ユーザ事例

ホッタラケの島
~遥と魔法の鏡~ 2


©2009 フジテレビジョン/Production I.G/電通/ポニーキャニオン

私たちにとって、Maya はあって当然の空気みたいな存在です。だからあらためて意識することは少ないんですが、今回は大手 CG 制作会社が揃って協力し、あらためて業界のスタンダードとしての強みを感じましたね。もっとも個人的には、むかし Maya で初めて触れたペイントエフェクトやフルイドエフェクトのように、他に無いユニークな機能をポンと出してくるところが、Maya の大きな魅力だと思っています。また何か斬新な、面白い機能が出てこないか――今もひそかに期待してるんですよ。

『ホッタラケの島 ~遥と魔法の鏡~』
CG 監督
長崎高士 氏


2D+3D が高度なレベルで融合した世界観


株式会社ポリゴン・ピクチュアズ
長崎高士 氏

株式会社ポリゴン・ピクチュアズ
牧野治康 氏
ポリゴン・ピクチュアズといえば、わが国を代表する 3D CG 制作スタジオの 1 社である。そのポリゴン・ピクチュアズのもとへ、これも日本有数のアニメーション制作会社・Production I.G から協力依頼があったのは 2008 年半ばを過ぎた頃。内容は Production I.G が 4 年前から制作を進めていた長編劇場用アニメーション、『ホッタラケの島~遥と魔法の鏡~』の CG パートの制作である。日本ではまだほとんど例のない、フル CG による手付けアニメーション作品。しかも制作期間は 1 年弱という厳しいスケジュールのプロジェクトだったが、同社はその依頼を快諾した。

「私自身、話を聞いてすぐ参加したいと思いました」。そう語るのは、今回のプロジェクトで CG 監督を担当した長崎高士氏だ。

「2D アニメの Production I.G と 3D CG の当社がコラボすれば、今までにない面白いことがやれると直感したんです」。しかし、その一方で与えられたスケジュールはきわめて短く、彼らの作業量が膨大なものとなるのも確実だった。特に手付けにこだわったアニメーションは、ポリゴン・ピクチュアズと IGFX (Production I.G の 3D スタジオの名称)では制作しきれない。そこで、さらに多数の制作会社が協力することになったのである。ラインプロデューサとして参加した牧野治康氏は語る。

「これだけ大手スタジオが揃ったのは珍しいでしょう。共通点は Autodesk Maya を使っていること。Maya は大手の多くが採用するデファクトスタンダードだから当然ですが」。いわば Maya ユーザが結集したプロジェクトとなった制作現場は、長崎氏の期待どおり Maya の柔軟性をフルに生かす一種の実験場となった。

「例えば今回、背景も 2D では作りきれず 7 割を 3D で作っています。難しいのは 2D と 3D を繋ぐ部分。ここで違和感を感じさせたら台無しです。そこで背景美術の美峰さんに協力を仰いだんです」(長崎氏)。つまり、2D パートの背景美術を制作した美峰さんの担当者に筆で手描きしてもらい、それを CG のテクスチャとして使用。2D/3D 間で全く違和感のない世界観を創りだしたのである。

「勉強になりましたよ。たとえば室内のマッピングを貼る時、私たちは俯瞰から 2~3 個で貼り付けますが、美峰さんが室内からのアングルで作らなければ空気感が出ないというんです。そこでカメラマップ風に 1 シーンで 20 ショットも貼り付けました。手間はかかりましたが、確かに仕上が全然違いましたね」(長崎氏)

多様なノウハウ・技術のコラボレーションによる新しい表現


2D の背景と 3D のキャラクタそれぞれの良い所を生かしながら、両者を違和感なく融合した独特のルックが大きな特徴


不思議な住民たちが暮すホッタラケの島の街角を作る。背景も 2D だけでは作りきれず、7 割は 3D で制作


可愛く、表情豊かなヒロイン“遥”のフェイシャルリグは、Production I.G の 3 大アニメーターの 1 人である黄瀬和哉氏が描いた“表情集”に基づいて制作した



Maya による CG パートの制作において、長崎氏が最も力を注いだものの 1 つが、2D 背景に 3D キャラクタを違和感なく融合させた独特のルックである。3D CG のアニメーションでは、しばしばキャラクタも手描きのセルアニメ風に処理されるが、「従来のセルアニメスタイル」に落とし込むこのやり方を、長崎氏は採用しなかったのだ。

「手付けのフル 3D という膨大な情報量を持つアニメーションと、CG 独特のグラデーションの利いたシェーディングなど CG 自体が持つ良い所をスポイルせずに出したかったんです。それぞれの素材の良い所を生かしつつ、何とかコンポジットでなじませようということですね」。そう語る長崎氏の言葉に、牧野氏は苦笑いを浮かべる。

「しかし、この 2D/3D のバランスを取ることがどれ程難しいか、最初誰も気付かなかったんです。こうしたルックの作品は他にもあると思ったんですが、調べてみると意外なほど無い。参考にできる例が見あたらないのです」(牧野氏)。実際、長崎氏らは最初に調整し始めたカットで半年近く試行錯誤していたが、Production I.G の撮影監督の協力できめ細かな色指定を反映させていくことで、徐々に両者が美しくなじむ落とし所が見えてきたのだという。まさに 2D/3D 両者のノウハウが、刺激し合い融合し合って生まれたのが『ホッタラケの島』のルックなのである。

こうした 2D/3D のコラボレーションは、今回の制作現場で他にも無数に生まれている。たとえばヒロイン“遥”のフェイシャルだ。今どきの女子高生である明るく活発な“遥”へ、いかに観客を感情移入させるか――それがフェイシャルにおける長崎氏の大きな課題となったのである。

「遥はとにかく可愛くイキイキした表情でなければなりません。そこで Production I.G の 3 大アニメーターの 1 人、黄瀬和哉さんに遥の“表情集”を描いてもらったんです。この表情集に忠実にフェイシャルリグを作ることで、かつてない豊かで柔らかい表情を創りだせたと思います」(長崎氏)。

2 人の話を聞いていくと、スケジュールの厳しさにも関わらず、その制作現場はつねにより高い品質を求めて新しい表現へ挑戦を繰り返していたことが分かる。このチャレンジ精神に満ちた制作環境を支えたのが、Maya が結んだ制作会社ネットワークだったのはいうまでもないだろう。

「今回あらためて感じましたが、大作はもはや 1 社では作れません。その意味で今回、Maya を核に協業のプラットフォームを統一できたのは大きな収穫。ぜひ今後に生かしたいですね」(長崎氏)


【導入製品/ソリューション】【導入目的】
  • フル 3DCG 長編作品制作の主力ツールとして
  • 同製品を主力とする CG スタジオ各社の協力確保
  • 多数のスタジオによるプロジェクトの共通基盤として
【導入ポイント】
  • ユーザの多さ/多数の CG スタジオに普及
  • 全く新しい技術・表現を可能にする柔軟性の高さ
  • Maya 採用を望む制作現場の声の多さ
【導入効果】
  • 2D+3D の全く新しい「ルック」開発
  • 多数の CG スタジオのノウハウの共有&結集
  • 最適化された制作環境のスムーズな構築
【今後の課題】
  • Maya を主体とするコラボレーション環境の充実
  • 2D+3D の「ルック」のさらなる洗練
  • さらに効率的な制作パイプラインの開発
【作品概要】

監督:佐藤信介
脚本:安達寛高 佐藤信介
音楽:上田禎
企画設定協力:JINCO
製作:フジテレビ プロダクション I.G
配給:東宝
©2009 フジテレビジョン/Production I.G/電通/ポニーキャニオン
http://www.hottarake.jp/