀明監督は、今年2月に発表された所信表明で、「映像制作者として、改めて気分を一新した現代版のエヴァンゲリオン世界を構築する」と述べている。実際、新劇場版第1弾『序』は、TVシリーズの原画・動画・レイアウトなどを素材に、新作画で構成された。まさに“再構築”された映像と言える。

3DCGを本格導入して制作する新しい劇場版「エヴァンゲリオン」の話が、鬼塚大輔氏の元にもたらされたのは、2006年の6月。その後、鬼塚氏と面識のあった小林氏の参加も決まり、同年の夏頃には、小林氏がモニターやモデリングを、鬼塚氏がアニメーションを、CGI監督として分業する方向が決められた。庵野監督が、アニメーション制作スタジオ「スタジオカラー」を設立したのはその頃だ。

当時、既に公開日は決まっていたという。スタジオカラーには、監督陣に加え、作画監督から、美術監督、CGI、色指定まで、各部署セクションの長となるスタッフが集められた。監督陣の指示が、その場で各部署のトップに直接伝わる。指示系統を効率化したスタジオの在り方は、短期間での完成実現に大きく貢献している。

プリプロの起ち上げから完成まで、わずか1年。総カット数1700の内、CGIのカットが約300。実際の画面には反映されないが、作画の参考素材として作られたものまで含めると、CGIの分量は膨大である。しかし、まとまった量のレイアウトが上がってきたのは2007年の3月。各社へのCGI発注が行われたのは3月の中盤近くで、実質的な作業期間は半年を切っていた。CGIで作られることになっていた第3新東京市も、モデリングに入れたのは、5月、6月のタイミングだ。「ギリギリというより、リミットを超えていました」(小林氏)

その厳しい期間での制作を可能にしたのが、3ds Maxである。「長年使い慣れているツールであることも含め、確実に期間がないので、一定のパフォーマンスを安定して引き出すことができ、かつ作業をスピーディにこなせるツールはと考えると、3ds Maxしかありませんでした」(鬼塚氏)。

「まず、生産性が高い。細かく設定しなくても、ある程度のところまではサクッと作れる点が、一番の魅力だと思います。アニメの場合、レンダラーやマテリアルを事細かく設定することはそれほどありません。例を挙げれば、モブシーンのキャラクターをたくさん動かしましょうとなったときに、そのセットアップをゼロからやっていたら、間に合わない。しかし、Character Studioを使えば、1日5~6体のセットアップができます。今回のような短期で完成できたのは、3ds Maxだからこそでしょう」(鬼塚氏)

今回、新劇場版のCGIチームが目指したのは「特撮」だ。庵野監督がCGIに望んだのは、実写における“特撮”のイメージで、アニメーションに対する“特撮”をCGIで行うことだった。

まず、第3新東京市の兵装ビルや“使徒”の表現力は、3DCGにより大幅に高まった。かつて、技術・予算などの問題から諦めることとなった庵野監督のアイデアは、今回、余すことなく再現され、タイトルに冠された“新“を強く印象付けている。中でも、第6使徒(旧シリーズでは第5使徒)のスケールアップは大きい。イメージコンセプトは「四次元の立体を三次元に投影したもの」。その複雑なイメージの再現を可能にしたのは、新たに開発された3ds Maxのスクリプトである。

しかし、CGIの役割はそれだけではない。主たる用途は、「CGIだと悟られてはいけない細かい部分」だと、鬼塚氏は言う。画面のあちらこちらで見られる車や電柱、戦闘機など、流用性のあるものはCGIだ。「作画とCGIの境界は曖昧」(鬼塚氏)であり、シーン毎に、作画とCGIのどちらかにするかが検討されたという。「飛んでいる戦闘機はCGIですが、例えば、墜落するUN戦闘機を避けて、ミサトの車がバックする冒頭のシーン。戦闘機が壊れるというような派手なアクションは、まだまだ作画の方が格好いいんです」(鬼塚氏)。多くのCGIは、画面を支える“地味”な役割に徹している。

「“エヴァンゲリオン”自体にも、作画とCGIが混ざっています。発進のシーンなどでは、前のカットはCGIだけど、次のカットは作画、次はまたCGIでという具合に。エヴァ自体の表情が必要であれば作画で、ディテールを要するところではCGIを全面に押し出す。(作画を補完するように)作画とCGIを挟み込みながらシーンを作っていきました」(小林氏)

“エヴァ”らしさを出すために施されたCGI的工夫も多い。FFD機能の多用は、その特徴的なものの1つだ。「手前は広角で、奥は望遠のように見えるパーツが多く必要でした。カメラでシミュレーションして、モデルを変形させるようにしたかったんですが、FFDで3Dのオブジェクトを変形させることで、その効果を形にしています」(鬼塚氏)

“エヴァ”らしさという意味では、動画のタイミングが非常に重要だ。しかし、秒間24コマを均一に自動で割ると、その“らしさ”が失われる。そこで、動画におけるコマ抜きの手法をCGIでも利用した。

「24枚全てがフルコマではなくて、途中、中抜きをしています。早いところはコマを抜き3コマで、ゆっくり見せたいところは1コマでというようなタイミングの指示返しは、かなり繰り返されています」(鬼塚氏)


大量データの計算を支援した複数のセルシェーダー
車や、群体としての戦闘機、建築物など、繰り返し使えるようなものはCGI。「派手な見せ場はCGより作画の方がいいと思うんです。(CGIを多用していますが、画を底上げできるような使い方で)特撮的なセット作りがメインです」(鬼塚氏)
武器など、エヴァンゲリオン初号機周りのアイテムはCGIで作られた。初号機自体は、手描きの作画とCGIが併用されている。しかし、手描きのような見栄えを重視した“非現実的”なアングルを3DCGで作るのは難しい。庵野監督とメカニック作画監督の本田雄氏の監修の元、モデリングには相当苦労したという。モデリングは小林和史氏が担当

「エヴァンゲリオン」は、セルライクな画面作りにこだわった作品だ。新劇場版でもそれは変わっておらず、“リアル”を目指すためのCGは使われていない。よりセルライクに見せるための輪郭は、キャラクターだけでなく、遠景以外の建造物、兵装ビルや電柱にも施された。

「画にラインを出す時には、スムージンググルーブをきれいに分けて、線を出す出さないの設定をしなければなりません。チェック時に、設定とモデルが合っているかどうかを見比べ、この部分に線を足したいとか、デティールが欲しいといった監督の要望に応えつつ、手を加えていく。でも、重くなればなるほど、アウトラインの計算が始まる前に落ちてしまうんです。ここで、3ds Maxに、使用可能なセルシェーダーが複数あることが役立ちました。標準のInk`n PAINTのほか、finalToon、illustrate、Pencil+という3つの外部プラグインをシーンに応じて、どれを使えば上手くいくかを判断して、使い分けています」(鬼塚氏)
「レンダリング時間に関しても、どのプラグインが一番速く計算できるのかを試して、1枚当たり一番速く上がるものを使うなどしていました。セルシェーダーを選べたことは、非常に良かったです」(小林氏)

新劇場版「ヱヴァンゲリヲン」は、まだ始まったばかり。公開は3期に分かれており、前編の「序」に中編の「破」が続き、そして、後編と完結編からなる「急」+「?」へと続いていく予定だ。

「新劇場版4部作は、Maxで作っていくと思います。切実な問題は、扱えるデータ量。大量のデータを効率よく回せるようになれば素晴らしいと思う。バージョン9より、64bit対応になったことで強化されたパフォーマンスに、期待したいです」(鬼塚氏)

「現場の人間としては、ソフトウェアとしての足固めが一番ありがたい。基本的な部分のレベルアップと、Maya等との機能の親和性がより高まっていくことを期待しています」(小林氏)

導入製品/ソリューション

導入目的

  • 3DCGによる、意図した映像表現の実現化
  • 短期間での映画制作を可能にする効率的な環境の構築
  • 期待するパフォーマンスを恒常的に引き出せる安定性

導入効果

  • 柔軟な機能性により、全体の制作時間を短縮
  • Character Studio活用による生産性の向上
  • 初期の構想以上に、豊かな視覚効果を得られた映像表現
  • 複数のセルシェーダーが密度の高い画面作りを可能に

今後の展開

  • 劇場版全4部作の効率的かつ高品質な制作
  • パフォーマンスの向上による、大量データへの対応
  • Autodesk Mayaとの連携強化