建築デザイナー佐藤愛氏が生み出す、これまでにない発想のジュエリー

by Keiko Kusano
- 2018年3月5日
[提供: AISATO Design]

立体的で優雅な曲線が印象に残る AISATO Design ブランドのジュエリー。そのデザイナーである佐藤愛氏の個性は、建築デザインの世界で追求してきた、コンピュテーショナル デザインと自然界の形態からインスピレーションを受けたものだ。

米国の大学の建築学科で、ひとりだけ人とは違う「ぐにゃぐにゃしたもの」を作っていたという佐藤氏は、そうしたデザインをコンピューター ソフトウェアを使って学習していると紹介された南カリフォルニア建築大学の大学院で、コンピュテーショナル デザインの魅力と 3D CG ソフト Autodesk Maya に出会う。その当時から「今までの固定概念にとらわれない、新たな角度から建築を提案してみたい」と考え、生物の模様や行動パターンを研究し、それを建築やランドスケープ、タウンスケープに適応する試みなどを行なっていたという。

その後、英国ロンドンのザハ・ハディッド アーキテクツ入社。そこには、いわゆる下積みや年功序列のような制度はなく、「実現できると明らかに判断できるものでなく、大学院で最新の知識や技術を研究したフレッシュな人の、実現できるかどうかわからないが、実現されれば建築界に大きな影響を与えうるチャレンジングな案が採用されたりします」と、佐藤氏。「これまでプロジェクトを実現してきたベテランと若い人たちがチームアップし、作業に取り組んで、今まで見たこともないような新しいものを生み出していました」。

事務所内では、建築やランドスケープのコンセプトをスケッチ デザインする作業が Maya や 3ds Max で始められ、その後 ビルディング インフォーメション モデル (BIM) で、より精密な形状がデザイン設計されていた。佐藤氏も憧れの建築家であるザハのもとで自身のスキルをさらに発展させ、建築コンペの出品案や、初期段階のプロジェクト デザイン案を練り、膨大な数のデザイン案をデジタル モデルで作成するという日々を送ることになる。だが、リーマン ショックの影響などもあり、自らの関わった建築プロジェクトが、ことごとくキャンセルになってしまう。

「アブダビに建設予定だった、オフィスビルのプロジェクトも止まってしまいました。ザハ・ハディッド アーキテクツに入って 3 年が過ぎたころ、もうすぐ 30 歳になるのに、私自身が関わった建物はまだ世の中にひとつもない、ということに大きな不安を覚えました」と、佐藤氏。「そんなときに、30 歳までに自分で何かを創り出したいと思ったのが、ジュエリー デザインに関わることになったきっかけです」。

最初に自分のために作った指輪 Helix Ringには、そのころ深夜遅くまで事務所に残って何百ものプロトタイプをデザインしていた、スペイン・ビルバオの銀行ヘッドクォーターのデザインも反映されているという。その後も建築デザインの傍ら、趣味程度にジュエリーを作っては、ロンドンやパリのショーに出展を行なうようになった。

2012 年 11 月、新国立競技場の国際コンペでザハ事務所のデザイン案が選出されると、そのプロジェクトの日本チームとして、日本に戻ることになった。そのために数年は東京オフィスに勤務する予定だったが、2015 年になってプランが白紙撤回されたことなどを機に、自分ひとりの名前で何かを作っていこうと独立を決意する。

こうして生まれた AISATO Design のジュエリー デザインには、彼女が建築デザインとして研究、習得してきた手法が随所に生かされている。「例えば、Maya 上で違う形のものを起点と終点に設定してアニメーション化し、その間をスナップショットで切り出していくと、設定した数の分だけエレメンツが抽出されます。その中から選び出したものを調整しつつデザインするという手法をよく使っていて、Malina Earrings というイヤリングもそうです」。

 

また、母点からの縄張りが形になって現れるボロノイ図 (Voronoi diagram)を発想の源としてデザインしたジュエリーは、その有機的な形が印象的だ。キリンやトンボの羽の模様にも似ているとされるボロノイ図の法則をスクリプトに組み込むことで、その結果をコントロールしながらも思いがけないデザインが生まれるという。「自然界の大抵のパターンは数式で表せられるもので、それに近い形になっているのではないかと思います」。

「自分の頭の中や手だけでデザインをしていると、その人の習性、クセのようなものが出てしまいますが、コンピュテーショナル デザインによって、より自然なものが生み出されると思います」と語る佐藤氏は、コンピューターをツールとして使い、手では作れないもの、見たことのない形を作ることに興味があると語る。

「その機能を利用しながらデザインすることで、自分が想像していた以上の”面白いもの”が作れると考えています。でも、それをコントロールしているのは自分自身で、そこから抽出するのも自分なので、コンピューターだけデザインされているのではなく、私自身の個性やユニークさも生きています」。

佐藤愛 ジュエリー デザイナー Helix Ring
ボロノイ図に着想を得た Voronoi Collar Necklace [提供: AISATO Design]

こうしてデザインした立体的なジュエリーやアクセサリーは、3D プリンターで出力。ワックス樹脂を光造形したものを原型にして鋳造したり、あるいはナイロン樹脂で出力したものを直接利用したりして製品化されている。それによって、3D プリントならではの複雑な形や、驚くほどの軽量化などを実現できるのも魅力だ。

「建築という世界で、デザイナーとしてだけ仕事をしてきましたが、そこでは学べなかったことを、いま自分のブランドを運営することで学べています」と、佐藤氏。「Maya はとても融通の効くソフトなので、建築もジュエリーも、プロダクトもデザインできています。私にとって、想像力をかきたてられるツールです」。

AISATO Design は、ジュエリー デザインのみならず、さまざまな規模のデザインにおいて、3次元のどの角度から見ても美しいと思えるデザインを追求している。今後は、ブランドをさらに確立させていく一方で、こうしたデジタル技術を使ってこなかったメーカーやクリエーターとのコラボレーションも考えているという。建築を起点にはじまった彼女のデザイン ワークは、さらに広がりを見せている。

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