サウンドのデザイン: 音響エンジニアリングによりミネソタのオードウェイ・センターが親密な体験を実現

by Ken Micallef
- 2016年3月6日
ミネソタ州セントポールのオードウェイ・パフォーミングアーツ・センターのコンサートホール [提供: © Paul Crosby]

モダンなソフトウェアが発明される以前、コンサートホールのデザインは理論と建築模型であり、また推定と試行錯誤だった。古いホールの中には、そのサウンドが崇拝されるものもあったが、著名な音響設計家である豊田泰久氏は、その大半の「音響のひどさに驚かされました」と語っている。

建築や機械工学から音響エンジニアリングやデザインなど比較的新しい分野まで、あらゆるデザイン文化を新たなテクノロジーが変革してきた。ポルトガルのカーザ・ダ・ムジカやスペインのアウディトリオ・デ・テネリフェなど、まるで夢から生まれ出たような素晴らしいコンサートホールのデザインは、イマジネーション以上に音楽へ貢献する。

コネチカット州ノーウォークにある Akustiks の校長、ポール・スカボロー氏は音響デザイナーとして 30 年以上に渡って音楽へ貢献してきた。スカボロー氏は先頃、HGA Architects と共に、ミネソタ州セントポールにあるオードウェイ・パフォーミングアーツ・センターの音響をデザイン。彼の最初のチャレンジは、このオードウェイ・センターをホームとする 4 つもの居住企業と仕事をすることだった。

「どのプロジェクトも最初に綿密なディスカッションを行います」とスカボロー氏。「この場合は、パートナーであるセントポール室内管弦楽団 (SPCO) とシューベルトクラブ、ミネソタオペラ、オードウェイ・センターそれぞれに会いました。当初は既に音楽センターの一部となっていた音楽劇場 (のリノベーション) から始めましたが、検討の結果、それでは全パートナーのニーズには応えられないという結論になりました」。

ordway_center_site_acoustic_engineering
オードウェイ・センターの現場 [提供: Akustiks]

オードウェイが 1985 年 1 月 1 日にオープンして以来、各居住企業はパフォーマンス空間に関するバトルを繰り広げてきた。その不一致はやがて The Arts Partnership として解決し、このコンサートホールが傑出するコラボレーション精神の基礎が築かれた。

「居住企業間で起こった綱引きは、ありがたいことに我々の参加前に解決していました」とスカボロー氏は語る。「コンサートホールは、ひとつのパートナーの主な活動を新しいスペースへ移動していたので、音楽シアターのスケジュールは、残りのパートナー達のために拡張できました」。

優れたデザイナーの例に漏れず、スカボロー氏は新しいコンサートホールにおけるパートナー達のゴールを理解するためディスカッションを重ねた。そこで SPCO が要求する音響特性を尋ねた際に、重要な表現が得られる。

「そのディスカッションで発せられた、最も重要な言葉が“親密さ”でした」とスカボロー氏。「SPCO には聴衆が演奏者とコネクトされ、演奏者も本当に聴衆とコネクトされたように感じられるコンサート空間を作りたいという強い要望がありました」。

デザインのゴールが確定すると、スカボロー氏はそれを実現すべく複雑な音響工学ソフトを活用した。「デザインの過程では、提案されたコンサート空間の 3D モデルを作成して、そのパフォーマンスに関する音響パラメーターのシリーズを計算する CATT-Acoustic などのコンピューターモデリング・ツールを使用しました。また空間の 1:10 や 1:20 スケールのモデルを作り、実際のサウンドでテストすることも可能で、それぞれのモデリング・テクニックで空間のパフォーマンスに関する異なった情報が得られます」。

ordway_center_site_acoustic_engineering
オードウェイ・センターの現場 [提供: Akustiks]

スカボロー氏は HVAC システムをモデリングする Trane Acoustics Program (TAP) を使用することで、そのサウンドのシステムがパフォーマンス中に気を散らすものにならないようにした。また SoundPLAN を使って、オードウェイが近隣に影響を与えるか、近隣のノイズがオードウェイに影響を与えるかを確認するために外環境の雑音をモデリングした。

「SoundPLAN は景観を作り、地形を描写して建物とノイズのソース全てを組みことで、それらのソースが環境内でどう振る舞うかを理解できます」とスカボロー氏。「現場周辺のノイズレベルを示すよう、色分けされた 3D イメージが生成されるのです」。

オードウェイで使われた素材のうち、壁の Formglas GFRG (PDF) は剛性と硬直性を向上させる。このホールの美しいアコーディオン天井は、HGA の CEO であるティム・カールが開発した。

「この部屋の音響的な境界は、とても背の高いものにする必要がありました」とスカボロー氏。「ただし、それが明白に見えると居心地が悪くなり、親密な感じとは相反するものになります。ティムは 16 mm の木製ダウエルによるスクリーンを思い付きました。サウンド的な影響はなく、カーブを描くにつれてダウエルの環境は微妙に変化させています。このダウエルの配置のバリエーションにより、それぞれのスペースや同じサイズのダウエルによるマイナスの効果が起こらないようにできます」。

violin-duet-acoustic-engineering
オードウェイ・センター [提供: © Paul Crosby]

HGA とのコラボレーションに際して、スカボロー氏は Autodesk AutoCAD 経由でデザインの交換を行った。「建築家の CAD 製図を使って、Revit で空間の体積や素材の表面積の計算を行いました。残響時間など重要な音響パラメーターを計算するには、その理解が重要です。空間の体積と、空間内の素材の音響特性による作用です」。

サウンドが適切なタイミングで反射することで豊かでクリアなサウンドを生成すべく、スカボロー氏は座席配置を含めた全ての細部にまで配慮した。Akustiks は座席の座面と背面に無垢材を指定し、さらにそのパッディングの最大の厚さまでも指定している。

だが、こうした様々な方程式や素材の検討をもってしても、科学を補完するには熟練が要求される。「ティムと私は、プロセスの非常に初期の段階からオープンの日まで、ずっと共同作業をしました」とスカボロー氏。「ティムはとても感覚の優れた建築家です。ティムが自身のチームと開発し、精錬した音響の尺度が建築へ反映されています。音響的な目的を反映し、しかも美しい建築となる解答に到達するまで、何度も行き来しながら作業を行いました」。

コンサートホールの完成度の最終的な評価は、科学以上に直感的だ。「それはリスニングによるものです」とスカボロー氏。「もちろん測定することも可能ですし、その空間内で音響的に起こっていることを特徴付けるソフトウェアも存在していますが、最終的な判断は人間の耳です。耳がどう反応したか? リスナーが音楽やそのパートへ引き込まれたように感じたか? 演奏者がステージ上で快適に感じ、そのサウンドが皆に届いていることを確信できたか? それが最終的な判断であり、どれも主観的ですが、それこそが全てです」。

 

関連記事