【ルポ】新幹線型滑り台の開発ストーリー
街中の公園やこども広場、幼稚園や小学校の校庭など、子どもの遊び場に欠かせないさまざまな遊具──この遊具も進化していることをご存知だろうか。
日都産業はこの公園遊具の専門メーカー。創業 70 年余の老舗として業界を牽引してきたが、近年は海外製品や異業種の参入も進み、競争も激化している。同社デザイン課の小林原生氏は語る。
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E7 系新幹線の公園遊具を開発している時に、当社としては初めて Inventor で作った3Dデータから直接マシニングによって FRP 造形物の原形を作る手法を取りました。あの時は、スケジュールが非常に厳しくて造形師に依頼する時間もなく、制作側の要望でマシニングを採用しました。しかし、最近は造形師さんの数も減ってきており、コストの問題もあって原形を機械加工でやるのが当たり前になりつつあります。3D モデルから直接原形になるわけですから、私たちが Inventor をどう使うかがとても重要になります。もちろん、今も造形師さんでなければできない複雑な造形が必要になることもしばしばありますが、Inventor と私たちが進化していけば、いつかそれもデジタル造形できるようになるに違いありません。
—―小林 原生 氏 , 日都産業株式会社 , 羽村工場 技術部 デザイン課 課長
街中の公園やこども広場、幼稚園や小学校の校庭など、子どもの遊び場に欠かせないさまざまな遊具──この遊具も進化していることをご存知だろうか。
日都産業はこの公園遊具の専門メーカー。創業 70 年余の老舗として業界を牽引してきたが、近年は海外製品や異業種の参入も進み、競争も激化している。同社デザイン課の小林原生氏は語る。
「開発も安全性や楽しさに加え、デザイン性やプレゼン手法が重要になっています。そこで力を発揮するのがデザイナーとエンジニアが連携した開発体制と、その共創を支える Autodesk Inventor です。」事実、同社ではデザイナー・エンジニア共に Inventor を使い、シームレスなやりとりから短時間で質の高い公園遊具を生み出している。そんな同社の事例を小林氏に紹介してもらった。
日都産業株式会社 羽村工場 技術部 デザイン課 課長 小林原生 氏
「さいたま市の鉄道博物館をご存知でしょう。日本と世界の鉄道遺産と資料を網羅し大人気の鉄道博物館です。その屋外エリアに“てっぱくひろば”という広場があり、鉄道をモチーフにした遊具が並んでいます。」
中でも目立つのが、北陸新幹線E7系を模した大型の新幹線型滑り台。多少のデフォルメはあるがE7系とほぼ同スケールで、エッジの効いた側面のラインや青とゴールドのカラーリングも見事に再現されている。子ども達に人気のこの滑り台こそ同社が開発した特注遊具である。
「てっぱくひろば開設時にまず E5 系の新幹線型滑り台を作り、今の E7 系が 2 代目となります。新幹線は大きく、1/1 スケールでは“鼻”部分が長く、そのまま滑り台にすると緩やかすぎて滑れないのです。」当然多少のデフォルメが必要になるが、E5 系のイメージは忠実な再現が求められる。形状やカラーリングに繰り返しチェックが入ったが、小林氏は Inventor により実際のスケール感で作ったモデルをInventor Studio でビジュアル化し、分かりやすくプレゼンすることで素早く対応していった。しかし、同社最大級の FRP 造形物だけに、デザインしたものが実際に作れるかどうか? コスト面は問題ないか? 製造段階の作り勝手はどうか?──さまざまな課題が生まれ、初期段階から FRP 製造工場とやりとりが必須となった。
同社最大級の FRP 造形物 E5 系
「作り勝手やコスト面の確認は Inventor で図面に書きだして確認するなど、同じモデルデータを元に複数の作業を並行して進めて対応していきました。」もちろん設計もデザイナーのデータをそのまま引き継いで、Inventor により形状確認や安全確認を行って実施図を仕上げていったのである。まさに Inventor を核に各部門が緻密に連携することで、難度の高い課題をクリアできたのだ。
その後、日都産業は 2 代目となるE 7 系の新幹線滑り台を製作したほか、京都鉄道博物館ではドクターイエロー型滑り台も製作。大型 FRP 造形による鉄道車輌遊具という新分野を開拓し続けている。
京都鉄道博物館のドクターイエロー型滑り台
前項では「新幹線型滑り台」の開発ストーリーをお送りした。第 2 部ではその主役である日都産業の小林原生氏に対し、オートデスク技術営業本部のテクニカル セールス スペシャリストである清水元がインタビュアとなって、さらに深くお話をうかがっていく。
清水 新幹線型滑り台の開発ストーリー、たいへん興味深くうかがいました。お話ではその後も E7 系やドクターイエローを開発されたそうですが、 2 回目以降の開発はスムーズに進んだのですか。
小林氏 ええ。E7 系の時は 2 度目ですし、わりとスムーズに進めることができました。ただ、当初は E7 系独特の車体形状の造形には苦労しましたね。ちょうど Inventor のフリーフォーム機能がアップグレードされた頃だったと思いますが、この進化したフリーフォームがあったから何とか造形できた、という感じです。
日都産業 小林氏(右)とオートデスク 清水 元(左)
清水 どのような造形だったのでしょうか。
小林氏 E5 系の時と同じく、形状とカラーリングはあるていど実物に忠実な再現を求められますが、図面や 3D モデルが提供されるわけではありません。E7系の時は鉄道博物館に展示してあるモックアップを参考にせよとの指示で、鉄博へ行って前後左右と上から写真を撮影。Inventor 上で平面に貼り付けて、それを見ながらフリーフォームで形を作っていきました。
清水 それは......なかなか大変でしたね。
小林氏 ええ、特に E7 は車輌両サイド下部の金色ラインに沿ってエッジがあり、これが前方の平らな面から徐々に高くなっていくという、高度な CG ソフトでなければ作れないような微妙なラインで......。
3 面写真を元にフリーフォームでモデリング
清水 それをInventor で?他の CG ソフトを使うか、思いきって外注してしまう方法もあったのでは?
小林氏 新ソフト習得の時間はないし、外注もしたくなかったんです。ものづくりの一番大事な所は、やはり自分で作りたいですからね。
清水 E5 系の時より難しかったのですか?
小林氏 E5系もフリーフォームで作りましたが、どうしてもできない箇所もあって。そこは図面に「ここのエッジは鋭く」とただし書きをして造形師に口頭でお願いしたんです。ところが E7 系は時間がなく、製造から「完璧な 3D モデルデータを作ってくれ」といわれてしまって……。こうなるともう造形師には頼めません。覚悟を決めてフリーフォームで作りました。もう一度作れと言われても難しいかも知れません(笑)
清水 特に難しかったのは、やはりエッジの部分?
小林氏 ええ。E7系のエッジはスムーズな面が徐々にカーブしながら、途中でふわっと消えていく実に繊細な曲面を持ったサーフェスなんです。フリーフォームがメッシュを引っ張ったり、細かくして移動できるようになったので、まぁ、なんとか作れました。
ゼブラ解析でサーフェスの連続性を検証
清水 以前は Alias もお使いだったと聞きましたが?
小林氏 でも、正直、Alias は難しくて。たまにしか使わないので操作を忘れてしまうんですよ。
清水 では、Alias で造形していた仕事も、新しいフリーフォームなら対応できるようになったのですか?
小林氏 かなり進化しましたし、私たちの仕事の範囲なら行けるでしょう。より難度の高い曲面はAliasでないと困難でしょうが、フリーフォームも類似した形は作れるようになったし工業製品なら問題ありません。
清水 フリーフォームと共に、小林さんたちの使いかたの方も進化しておられるようですね。
小林氏 たとえば提案書に載せる遊具のパースは、彩りとして背景を付けたり、遊んでいる子どもを乗せたりしています。以前はドローイングソフトで作りましたが、今は子どももフリーフォームで作っています。
清水 Inventorの中で子どもの 3D モデルを!?
小林氏 作っておけば、誰でもレンダリングすればそれなりの提案書ができます。Inventor Studio の描写も良くなったし、子どもの影もしっかり落ちるので、かなりリアルなパースができるようになりましたね。
完成した E7 系の 3D モデル
清水 プレゼンやコラボレーションの向上という点でいえば、たとえば VR にはご興味がおありですか?
小林氏 VR!それはぜひやってみたいです。たとえば、お客様と公園に行ってある場所でVRゴーグルを付けてもらい、ウチのプランを見られたら凄いな、と。
清水 Inventor データがあれば、VRED という製品で VR 化できます。Product Design & Manufacturing Collection には入っていませんが……。
小林氏 実現することができれば、非常に強力な営業ツールになりますね。実は非常に興味があります。
清水 もし Inventor データ等をお借りできれば、デモデータみたいなものを創ることもできますよ。そうすれば、実際にVRを体験していただけます。
小林氏 それはもうぜひお願いしたいですね!
清水 はい、分かりました。それにしても、最近はこういうお話がとても多くなっています。
小林氏 そうでしょうね。時代の変化と共にどんな企業も既存事業プラスαが必要になってきますが、当社の場合、地方自治体への営業手法をそのまま他業界でやっても難しいと思うんです。だから VR のような武器があれば、ある程度営業を支援できるので……とにかく、データはすぐに送りますのでぜひ!(笑)