人類の約半数を消し去った未曾有の大災害“セカンド・インパクト”。世界が安定に向かう中、14才の少年・碇シンジは、父親に呼ばれて第3新東京市へと向かう。彼を待っていたのは、特務機関NERVと、人類の最後の砦とされる巨大人型兵器「エヴァンゲリオン」。シンジは、そのパイロットとして、人類を襲う謎の生命体“使徒”との戦いへと追い立てられていく。
庵野秀明監督は、今年2月に発表された所信表明で、「映像制作者として、改めて気分を一新した現代版のエヴァンゲリオン世界を構築する」と述べている。実際、新劇場版第1弾『序』は、TVシリーズの原画・動画・レイアウトなどを素材に、新作画で構成された。まさに“再構築”された映像と言える。
3DCGを本格導入して制作する新しい劇場版「エヴァンゲリオン」の話が、鬼塚大輔氏の元にもたらされたのは、2006年の6月。その後、鬼塚氏と面識のあった小林氏の参加も決まり、同年の夏頃には、小林氏がモニターやモデリングを、鬼塚氏がアニメーションを、CGI監督として分業する方向が決められた。庵野監督が、アニメーション制作スタジオ「スタジオカラー」を設立したのはその頃だ。
当時、既に公開日は決まっていたという。スタジオカラーには、監督陣に加え、作画監督から、美術監督、CGI、色指定まで、各部署セクションの長となるスタッフが集められた。監督陣の指示が、その場で各部署のトップに直接伝わる。指示系統を効率化したスタジオの在り方は、短期間での完成実現に大きく貢献している。
プリプロの起ち上げから完成まで、わずか1年。総カット数1700の内、CGIのカットが約300。実際の画面には反映されないが、作画の参考素材として作られたものまで含めると、CGIの分量は膨大である。しかし、まとまった量のレイアウトが上がってきたのは2007年の3月。各社へのCGI発注が行われたのは3月の中盤近くで、実質的な作業期間は半年を切っていた。CGIで作られることになっていた第3新東京市も、モデリングに入れたのは、5月、6月のタイミングだ。「ギリギリというより、リミットを超えていました」(小林氏)
その厳しい期間での制作を可能にしたのが、3ds Maxである。「長年使い慣れているツールであることも含め、確実に期間がないので、一定のパフォーマンスを安定して引き出すことができ、かつ作業をスピーディにこなせるツールはと考えると、3ds Maxしかありませんでした」(鬼塚氏)。
「まず、生産性が高い。細かく設定しなくても、ある程度のところまではサクッと作れる点が、一番の魅力だと思います。アニメの場合、レンダラーやマテリアルを事細かく設定することはそれほどありません。例を挙げれば、モブシーンのキャラクターをたくさん動かしましょうとなったときに、そのセットアップをゼロからやっていたら、間に合わない。しかし、Character Studioを使えば、1日5~6体のセットアップができます。今回のような短期で完成できたのは、3ds Maxだからこそでしょう」(鬼塚氏)
今回、新劇場版のCGIチームが目指したのは「特撮」だ。庵野監督がCGIに望んだのは、実写における“特撮”のイメージで、アニメーションに対する“特撮”をCGIで行うことだった。
まず、第3新東京市の兵装ビルや“使徒”の表現力は、3DCGにより大幅に高まった。かつて、技術・予算などの問題から諦めることとなった庵野監督のアイデアは、今回、余すことなく再現され、タイトルに冠された“新“を強く印象付けている。中でも、第6使徒(旧シリーズでは第5使徒)のスケールアップは大きい。イメージコンセプトは「四次元の立体を三次元に投影したもの」。その複雑なイメージの再現を可能にしたのは、新たに開発された3ds Maxのスクリプトである。
しかし、CGIの役割はそれだけではない。主たる用途は、「CGIだと悟られてはいけない細かい部分」だと、鬼塚氏は言う。画面のあちらこちらで見られる車や電柱、戦闘機など、流用性のあるものはCGIだ。「作画とCGIの境界は曖昧」(鬼塚氏)であり、シーン毎に、作画とCGIのどちらかにするかが検討されたという。「飛んでいる戦闘機はCGIですが、例えば、墜落するUN戦闘機を避けて、ミサトの車がバックする冒頭のシーン。戦闘機が壊れるというような派手なアクションは、まだまだ作画の方が格好いいんです」(鬼塚氏)。多くのCGIは、画面を支える“地味”な役割に徹している。
「“エヴァンゲリオン”自体にも、作画とCGIが混ざっています。発進のシーンなどでは、前のカットはCGIだけど、次のカットは作画、次はまたCGIでという具合に。エヴァ自体の表情が必要であれば作画で、ディテールを要するところではCGIを全面に押し出す。(作画を補完するように)作画とCGIを挟み込みながらシーンを作っていきました」(小林氏)
“エヴァ”らしさを出すために施されたCGI的工夫も多い。FFD機能の多用は、その特徴的なものの1つだ。「手前は広角で、奥は望遠のように見えるパーツが多く必要でした。カメラでシミュレーションして、モデルを変形させるようにしたかったんですが、FFDで3Dのオブジェクトを変形させることで、その効果を形にしています」(鬼塚氏)
“エヴァ”らしさという意味では、動画のタイミングが非常に重要だ。しかし、秒間24コマを均一に自動で割ると、その“らしさ”が失われる。そこで、動画におけるコマ抜きの手法をCGIでも利用した。
「24枚全てがフルコマではなくて、途中、中抜きをしています。早いところはコマを抜き3コマで、ゆっくり見せたいところは1コマでというようなタイミングの指示返しは、かなり繰り返されています」(鬼塚氏)