アブダビに日陰を: アル・バハール・タワーズのアダプティブな建築

by The Future of Making
- 2017年8月17日
アブダビ アル・バハール・タワーズ マシュラビーヤ 窓格子 開閉 スクリーン
アブダビにあるアル・バハール・タワーズの、マシュラビーヤと呼ばれる窓格子にインスピレーションを受けた開閉するスクリーン [提供: Christian Richter/Getty]

人間に快適な環境を維持する建築のデザインは、亜熱帯砂漠気候であるアラブ首長国連邦においては、手強い課題となっている。夏季には日中の気温が摂氏 40 度を超えることも多く、太陽は冬でさえ、その勢力を弱めることはない。

中世以来、アラブの富裕層の邸宅や宮殿にはマシュラビーヤと呼ばれる窓格子が取り付けられてきた。これは、風とある程度の光を取り込みながら日中の熱をさえぎり、外から内部の様子を窺いにくくする目隠しにもなる。ステンドグラスで裏打ちされることもある幾何学模様の木格子は非常に装飾的で、機能的でもある。

アブダビのアル・バハール・タワーズ (Al Bahr Towers) は、このマシュラビーヤのハイテクな解釈であり、エネルギー効率を高いレベルで実現している。対をなす 2 棟のビルの表面にぶら下がった、折り畳み式スクリーンからなる複雑な網が太陽の位置に合わせて開閉し、エネルギー利用を最小限に抑えつつ、居住者の快適さを最大化する。スマートなビルだが、そのソリューションは驚くほどシンプルだ。

カイロ 古い木製 はめ込み窓 マシュラビーヤ
エジプト・カイロの古い木製のはめ込み窓 (マシュラビーヤの一種) [提供: Keladawy]

建築事務所 AHR は、Abu Dhabi Investment Council の依頼でこのタワーをデザインし、エンジニアリングのグローバル企業であるアラップと連携。画期的なファサードを含むデザインの、全てのエンジニアリング部分をアラップが担当した。アワードを獲得したこの建造物は、イースタン・マングローブ開発エリアが見渡せるアブダビ北岸にあり、ビルのデザインには環境効率と文化的責任が融合されている。

アラップのロンドン オフィスでファサード エンジニアリング チーム アソシエイトを務めるジョルジョ・ブッフォーニ氏は「これはアダプティブな建築であり、その形状と性能は環境に反応します」と話す。彼は 2007 年のファサード デザイン開始から 2012 年のビル落成まで、このプロジェクトに関わった。

こうしてアル・バハール・タワーズは、近年増加しているセンサーを活用したビルの美しい例として注目を浴びることになった。そのファサードは、太陽の位置に従って開閉の配置をコントロールする、太陽光追尾ソフトウェアで操作される。センサーは風速と日射データもキャプチャしており、強風時や長く曇天が続く場合にもファサードを調整する。

アラブ世界研究所 マシュラビーヤ フランス パリ
フランス・パリのアラブ世界研究所のマシュラビーヤ [提供: Pio3]

感知した環境に適応するビルは、このタワーが初めてではない。「スマート ビル」とその構成要素である、照明のオン・オフを切り替えるモーション センサーや居住者の暖房のニーズを学習する Nest サーモスタットから、空間を使用している人の数とその時間帯を追跡する「人数集計器」まで、これまで 10 年以上にわたってさまざまなものが活用されてきている。

また大型で意欲的な、アダプティブな外壁にも前例がある。その有名な例のひとつが、ジャン・ヌーヴェルと Architecture-Studio が設計したアラブ世界研究所の建物だ。1980 年代にパリに建設されたこの建物のファサードには感光性の開口部が設けられ、アラブ世界の複雑な模様が取り入れられている。

アル・バハール・タワーズに取り付けられた三角形のスクリーンの集合体は、26 階建てのビル全体に咲きほこる大輪の花のような形になっている。重さ 1.5 t のファサードの各ユニットが厳密には 2,098 個、それぞれビル表面から 2.8 m の位置に片持ち梁で取り付けられている (この隙間は、窓掃除と遮光システムの保守のためのもの)。

遮光スクリーンはポリテトラフルオロエチレン (PTFE) 製で、テフロン加工されたグラスファイバー生地だ。各スクリーンのサイズにわずかな違いがあるが、これはタワーが完全な円筒形でないことによるもの。タワーの形状は、この地域の伝統的な幾何学模様である、3 つの交差する円から取られた 6 つの接弧をもとにしている。

コントロール システムが、太陽が東に上ってから西に沈むまでの軌跡を追い、その位置と強さに応じてファサードのパネルを徐々に開閉。極端な条件下では、ビルの頂上に取り付けられた風速計と太陽放射センサーがプリセットを無効にできる。

このファサードは、厳しい環境下でも動作するよう設計されている。高温と時折の強風に加え、一帯の大気には砂や埃、塩分が大量に含まれる。プロジェクトのデザイン段階で、アラップはオフサイト検証用の仕様を開発した。この検証ではフルスケールの遮光ユニットが3 万回開閉され、これは約 40 年分の使用負荷に匹敵する。

“デザインにおける重要な要素は、ビルから自然を眺められること、そして人工光の使用を最小限に抑えることでした” — ジョルジョ・ブッフォーニ氏 (アラップ ロンドン ファサード エンジニアリング チーム アソシエイト)

「パッケージを準備した際、ファサードの施工会社に危険過ぎだと受け取られるのではないかという懸念がありました」と、ブッフォーニ氏。だが、この案件を獲得した中国の施工会社 Yuanda は、この画期的なシステムをアラップ、AHR と共に開発することに強い興味を持っていた。

タワー本体は、遠くから見るとヤシの木の幹を思わせるような形をしており、その外壁は、直射日光の当たらない北側とセラミック フリット ガラスが取り付けられたタワー頂上部を除いて、すべて遮光システムで覆われている (一方のタワーには 3 箇所のスカイガーデンが設けられ、外面の遮光システムで保護されている)。

The Al Bahr Towers.
アル・バハール・タワーズ [提供: Paule Seux/Getty]

デザイン チームが直面した課題の中でも最大の難問は、恐らくは居住者のために室内の快適性を向上させ、その結果としてエネルギーの消費量を削減することだろう。この地域のビルには空調設備が取り付けられ、また年間を通して太陽放射レベルが高いため、大半の高層ビルの窓ガラスにはカラーガラスか反射ガラスが使用され、居住空間や労働空間には自然光がほとんど入らないようになっている。

「ガラスが暗い色だと 1 日中照明を点ける必要があるため、濃い色のカラーガラスを使ったビルというコンセプトは採用できませんでした」と、ブッフォーニ氏。「デザインにおける重要な要素は、ビルから自然を眺められること、そして人工光の使用を最小限に抑えることでした」。

アル・バハール・タワーズのファサードは、中東にある同サイズのビルに比べてビル内部の熱利得を 50% 削減するようデザインされており、予備調査ではエネルギーと冷却設備の縮小によりコスト削減が可能だと示された。

スマートビルの有望性が実感されるには未だ至っていないが、よりシンプルな解釈こそ、我々が進むべき方向なのかもしれない。システムが複雑になればなるほど、機能停止に陥る可能性は高くなる。また、ビルの持ち主が変わればシステム マニュアルが失われ、知識やトレーニングの成果も忘れ去られる可能性がある。

アラップのプロジェクト マネージャー、ティム・ケイシー氏は「このシステムが堅固なものであり、期待通りの成果を提供できると確信しています」と述べている。「最も賢明なシステムとは言えないかもしれませんが、極めて安定しています。センサーに関しては、複雑度を最小限に抑えることが我々のストラテジーでした」。ここには、インダストリアル デザイナー、ディーター・ラムスの「良いデザインの10カ条」の多くが具体化されている。革新的で、実用的で、長持ちし、環境に優しい。良いデザインとは、可能な限りデザインを排除したデザインなのだ。

本記事は、エディター/著者のトム・ウージェック氏、執筆協力者であるグレース・ドゥボッシュ氏とオートデスクによる書籍「The Future of Making」(ものづくりの未来) の一部を抜粋したものです。この書籍は、新興のテクノロジーとデザインの新たな手法が、ものづくりをいかに変化させるかを考察しています。

 

 

関連記事

Success!

ご登録ありがとうございました

「創造の未来」のストーリーを紹介中!

日本版ニュースレターの配信登録