2013年

SketchBook Pro 活用事例:イラストレーター形部一平氏

Nike や SONY、コカコーラ等々、世界のトップ企業の広告イラストやキャラクターデザインを手がける形部一平氏は、日本を代表するクリエイターの一人です。独特のキャラクターとダイナミックかつビビッドな画風で絶大な支持を集める同氏が、今回「Autodesk SketchBook Pro」による新作に初挑戦しました。早速その使用感等について伺いました。


■「いかにキャラクターを立てるか」に力を注ぐ

―― 元々はゲーム会社に勤務してらしたとか?

形部氏そうです、キャラクター・デザイナーをやっていたんです。それで、デザインしたキャラクターが登場するゲームが世に出ると、それをきっかけに個人的にイラストやデザインの仕事をもらえるようになり、独立しました。だからというわけではありませんが、イラストに関しては、キャラクターをメインに持ってくる作風です。キャラクターをメインにすることで、イラストに物語や世界観を持たせるわけですね。そこに見る人を飽きさせない、いろんなディティールを盛り込んでいくようにしています。

―― では、いちばん大切にしているのはキャラクターですか?

形部氏そうですね、「いかにキャラクターを立てるか」に最も力を入れています。キャラクターが成立しなければ、ぼくの絵は死んでしまうので。といっても、それは最初からあるわけじゃなくて、初めは頭の中にビジョンというか、おぼろげなイメージがあるだけなんです。ところが描いていくうちに、自分が意識していたものとはどんどん違う方向へズレていってしまうんですね。で、そういう流れがひと通り流れた後で、ある時キャラがカチッと立ち上がるときが来る。その瞬間、絵の物語性とか背景となる世界観がパッと開けて、そこからようやくその作品を描き進めていけるようになります。そうなれば筆も一気に加速するんですが、そこまで持っていくのに毎回苦労しています(笑)

―― どんなツールを使ってらっしゃるのですか

形部氏メインで使っているのは、定番どおりの Photoshop と Illustrator です。鉛筆でスケッチを描いてパソコンに取込み、Photoshop で色付けします。で、また Illustrator に持っていってベジェ曲線でトレースして仕上げていくのです。線がパキッとして塗り分けもハッキリしている絵こそ自分の持ち味だと思うので、フリーになってからはずっとこのやり方を続けています。けっこう手間のかかる手法ですが、永年続けてきたこともあり、単純な作業時間という点ではどんどん短縮しました。ただ、効率化という意味ではまだまだだと思うので、これからはそういう取組みもやっぱり必要になるかな、と思っています。その意味でも、今回「Autodesk SketchBook Pro」を試したのは刺激になりました。

 パキッとした線をビビッドに描く

―― 初めて使った SketchBook の感触はいかがでしたか?

形部氏一番に感じたのは「線のきれいさ」です。前述のとおり、私の絵はベジエを使って仕上げる線がパキッとしたものなので、何となくぼんやりしたタッチが入ってしまう通常のペインツールは合いません。ところが、SketchBook はペイント系にもかかわらず、そのあたりがきわめてパキッと実にビビッドに出せる。ぼくにとっては、昔の作風をそのまま再現できる数少ないペイントツールと感じました。もちろん、SketchBook もフリーハンドで描きますからタッチも出るわけで。ぼくにとってはちょうど良い感じというか、今までの作風から少しだけステップアップできる「兆し」みたいなものを感じられました。

―― 効率化という点ではいかがですか?

形部氏 SketchBook のようなペイント系ツールは、それこそ下絵から仕上げまで一気に一画面でやってしまえるので、描くスピードでいったら従来の倍くらいの速さで描けたんじゃないかと思います。もちろん「紙と鉛筆」で描く気持ちよさと手軽さ、速さには及びませんが、紙の場合、いざそのスケッチから色塗りやペン入れといった次ステップに移ろうとするとけっこう手間がかかるんです。ぐっと敷居が高くなるというか……。ところが SketchBook なら、それらの行程をまったく意識することなく、その上にマチエールを乗っけたり、写真を貼りつけたりした上で、さらに下絵の線を乗せたり...行ったり来たりが簡単にできるんです。これこそがデジタルで絵を描く醍醐味だと思いましたね。

――そのほか気に入った機能などありますか?

形部氏まず「投げ輪ツール」ですね。他のソフトのそれとはちょっと使い勝手が違い、クセがあって最初は少し取っつきにくいんですが、いざ本格的に使い始めるとこれがすごく手に馴染むんです。しかも、そこに拡大縮小や回転などの機能も付いているので、楽しく、また使いやすい機能と感じました。また、ぼくはカラーリングにこだわるたちで、色塗りのとき、色のマッチングに多くの時間をかけるのですが、SketchBook は筆圧によって塗りの面を大きく取ることができ、思いどおりにビビッドにスカッとスピーディに色を塗ることができました。この点でもすごく力になってくれたと思います。

 ■シンプル & 低価格な導入しやすいツール

―― それだけ使いこなすには時間もかかったのでは?

形部氏それが、実は説明書を見もしないでぶっつけで使い始めて、すぐに使えるようになったんです。少なくとも自分が使いたいと思った機能については、ですが。元来、ぼくはそれほどいろいろ機能を駆使して難しいことをするタイプではありませんし、SketchBook 自体きわめてシンプルなツールなので、こんなやり方で使うことができたんだと思います。実際、ぼくが使ったのはペンツールに輪投げツール、消しゴムツールくらい。それでも充分に使える実感がありましたよ。

―― 具体的に何日で使えるようになったのですか?

形部氏最初 2 日ほど、説明書も読まずになんとなく機能を手探りしながら、最初の作品を描いていきました。そうして描いていくうちに、だいたい自分が使うぶんには十分だ、と思えるくらいになったんです。例の投げ輪ツールは多少苦労しましたが(笑)。で、そこからまた 1 週間くらい別の仕事をやってから、あらためて SketchBook に戻って本格的に使い始めたんですが、その時はもうほぼ普通に使えるようになっていましたね。だから練習期間は実質 2 日です。もっともその間触っていたのはほぼペンツールだけで、特別な機能など何も使っていませんから、あまり威張れたものではありません。まぁそれだけシンプルで分りやすい、敷居の低いツールなんだと思います。

 

【形部氏が SketchBook Pro を使用して描いた最初の作品】

―― シンプルなツールということがフィットした?

形部氏そうですね。パキッとしたものを容易に表現できる、という点で、もともとぼくが持っていた画風にぴったりマッチして上手くいった感じです。これが複雑な、アナログ的なものを詳細に表現するようなツールだったら、ぼくにとっては逆に余計な機能になっちゃうので、こんなふうに上手くはいかなかったと思います。しかも、SketchBook のこのシンプルさというのは、そのまま導入の容易さにつながります。値段もすごく安いので、初心者の方が取り入れるのに最適なペイントツールなのではないでしょうか。

【形部氏が SketchBook Pro を使用して描いた 2 作品目】

■フリーハンドで描ける「強さ」を生かす

―― 今後の制作の方向性はお考えですか?

形部氏 SketchBook を使ってみて思ったのですが、やはりフリーハンドで描けるというのは「強い」ですね。今まで下絵は紙に描いてきましたが、今回、もうさすがにデジタル化してしまおうかな、という気分になっています。理由は、前述したように下絵から仕上げまで一気に行けるスピードや手軽さというメリットがあるのはもちろん、下書きが際限なく増えるのもどうにかしたいと思っているんです。さすがに中途半端なラフとかは捨てますが、それ以外は何となく捨てがたいというか……。ゲーム会社に務めている頃からずっと保存し続けているので、下書きだけでも、いまや凄い量になっているんですよ。デジタル化してしまえば、それもゼロにできますから(笑)。

―― 「フリーハンドで描ける強さ」とは何でしょう?

形部氏手で描くのは、やはり楽しいんですよ。ベジエで描くやり方がぼくの画風の基盤ではあるんですが、もう 12 年も続けているので、正直いって「作業」になってしまっている部分がないとは言えません。そういう作業はやはり苦痛で……。特に最後の仕上げでやっている部分は辛いので、そのあたりを「紙と鉛筆」で描くような感覚で最後まで一気に進められたら、やっぱり楽しいと思うんです。実際、最近はアニメの設定の仕事などもちょこちょこやってるんですが、そういう仕事はフリーハンドで描いて出しておりストレスが少ないというか、やはり楽しいですね。ただ、12 年も同じスタイルでずっとやってきただけに、「変える」ことにはけっこう不安もあります。一気に、とはなかなか行きません(笑)

―― 不安というのは?

形部氏今回やってみて思ったのですが、変えること自体は、それこそ SketchBook 等を使えば、さほど難しいことではありません。問題はお客様がそれを受け入れてくださるかどうか。ずっとぼくの絵を見てくれている人に言わせると、タッチにしても描いている内容にしても、ぼくの絵は 12 年間なにも変わってないそうです。だとしたら、それがお客様に評価されているのですから、新しいスタイルに変えた時に受け入れてもらえるか、不安なわけです。まあ、ぼくの場合「評価されたい」という気持ちがすごく強くて、それが全ての原動力みたいな所があるので、フリーハンドで描いた絵を誰かに「いいね!」と言われたら、その瞬間フリーハンドに行っちゃうかも知れませんが(笑)。

―― 具体的な計画はお有りですか

形部氏絵自体は大きくは変えずに、まずはタッチだけ若干変えていくようなものになると思います。とにかくフリーハンドで描けるのは強いので、なるべく早く実験したいですね。実は最近、仕事でメカっぽいものの仕事が増え、イラストでもそういうメカ的なものに力を入れていこうと考えているので、ちょうど良いかも知れません。メカの複雑なディティールをベジエで描いていくのはやはり手間的に大変だし、SketchBook 等のペイント系ツールでやってみたいですね。

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形部一平氏について

大阪府出身。神戸芸術工科大学を卒業しゲームメーカーに勤務後、独立。現在はフリーランスのイラストレーターとして、雑誌広告やゲーム、アニメーション作品のイラストレーションやキャラクターデザインなど国内外で活躍中。【主な仕事】adidas japan 2002 ワールドカップ広告、SONY WALKMAN 形部一平モデル Nike Free ワールドキャンペーン 2011 他多数