自閉症スペクトラムの子供にとってブレークスルーとなる建築物

by Zach Mortice
- 2017年2月7日
自閉症向け建築 Social Sensory Architecture パビリオン
Social Sensory Architecture パビリオンと触れ合う、ショーン・アールキスト氏の娘アラ [提供: Mike Hensel/Sean Ahlquist, University of Michigan]

優秀な建築家は、手すりの豊かな木目から、デイケア センターの厚くて毛足の長いカーペットまで、常に触感を考慮したデザインを行ってきた。これは、より豊かな環境を生み出すような手法により視覚と触覚、意識を結び付け、五感全てを刺激する効果的な方法だ。

だが、ミシガン大学アナーバー校で教授を務める建築家が取り組む、自閉症患者のための触覚に訴える建築の環境は、訪問者に多様で心地良いハプティック体験を提供する以上のことを行う。これは 7 歳になる自身の娘、アラと同じ自閉症スペクトラム (ASD) の子供を対象とする、セラピーの一種だ。

自閉症のための建築 playscape 子供
Social Sensory Architecture パビリオンと触れ合う、ショーン・アールキスト氏の娘アラ [提供: Sean Ahlquist, University of Michigan]

現在、ショーン・アールキスト氏が進めているSocial Sensory Architectures 研究プロジェクトは、ASD の子供に向けた治療用の構造物を作るというものだ。プロトタイプのひとつ、sensoryPLAYSCAPE は支柱に伸張性を持つ生地を張ったテントのような形のパビリオンで、没入可能な環境を生み出す。接触に反応してサウンドが鳴り、2D イメージを、画面同様に生地の表面に投影。これは運動能力と聴覚、視覚フィードバックのつながりをビジュアルで示し、自閉症の子供たちが特定の動作で加えるべき適切な力の調整 (これは自閉症スペクトラムに共通する問題だ) に役立つ。

アールキスト氏は、コンピュテーショナル デザイン研究所 (シュトゥットガルト大学の軽量建築材料の研究拠点であり、ここにフライ・オットー氏は軽量構造研究所を設立) の博士研究員として、プレストレスト (予め応力を加えた) 張力構造へ集中的に取り組んだ。2012 年にミシガンに移った後、コンピューター数値制御 (CNC) 編機を活用する研究を続け、この経験が独特の布地を生み出す技能をもたらす。そして光や触知性材料について研究を続けるうち、こうした素材を構造物とした際に、人々の接し方に奇妙な点があることに気付いた。

布は触れて感じるものなのに対して、布の構造物は離れた場所から体験するものだということだ。「私たちが開発していた構造は極めて親近感の強いものでしたが、いわゆる“建築というシステム”に組み込まれた途端、その実体はすぐさま存在感を失い、受動的なものとなってしまいます」と、アールキスト氏。「積極的に関わり合いを持つものでなく、単に周りを取り囲むものになってしまうのです」。

自閉症のための建築 playscape 相互作用
Social Sensory Architecture パビリオンと触れ合う、ショーン・アールキスト氏の娘アラ [提供: Sean Ahlquist, University of Michigan]

この感覚のギャップを埋められないかと、氏は考えた。ダイレクトで触知的な (触れて感じることのできる) 相互作用を促進する、没入可能な空間を作ることはできないだろうか? アールキスト氏は、娘の自閉症は五感を閉ざすため「非常に強い触覚フィードバック」を得たがるのだと話すが、彼女の運動神経は未発育だった。Social Sensory Architectures は、放物線とらせんからなる、大きく広がり渦を巻くクモの巣のような構造になっており、運動神経と視覚、聴覚のフィードバックを結びつける。どれくらいの力で押しているのかを直感的に知覚できないのであれば、その手がかりが視覚と聴覚による合図で与えられる。

Social Sensory Architectures (SXSW の Place by Design コンペの理論/プロトタイプ部門を受賞) は、さまざまな感覚に同時に作用する建築独自の能力に依存しており、そのため、これらの要素全てを結び付けるよう、多様性を持ったプロジェクト チームを必要とする。アールキスト氏はコンピューター科学者のほか、音楽や自閉症治療、精神医学、運動生理学のエキスパートたちと連携してソフトウェア開発を行った。まもなくパイロット研究が始められる予定で、最初は数名の子供をサンプルにすることになっている。

チームが取り組んでいる仮説は、アールキスト氏によると「運動神経を高めることができれば、社会交流の機会を創出することにつながります」というものだ。自閉症スペクトラムの子供は、社会のルールを読み解き、適切に対処することが困難な場合が多い。アールキスト氏は自身の取り組みにより、ASD の子供たちが五感をうまくネットワークでき、それが互いの社会関係の改善に役立つことを願っている。

例えば、この構造が生み出す視覚的な反応には、ふたりの子供が生地表面との接触を、うまくシンクロさせられたときにのみ生じるものがある。また、パビリオン内の子供サイズのトンネルや円錐は、アールキスト氏のような世話好きな父親に、子供たちを抱きかかえ、トンネル内を滑らせるよう促す。こうしたインタラクティブな瞬間が「コミュニケーションによる社会」作り出す。これはチームが PLAY Project とのコラボレーションで学んだ表現だが、アラのように言葉を発しない子供の場合は、特に重要だ。

自閉症のための建築 没入 sensory playscape
Social Sensory Architecture パビリオンに夢中になる子供たち [提供: Gregory Wendt/Sean Ahlquist, University of Michigan]

Social Sensory Architectures に使用されている布地は、柔軟なガラス繊維強化ポリマー製の棒で形が作られている。Microsoft Kinect センサーは、布地表面が斜めに引っ張られると、それを強から弱のタッチの変化量で感知。その情報を、アールキスト氏とチームが開発したソフトウェアで供給する。Kinect は、パビリオンから数 m のところにあるハードウェア タワー (コンピューター、スピーカー、プロジェクターを内蔵) に格納されている。

それはある意味「iPad インターフェース」のように機能するとアールキスト氏は話す。パビリオン用のあるソフトウェア プログラムは、それぞれの魚に特徴的なウィンドチャイムのサウンドが割り当てられた魚の群れで子供たちを包み込む。軽くタッチすると群れは散り散りになるが、より強く、連続的な圧力を加えると引き寄せられる。別のプログラムは 2D 画面用に開発されており、子供たちは色を用いて画を描くことができる。色の明暗は加わる力により変動し、繊細にスワイプすると黄、力強くプッシュすると赤になる。

この 2D 画面は現在アラの自閉症治療センターに設置されており、そこでアラはブロックを積み重ねるなど一連のタスクを通じて運動神経の微調整に取り組んでいる。こうしたタスクに集中できなくなった自閉症の子供たちは、アールキスト氏のプロジェクトのように運動感覚や知覚効果を扱うセンソリー ルーム (感覚調整室) で元気を取り戻す。

アールキスト氏は自身のプロジェクトにより、課題のような治療アクティビティと楽しいセンソリー ルームでの遊びの間にある壁が取り除かれることを願っている。「これら両方のアクティビティが必要とされるのであれば、2 つを融合させ、子供たちが取り組んでいるスキル発達アクティビティのタスク指向な特性を最小限に抑えることが賢明ではないでしょうか?」と、アールキスト氏。

自閉症のための建築 sensory playscape
Social Sensory Architecture パビリオン [提供: Sean Ahlquist, University of Michigan]

今日の世界では、多感覚メディア スクリーンへの没入はスキル向上の手法とは見なされていないことが多い。子供たちの目や耳に絶えず情報を与えるデジタル インターフェースは、過度な刺激を与えて夜更かしや集中力の持続時間の断片化につながると、心理学者が警鐘を鳴らすことも多い。だがアールキスト氏にとって、動作と運動神経へつながっているということは、こうした多感覚スクリーンの環境とは区別すべきものだ。

スマートフォンの画面上では無分別に人々を催眠状態に陥れる視覚と聴覚による刺激は、五感に訴える建築においては、より総体的なレベルで働く。「私たちは全身に働き掛けているのです」と、アールキスト氏。「脳だけではありません。この体験は、繰り返しが多く単調で注意力を奪うものではなく、常に変化して興味をそそるものなのです」。

建築は、完全な物理的相互作用を必要とする、数少ないデザイン手段のひとつだ。このように反応を持ち五感を刺激する環境、つまり心身の相関性の向上を支援し、技能の育成に役立ち、社会交流を拡大させる物理的な空間を生み出すことは、自閉症治療のパワフルなツールと成り得る。

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