橋からバンドステージまで: 建設業界で 3D プリントの存在感が上昇中

by Jeff Link
- 2018年9月26日
3D プリント バンドステージ
建設における 3D プリント技術がサイズの制約から解放され、施工者は住宅や公共構造物からコンクリート製人工サンゴ礁まで、ありとあらゆる複雑な形状を実現できるようになった [提供: Branch Technology]

建設業界における 3D プリントは、つい最近まで決して大きな存在ではなく、趣味やデザイン コンペの範疇だった。だがそんな時代も、あっという間に過去のものになりつつある。

例えばオランダのアイントホーフェン工科大学は今年 6 月、Houben & Van Mierlo Architecten の設計による方尖柱状のコンクリート製住宅を 3D プリントする計画、Project Milestone を発表した。この試みを同大学は「3D プリントによる世界初の商業住宅供給プロジェクト」だと説明している。3D プリント建設の市場は、2017 年の 7,000 万ドルから 2027 年には 400 億ドルへ成長すると産業レポートで予測されており (英文資料)、住宅供給はその市場の一部に過ぎない。

建設業界は、とりわけ複雑な形状の実現や、危険区域や僻地での建設、材料の廃棄や現場での建設コストの削減といったメリットを実現するため、3D プリントに目を向けるようになっている。3D プリント用ソフトウェアや設備の向上に伴い、建設業界の企業各社やスタートアップは、実際の製造における 3D プリントのポテンシャルを認識しつつある。業界に革新をもたらしている実例を幾つか紹介しよう。

3D プリント 橋 Oudezijds Achterburgwal
MX3D はロボットと専用ソフトウェア、溶接機を使用して全長 12 m の橋を建設。この橋はアムステルダム最古の運河であるアウデザイツ・アフテルバーフワルに架けられる予定だ。 [提供: Thijs Wolzak/MX3D]

ケースその1: 橋

3D プリントのプロジェクトは、長い間プリンターのサイズで制限を受けてきた。だが、オランダ企業 MX3D (「We Speak Robot (ロボット語を操る企業)」がキャッチフレーズ) は、6 軸の産業ロボットと専用ソフトウェア、薄い鋳造ワイヤーでステンレス鋼被覆を行う溶接機を使用して、1367 年に建設されたアムステルダム最古の運河のひとつであるアウデザイツ・アフテルバーフワル (Oudezijds Achterburgwal) に架けられる、全長約 12 m の美しい歩道橋を建設している。

Joris Laarman Labアラップ と連携し、オートデスクや ArcellorMittalHeijmansLenovo などのパートナーのサポートを得てデザインされたこの橋は、現在インペリアル・カレッジ・ロンドンで構造検証テストを受けている。MX3D 共同設立者、前 CTO のティム・ゴーチェンス氏は「こうした奇抜で実験的な橋の検証には、全く新しい手法が必要です」と述べる。「新たな手法となるのは、全てをデジタルで行う方法です。デザインを行ったら、それをソフトウェア パッケージで検証して、法令準拠の認可を得ます。ただし、プリントされる形状の材料特性については、かなり未解明な部分があります」。MX3D は、手すり部分などさまざまな位置で物理モデルの耐荷重をテストし、精密な調整を行うつもりだ。

この橋は 10 月の Dutch Design Week に出展され、全てが計画通りに進めば、2019 年にはアムステルダム市内に設置される予定だ。Alan Turing Institute の開発による橋のセンサー ネットワークが、張力や振動、ずれ、環境データをリアルタイムに収集。Amsterdam Institute for Metropolitan Solutions は、このデータをアムステルダム市のスマートインフラ網に接続する予定だ。だがゴーチェンス氏は「3D プリントは、効率性が全てなのではありません」と述べている。「暮らしにおける喜びや審美的な要素も非常に重要だと考えています。商業的な目的だけでなく、それが可能であるから作る、という場合もあるのです」。


YRYS Concept House でコラボレートする 18 組のパートナーのうち、XtreeE は実験的住宅構造用の支柱 (画像) と有孔壁を作成した [提供: XtreeE]

ケースその2: 住宅

建設業界の企業各社は 3D プリント製住宅を「最大」や「最速」、「最安」、「最高の材料効率」などと表現して注目を引こうとしている。そのデザインは世界各地から出現しており、ロシア企業 Apis Cor の質実剛健なコンクリート製住宅 (同社によればコストは 1 万ドル、24 時間以内に建設可能) や、中国企業 Winsun の巨大な廃棄物リサイクル プリンターで作成された 5 階建てマンションなどがある。

YRYS Concept House は非常に興味深いプロジェクトで、フランスの建設企業 Maisons France Confort と大型 3D プリンター メーカー XtreeE など 18 組のパートナーが建設中だ。XtreeE は、急速に硬化するコンクリート層を押し出す射出成形を使用して、上階の部屋を支える有孔壁と 4 本の構造柱を作成した。

XtreeE の共同設立者であるジャン=ダニエル・クーン氏は、フランスの建築史はコンクリートで定義されていると指摘する。ル・コルビュジエが好んで使用した材料「béton brut」(フランス語で「打放しコンクリート」を意味する) は、ブルータリズム建築の基盤となっている。だが XtreeE の運営指針のひとつは、コンクリート消費の抜本的削減にある。「この世界はコンクリートで作られています」と、クーン氏。「コンクリートの主成分であるセメントの製造は、全世界での炭素排出量の 8% に上ります。コンクリートは非常に優れた材料ですが、さらに優れた方法での活用、つまり構造上必要な箇所にのみ使用することを考えています」。

XtreeE Seaboost 多孔質コンクリート 人工礁

XtreeE と Seaboost は多孔質コンクリート製「人工礁」で不規則なトンネル様形状を具体化し、住処を追われた海産種の回帰を促進した [提供: XtreeE]

ケースその3: 人工サンゴ礁

XtreeE は、「世界初のコンクリートを用いた 3D プリント製人工サンゴ礁」も製造している。彼らは海洋工学企業 Seaboost と提携して多孔質コンクリート システムのデザインと製造を行い、失われた生態環境を、フランス南沿岸沖の地中海にあるカランク国立公園に回復させた。

3D プリント製人工礁の不規則なトンネル様形状は、マルセイユ市が廃水を海へ排出した 1970 – 80 年代に減少が始まった、さまざまな種類の魚類や藻類、軟体動物、サンゴの回帰を促進するようデザインされている、とクーン氏は話す。この人工礁は、石灰岩から成る自然の生育環境のポケットや横穴を再現し、危急種を捕食者から保護する。

クーン氏は、まだ 3D プリントは様々な用途でコスト効率に優れているとは言えないものの、例えば 2030 年までに新規建造物のうち 25% を 3D プリントで建設するというアラブ首長国連邦のイニシアチブや、アディティブ マニュファクチャリングに関する英国の国家戦略 (英文資料) など、政府の施策が市場を変化させ始めることで、それも変わりつつあると話す。「3D プリントで起こっていることは、BIM で起こったことと似ていると思います」と、クーン氏。「材料削減の影響は極めて大きく、各政府も「環境保護の観点からも意味がある」と考えるようになってきています」。

Visitors explore Nashville’s 20-foot-tall OneC1TY lattice bandshell structure.
ナッシュビルの全高 6 m の格子構造 OneC1TY バンドステージは、 25 – 30 cm の降雪、時速 145 kmの風荷重に耐え得る構造となっている [提供: Branch Technology]

ケースその4: パビリオンとバンドステージ

米テネシー州を拠点とする Branch Technology は、セルラー ファブリケーション (C‐Fab) と呼ばれるプロセスを使用して、Autodesk AutoCADRevitMaya など、実質上あらゆるプラットフォームの建築ソフトウェア モデルを、自由形式の格子構造に変換可能。その中空構造はアルゴリズムで制御されたロボットによりプリントされ、型枠として機能して一般的な建設材料で充填される。Branch Technology 設立者兼 CEO のプラット・ボイド氏は「私たち人間の構造を、細胞レベルでの類推したものです」と話す。「この 3D プリント製のコンポーネントは、細胞の外壁のように機能します。その強度は充填材と血液、水でもたらされます」。

Branch Technology は 2018 年 6 月、報道によると世界最大規模となる 3D プリント製構造体を発表した。ナッシュビルの OneC1TY 用に建設された、直径 12.8 m、全高 6 m の バンドステージだ。この軽量の炭素繊維構造は、ヒューストンのデベロッパー Cambridge の委託によるもので、CORE Studio の Thornton Tomasetti との連携により、ナッシュビルの建築基準法に従ってデザイン、建設された。建築基準法では、2.5 cm の着氷、25 – 30 cm の降雪、時速 145 km の風荷重に対する強度が求められている。

当初の分析では大径間の支持に鋼製の基礎構造を使う必要があると示唆されたが、その後の研究では曲線の幾何学的設計により、基礎部分以外で鋼の必要性を排除できることが示された。これは同様の鋼構造のコストの約半分となり、プロジェクトを予算内に収められることになる。

「私は建築家であり、お決まりの箱を作ることを強いられることも多いのです」と、ボイド氏。「パラメトリック建築は非常に興味深い活動ですが、それはレンダリングや、平方フィートあたり 800 ~ 1,500 ドルのプロジェクトを行える「スター建築家」に限定されます。私は、こうしたクリエイティブなデザインを、標準的な建設予算内に収められる可能性に心を躍らせています」。

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