3D プリントによる美容でセクシーさを復権

by Matt Alderton
- 2016年11月30日
3D プリントによる美
Image composite: Brandon Au

ニュージャージー州オーシャン・グローブに住むマーリン・マムフォードさんの髪の毛が抜け始めたのは、23 歳のときだった。耳の上の小さな円形の脱毛がきっかけとなり、最初はゆっくりとだったのだが、その後急激に進行。7 カ月後にはほぼ全ての髪が抜け落ちてしまい、いらだった彼女は、残りの髪を剃ってしまった。

「実際に失うまでは気付かないものですが、髪はアイデンティティの、とても重要な部分なのです」と話すマムフォードさんは、円形脱毛症と診断された。これは免疫系が理由なく毛根組織を攻撃し、抜け毛を生じさせる自己免疫疾患だ。「髪を失うことは精神的に非常に辛いことで、消耗させられます。自分を取り戻すのには時間がかかりました」。

現在 26 歳になったマムフォードさんは、アンバーブロンドのふさふさとした髪をしている。これは人毛だが、彼女自身のものではなく、かつらでもない。Cesare Ragazzi Laboratories がデザインと製造を行った、カスタムフィットの義髪だ。イタリア発の同社が特許を取得したCNC ヘア システムは、がん患者やマムフォードさんのような円形脱毛症、男性型脱毛症など脱毛に悩む人向けに、3D プリントを使って自然な見た目のヘアピースを製造する。

3D プリントによる美容 マーリン・マムフォード
義髪ヘアピース装着前と装着後のマーリン・マムフォードさん [提供: Transitions Hair Solutions]

その仕組みは、まず訓練を受けたスタイリストがクライアントの頭部の型を取り、脱毛部分を注意深くマッピング。次にスタイリストが毛髪の色や密度、触感や生え方について詳しくメモを取り、それを型と毛髪のサンプルと一緒にイタリアに送る。イタリアの研究所では、技術者が型の 3D スキャンを行って頭部のデジタル モデルを作成し、それを 3D プリントしてクライアントの頭部のレプリカを作成する。

次に抗真菌性、抗菌性の生分解性ポリマーを 3D プリント製の頭部に塗布すると、手袋のようにクライアントの頭にぴったりとフィットする、通気性に優れた頭蓋用の皮膜が出来上がる。この皮膜に、ドナーから提供された適切な色と感触の人毛を、クライアントの髪の生え方を再現するよう1 本ずつ縫い付けられる。そして完成したヘアピースがスタイリストに届けられ、医療用接着剤を使用でクライアントの頭部に取り付けられる。

全 39 行程にかかる時間は 3 カ月、費用はサイズによって異なり 3,000 ~ 10,000 ドルほどだが、クライアントにとっては、この長い時間も高額な費用にもそれだけの価値がある。

3D プリントによる美容 ディズニー ヘアスタイル3d-printed beauty Disney hairstyle
ディズニーの研究者たちはまず複雑な髪型の写真を撮り、コンピューター処理済み画像を作成して最終バージョンを 3D プリントした [提供: Disney Research]

マムフォードさんの CNC スタイリストで、ニュージャージー州ウォール・タウンシップにある Transitions Hair Solutions のオーナー、ダニエレ・グリロ氏は「素晴らしい成果が得られます」と話す。グリロ氏によると、CNC の義髪はプロが調整し、4 ~ 6 週間毎にクリーニングが必要だが、24 時間装着が可能で、就寝やシャワー、水泳、さらにはスカイダイビングの際にも付けたままで構わない。「クライアントは生まれ変わったかのようです」と、グリロ氏。「笑顔が生まれ、ハッピーになります。かつての自分を取り戻すことができるのです」。

毛髪の3D プリント
髪は、自意識にとって非常に重要なものだ。そのためウォルト・ディズニー・カンパニーの研究者たちは、3D プリントを用いてヘアスタイルを物理的に再現する、新たな方法を研究している (パーソナライズされた小さな彫像や、カスタムのアクション フィギュア、3D セルフィーなどがそれに当たる)。

Disney Research Zurich でシニア研究員を務めるターボ・ビーラー氏は「顔写真をキャプチャして再現することが、トレンドになりつつあります」と話している。「こうしたシステムは顔や身体では非常にうまく機能するのですが、髪には手こずるようで、大抵は手動でのレタッチが必要になったり、用意されたヘアスタイル テンプレートの一部しか使用できなかったりします。固体でのプリントに適した顔や身体と異なり、髪は何千もの繊維から構成されていて、性質が大きく異なるためです。それが 3D プリントによる再現を非常に難しいものにしています」。

3D プリントによる毛髪という難題の解決を実現すべく、ビーラー氏のチームは 3D スキャナーを使い、毛髪 1 本 1 本の繊維をより再現しやすい束へと「クラスター化」するのに役立つ、特殊なアルゴリズムを開発した。これは、彫刻家が石でヘアスタイルを表現する際の手法に似たものだ。

「散髪後に自分の姿を初めて鏡で見る際には、ある種の違和感を感じるものです」と、ビーラー氏。「髪は頭部のシルエットを定義するものであり、視覚的に非常に強い印象を与えます。独特なヘアスタイルの人は、そのシルエットだけで誰だか判別することができるほどです。髪型は私たちの外観の一部であり、自分の髪を希望のスタイルに整えるため、多くの人が日々かなりの時間を割いています。髪をキャプチャしないのは、個性の表現を軽視することになります」。

3d-printed beauty Tatoué at work
動作中の Tatoué [提供: Appropriate Audiences]

歯列矯正、メイクアップからタトゥーまで
髪だけではなく、3D プリント製化粧品から外科手術に至るまで、さまざまな製品にハイテクが応用されている。23 歳のエイモス・ダドリーさんは今年、自家製の透明マウスピースを使用して歯並びを矯正した。eBay で購入した歯科用プラスチックと、現在通っているニュージャージー工科大学で作成した 3D プリント製の自分の歯型を使用して、このマウスピースを作成したのだ。

また、コスメ企業 Mink を設立したハーバード・ビジネス・スクールの学生、グレース・チョイさんは、あらゆるカラーでカスタム コスメをプリントできる家庭用 3D プリンターを作成し、3D プリント製メイクアップ製品の先駆者となっている。

パリのデザイン スタジオ Appropriate Audiences の共同設立者であるピエール・エム、ジョアン・ダ=シルヴェイラ両氏のおかげで、3D プリント製タトゥーさえも可能となった。彼らが開発した Tatoué は、3D プリンターにタトゥー針を組み合わせたものだ。その成果が、自動化されたタトゥー「プリンター」だ。2013 年に誕生した Tatoué は、 Autodesk Fusion 360Dynamo Studio、ReMake (現 ReCap) により、タトゥーのデザインをキャプチャして、肌に転写できる 3D モデルに変換する。タトゥー アーティストへ、より正確に線やグラデーションを表現する手段を提供することで、アーティストに取って代わるのでなく、さらなる活力を与えようとしている。またアーティストは、世界各地のタトゥー スタジオで正確に再現できるデザインを書き出すことで、デザインを商品化することができるようになる。

3d-printed beauty Tatoué Appropriate Audiences
Appropriate Audiences は Autodesk Pier 9 ロボット ラボと連携して Tatoué をロボットに装着。こうして世界初のロボットによるタトゥーは実現した [提供: Appropriate Audiences]

エム氏とダ=シルヴェイラ氏は「タトゥー アーティストが熟知している既存のツールを用いた手法をコピーするのではなく、新たな例を提案しようというのがアイデアです」と話す。まずはシリコンベースの人工皮膚で Tatoué を検証した後、彼ら自身を含む 6 名の被験者に実際にタトゥーを施した。「単線内のカラー グラデーションなど、このマシンは手作業では不可能な処理を行えます」。

「美人も皮一重」だと主張する人々は、斬新なヘアスタイルへ挑戦したことも、それまでの自分のイメージとは違う色のリップスティックを試したことも、息を呑むボディ アート作品を肌に刻んだこともないに違いない。ひとつでも経験があれば、「3D プリントによる美容」という概念が明らかにするものを理解できるはずだ。見た目は気持ちに影響する。そして気持ちは成果に影響する。

チョイ氏は2014 年の「フォーブス誌」のインタビューで、550 億ドル市場である化粧品業界について名言を残した。「美容は、これまで大手化粧品メーカーにより定義されてきました… [テクノロジーは] 私たちに欲しいものを、欲しいときに手にする力を与えてくれます。今や、美容の定義はメーカーでも他の誰でもなく、あなた次第なのです。この権限を若い世代に手渡すことで、彼らに自信を与えることができればと願っています。ロックスターのような、確固とした自信をね」。

関連記事