第二次世界大戦中のヨーロッパにおける対ナチス戦では、工場や工業地帯への戦略的爆撃が勝利の鍵となった。だが開戦当初の戦況は、望ましいものではなかった。撃墜される爆撃機の数はあまりも多く、例えば 1943 年 10 月 14 日に行われたシュヴァインフルトのボールベアリング工場への空襲では 77 機が失われ、650 名もの兵士が犠牲もしくは捕虜となった。

26% という、看過できないレベルにまで損失率が上昇した理由は明白だった。機関砲を装備したドイツ空軍の戦闘機が、動きの鈍い爆撃機を自由自在に攻撃する一方、アメリカ空軍やイギリス空軍の燃費の悪い戦闘機は、戦闘空中哨戒により爆撃機を守ることのできた空域はわずかに過ぎなかったからだ。

この問題を解決したのが長距離護衛戦闘機 (直掩機) で、B-17 や B-24 などの爆撃機を、爆撃目標までの往復の全行程で護衛できた。長距離飛行が可能で高性能の戦闘機の開発競争から生まれた究極の形が、ノースアメリカン P-51D マスタングだ。P-51D は米国製の最新型の機体にロールス・ロイス設計、パッカード生産によるパワフルなマーリン エンジンを組み合わせたもので、ナチスドイツ空軍総司令官ヘルマン・ゲーリングをして「ベルリン上空にマスタングの姿を見たとき、ドイツの敗北を確信した」と言わしめたとされている。

P-51 という伝説の航空機は、優れたエンジンと先進的な機体の素晴らしい組み合わせで生み出された。70 年の時を経た現在も、マスタングは世界各地の航空機コレクターや熱狂的なファン垂涎の存在として君臨している。

Proto Labs の積層造形 (アディティブ マニュファクチャリング) 担当副社長を務め、現在は引退生活を送っているロブ・コネリー氏は、非常に状態の良いマスタングを所有し、飛行を楽しんでいる。「Hurry Home Honey」という名の、当時のままの 1944 年製 P-51D だ。一風変わったこの名前には理由がある。この機はかつて、第二次世界大戦のトリプル エース パイロット (15 機の敵機を撃墜したパイロット) で、ヨーロッパ上空の戦闘任務に 150 回も携わったリチャード・ピーターソン少佐が操縦していた。

彼のガールフレンドだったエレインは、手紙の最後に必ず「ハニー、早く帰ってきて (Hurry home, honey) 」と書き添えており、少佐はそれを愛用機のノーズ アートに加えたのだった。この戦闘機の歴史的な重要性、優れた実績、希少性は歴史的文化財同等の価値を持つが、博物館に展示されているわけではない。コネリー氏は、この飛行機で定期的に空を飛んでいるのだ。

戦闘機はもともと整備が大変な飛行機だが、飛行安全性の最新基準に適合させつつ、複雑な機構のマシンを設計者の想定を数十年も超えて使い続けることは、チャレンジとなる。その交換部品はわずかしか存在せず、また高価であることは言うまでもない。

1944 年製 P-51D 戦闘機の作業を行うロブ・コネリー氏

先日ゼネラル・エレクトリックが買収し、GE アディティブという部門になった Concept Laser Inc. 代表取締役のジョン・マレー氏は「エンジンの出力は 1,500 馬力なので、とてつもない摩耗が生じます」と指摘する。彼はコネリー氏の友人であり、また同じくパイロットでもある。

「ロブ (コネリー氏) と私は「70 年前まで遡って、デザインを改良し、信頼性を高めるにはどうしたらよいのか」を考えました。まず思いついたのが目につく排気管で、熱による衝撃と、気流による強いすさまじい応力を受けます」と、マレー氏。「排気管は一定レベルの推力を生成して、3 – 5 ノット程度の対気速度 (対地速度 5.6 – 9.3 km/h) を追加します。この飛行機には空気力学上の興味深いトリックが使われていますが、排気管もそのひとつです。そこで私たちは、オリジナルの部品はステンレス鋼でできていただろうと考えました。では、新たに部品をステンレス鋼でプリントして、70 年物の飛行機用に、新品の部品を作成できるのでしょうか?」

この問いに答えるべく、マレー氏はこの交換プロジェクトを、3D スキャニングやレンダリングから、SLS (レーザー焼結) によるパーツの製造と仕上げ、検証までを行う、先進的な製造技術のテスト ケースとすることを決めた。Concept Laser チームは、まずオリジナルのステンレス鋼部品の分析から始めた。この排気管には、1940 年代の典型的な技術が使用されている。フランジ成形加工で、2 つの形状のステンレス板クラムシェルとクランプ リングが組み合わせられ、手溶接で組み立てられている。オリジナル部品から寸法のデータは得られたが、その他のデータは少なかった。

P-51D 用のオリジナル排気管部品。もとはステンレス鋼製だった。

金属積層造形には最新のデジタル レンダリングが必要となることが明らかだったが、マレー氏のチームは最新のシミュレーション/CFD ソフトウェアを使用することで、オリジナル部品を設計したロールス・ロイスのエンジニアには想像できなかったであろうことを実現した。

マレー氏は、このプリビルド (出力準備) プロセスについて、次のように説明する。「私たちは、部品をアリゾナ州フェニックスの Phoenix Analysis and Design Technologies (PADT) に持ち込みました。主任のひとりであるレイ・チュー氏は、リバース エンジニアリングと 3D スキャンのエキスパートで、熱流と流量のシミュレーションを行う ANSYS のエキスパートでもあります。そこで私たちは、「この CAD モデルを構築し、極めて高度な流量特性検査を実施するよう PADT に依頼しよう」と考えました」。

この出力物はシンプルな航空学上の MRO (保守修理点検) ソリューションを超え、本格的な研究へと発展した。オリジナルの排気管の流量はどれほどであったのか? 焼結部品の方が性能は上なのか? 流量における表面仕上げの影響は? 86 cm の溶接線を除去することは、性能に影響するのだろうか?

Concept Laser による排気管のレンダリング画像

レイ・チュー氏は、このデータの問題に最新鋭のハードウェアとソフトウェアを利用した。「4 つの部品を溶接して製作されている既存の部品に、ブルーライト スキャナーを使用しました。ブルーライト スキャナーの解像度は極めて高く、表面積 1 平方インチあたり約 500 万点のデータを収集できます。部品全体をスキャンして取得した点群データをメッシュ モデルに変換して、すべての溶接線と機械加工面を取り除きました。その後、3D の CAD データを作成し、それを STL と呼ばれる 3D プリンター用のデータ形式へと変換。そのデータをジョン (マレー氏) に返送し、彼らがそれをマシンに取り込んで、この部品をプリントしたわけです」。

チュー氏は性能上の理由から、一般的なレーザー スキャンでなくブルーライト スキャンを選択した。「どちらの方式にも良い点と悪い点があります。ブルーライト スキャンは、より迅速に作業できるテクニックです。レーザー スキャナーに比べてはるかに高い解像度で、1 分以内にスキャンができました」。

スキャンは素早く行えたが、ノイズを除去し、プリント準備の整った STL ファイルを作成するためのデータ処理には 4 時間以上必要だった。チームが当初目標としたのは、オリジナルと全く同じステンレス鋼製排気管の交換部品の製作だったが、Concept Laser は多種多様な金属を用いた業務を行っており、部品の形状にも制約が少ないことから、オリジナルよりも優れた部品を作成できる可能性が示唆された。

オリジナルの排気管部品 (左) と新たに 3D プリント製造された交換品

「既存部品からのリバース エンジニアリングなので、その形状はこれまで 70 年間使われていたものと全く同じです」と、チュー氏。「次のステップは既存部品の形状、応力、温度勾配、気体流力学の分析と、それを踏まえた、さらなる研究です。現在の製造技術により、改良や最適化を行う方法はあるのでしょうか? 部品の軽量化は間違いなく可能ですし、形状をいくらか変更することで、性能を向上させ、熱応力を下げることもできます。次に取りかかるのは、このプロジェクトになるでしょう」。

部品のデザインは重要だが、積層造形においてはプリントされる製品にサポート材も含まれ、これが出力物の寸法精度や性能に極めて重要や役割を果たす。

マレー氏は、Concept Laser の出力物へのアプローチを、次のように説明する。「まず、部品の配置を考察します。サポートの数を減らし、出力物を最適化するためにサポートが必要な場所を確認します。今回の例では、同時に 2 つの部品を製作しました。下向きの表面にサポートがあるものと、排気管を通って垂直に上に伸びるサポートのないものです」。

P-51D に取り付けられた 3D プリント製の排気管

「これが見事に功を奏しました。土台は飛行機と結合する面なので、どちらにせよベースを仕上げ加工するつもりでしたから。部品の配置を見定める際に検討するのは、まさにこういうことです。サポートはどこに付くのか、取り除くとすればどれを選択するのが最も簡単か、EDM (放電加工) や機械加工により後処理されるのはどういう機構なのか、というようなことです」と、マレー氏は話す。

Concept Laser は、自社の M2 cusing プラットフォームを使って、2 日間で 2 基の排気管を製作した。出力物のサイズは約 25 x 25 x 25 ㎝ (x/y/z) だ。マレー氏は、この排気管を、ステンレス鋼の材料から作成されたシンプルな部品だと考えている。だが Concept Laser は、ジェット エンジンの高温部の部品に多様される等級のインコネル合金など、航空宇宙分野で使用される珍しい超合金を含んだ多種多様な金属で製作を行っている。

Concept Laser は、高性能な応用を実現すべく、珍しい材料を開発するカスタマーとも連携していると、マレー氏は話す。「弊社では、特定の合金を持ち込んで分析を依頼する企業向けのエンジニアリング業務を行っています。そうした企業には、「分析とビルド プロセスにも取り組みます」と返事しています。世の中には、認識すらされていない合金が多数存在しています。企業が合金を開発しても、必ずしもそれが公表されるわけではありません。現状を打破するための支援を提供すべく、カスタマーへのコンサルティングにも力を入れています」。

P-51D の動作中の排気管

限界を押し広げるという意味では、積層造形技術は FAA (連邦航空局) などの規制機関を、さまざまな用途において猛スピードで追い越そうとしている。マレー氏は、先日認可された GE のジェットエンジン燃料ノズルやエアバスの機体部品にまつわる経緯は、飛行機に使用可能な膨大な量の 3D 部品に機会を提供すると予測する。部品はひとつひとつ、量産飛行機に使用するための認可を得る必要がある。「この動きは加速する一方だと思います。GE ジェット エンジン部品に認可が与えられたのは大きな一歩です」と、マレー氏は話す。

コネリー氏同様、マレー氏は自身の小型飛行機で積層造形を実験中だ。その飛行機はビーチクラフト製の単気筒エンジン機で、彼は広く飛行に使用している。「私が操縦している Bonanza は一般航空機なので、この機体用にオーナーが製作した部品を作成できます。現在ダクトを作成中ですが、テクノロジーを学び、デザインを向上させるための取り組みです。オーナーとして実施することは認められていますが、その部品の販売は、もちろんできません。ただ、FAA も間違いなく商業向けの使用に乗り気だと思います。今後も 3D プリント事情には注目し続けるでしょう。状況は急速に進展しています。FAA にとって、このテクノロジーのペースに遅れをとらないことが課題となることは疑いもありません」。

マスタングのステンレス鋼製排気管は、金属積層造形が数々の重要な用途において傑出した存在であることを示す好例だ。一般的な材料で作られているにもかかわらず、3D 部品はオリジナルより強固で耐久性に優れ、構成部品の数を 4 から 1へと減らすことができ、排ガスの流れを向上させることが可能。外注による金型や治具も必要なく、短期間運転による生産やワンオフ生産と比べても、コストを大幅に抑えられる。

1940 年代以降、このタイプの飛行機は製造されておらず、飛行機そのものも、その構成部品もかなり不足しています。

自身も 3D プリントのパイオニアであるコネリー氏は、FAA 認可を得た積層造形製部品を使用した自身のマスタングで、臆することなく飛行を楽しんでいる。「1940 年代以降、このタイプの飛行機は製造されていないんです」と、コネリー氏。「また、当初から生産台数も多くありませんでした。戦火に耐え残った機体は非常にわずかです。ご想像のとおり、飛行機そのものも、その構成部品もかなり不足しています。オーナーやパイロットは、保守対象期間以降に破損、摩耗した部品がある場合、誰かが余剰部品を所有しているか、自機用の部品に余裕があることを期待して、軍用機コミュニティと連絡を取る必要があります」。

「大抵は長期間待つか、高い対価を支払うことになります。3D プリントを利用した将来においては、こうした構成部品すべてをスキャンし、製作に使用されたオリジナルの図面を参照して、3 次元データベースを作成できます。そして、これらのデータ セットを抽出し、構成部品を作成できるようになるのです。これは完全に実現可能な話です」と、コネリー氏は話す。

コネリー氏同様、マレー氏も軍用機と積層造形技術の両方に情熱を燃やしているが、超保守的で、安全性を重視する航空宇宙産業においては、3D プリントの広範な応用に対する制約は少ないと同意する。

「部品は、より少ない数で、より安全で、強固で、優れた性能を発揮するようになります」と、マレー氏。「このテクノロジーには、とても多数の利点があるのです。例えばマスタングの排気管部品から約 86 ㎝ の溶接線を除去できたのは、生産と性能の面では大きな進歩です。航空、医療、自動車、その他多数の業界でビジネスの強化につながることは間違いないでしょう。これは私たちの生活のあらゆる面に関係する、エキサイティングな未来です」。

ジェームズ・アンダートンの執筆によるストーリー。本記事の別バージョンが engineering.com に掲載されています。

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