自社開発のレーザースキャナーを活用して BIM で住宅改修

by Yasuo Matsunaka
- 2017年8月3日
BIM レーザースキャナー
部屋毎にキャプチャした点群データ上をトレースして BIM モデルを生成。そのモデルを使って作成した改修提案プラン [提供: アーキ・キューブ]

日本の住宅の寿命は短く、木造住宅の場合は 30 年程度だと一般に考えられてきた。だが世界最古の木造建築物と言われる法隆寺は、実に築 1,400 年を超えている。また民家建造物としては日本最古とされる箱木家住宅 (箱木千年家とも呼ばれる) の主屋も、その建材は 700 年以上前の木材だ。

木造住宅の多い日本で新築が重視されてきた背景には、戦後に建築された住宅の質や、市場・流通の問題などがあった。だが既に住宅ストックが量的に充足した現在、少子高齢化や都市化のさらなる進行、景気の低迷なども背景として、リフォームやリノベーションなど、既存の建物を生かした設計に注目が集まるようになってきている。

岐阜県、愛知県で木造戸建住宅の新築や改修、事務所や店舗などを手がけ、自らも国土交通省の検討会に参加してきたアーキ・キューブ一級建築士事務所の大石佳知所長は「この数年の、世の中の大きなシフトが我々設計の世界にもやってくることは分かっていました」と語る。「そして、リフォームに設計事務所がどう関わっていけるかを考え始めるようになり、ほどよい古さの住宅を新築並みのスペックへ上げていく改修に、より注力していくことに決めました」。

2000 年に事務所設立後、3D プリンターや VR などのテクノロジーにも岐阜県情報技術研究所とともに取り組み、それらを設計に生かしてきた大石氏にとって、早い段階から BIM への取り組みを行ったのも自然な流れだった。「僕らの頭の中にあるものを施主や住まい手に理解してもらうには、従来はパースか模型、図面という手段しかなく、何となくしか伝わないまま進むことがほとんどでした。Revit であれば、頭の中の自分たちのイメージをダイレクトに表現できます。しかも、ある程度の経験を積んだ建築士でも、比較的若い建築の技術者であっても、施主に対して同じようなレベルでプレゼンができることが興味深いですね」。

同社がリフォームを手掛けるのは築 20 年から 40 年程度のものが多いが、その半数近くに図面が残っていないという。新成長戦略に示された、2020 年までの「中古流通住宅・リフォーム市場の倍増」を実現すべく策定された「中古住宅・リフォームトータルプラン」にもとづき、2013 年には第三者が検査・調査がインスペクションを行う際のガイドラインが「既存住宅インスペクション・ガイドライン」として公表されるなど、消費者が中古物件の状態・品質を把握できる環境も整いつつある。「その調査をする際に図面化が必要なので、それをどう効率良くできるかが重要です」(大石氏)。

「図面もなければ資料も残っていない、飛騨地方にある造り酒屋の店舗だった建物を耐震改装したいというときに、大変な人工(にんく)をかけて現況図を2Dで作りました。それを BIM モデルにして 3D 図面を作り、改修計画を立てようと思うと、相当の工数がかかります」と、大石氏。「梁の寸法をひとつずつ測ったり、部屋の柱のスパンを計測して図面化したりする作業にすごく工数がかかったので、それをいかに省力化するか。3D レーザースキャナーの存在は知っていましたが高価で導入が難しかったので、それに代わる、リフォームに使えるものを自社で開発しました」。

アーキ・キューブ 3D レーザースキャナー
アーキ・キューブが開発した「現況建物測定システム」の 3D レーザースキャナー本体。PC 用の専用アプリでコントロールしている。

「事前の調査と現況図の作成にかけられるコストを考えると、そこに何千万円もする機械を投入するのは難しい。調査の省力化と低コスト化が要になると思いました。スキャナーがあれば、自分が立ち会わなくても点群の情報が集まる。それに点群データと 360° 撮影可能な全天球カメラ THETA の情報を渡せば、現場に行かなくても写真と点群だけでモデルを作ることができます」。

アーキ・キューブが開発した「現況建物測定システム」は、自動車の自動安全技術やロボットの自立走行の際に状況を把握するのに使われる測域センサーを、アルミ製アングルで 2 軸式の雲台にマウントしたもの。中小企業庁の「ものづくり補助金」を活用し、開発には岐阜県情報技術研究所の協力を得ている。水平方向への回転は0.032度、垂直方向には 0.25 度のピッチでスキャンを行うことが可能。通常は水平方向も 0.25 度ピッチで回転させ、10 分ほどで点群データをキャプチャできる。このデータは、アプリケーション上で回転の誤差を補正したり、ReCap で読み込めるファイル形式へ変換したりすることも可能だ。

「この測定器は自分を中心にして 20 m ぐらいの半円球くらいは測定できるので、大学の先生と、倉庫など近代遺産建築物の研究としての測定もしています。ドローンなども含めて、いま現況調査が建築士の新しい仕事になるとも言われていますし、我々の仕事も調査にシフトしていくことも視野にいれています。赤外線サーモグラフィなども使いながら、建物のモデルを作るサービスをできないかとも模索しています」。

アーキ・キューブ 3D スキャン
記録するのに手間のかかる床の間など和室の造作材も、3D スキャンにより簡単に記録できる [提供: アーキ・キューブ]

アーキ・キューブは現在、大石氏を含めた 6 名の事務所で、設計を行うスタッフ全員が Revit を使用できるようになっている。プレゼンで、設計内容をいかに施主に分かりやすく見せられるかに力が入れられており、また BIM により改修の仕事もやりやすくなっているという。

「2D でやっていたころは、現況図と改修図をバラバラに書いていました。現況図には壊すところだけにフォーカスして表示したり、改修図ではもともとあるものは破線で表示したりと、2D ならではの表現方法でやっていたんですが、新たな図面の方では柱や壁などの付け足さなければいけない部材が表示されていないなどの問題もありました。BIM で作業することで、そうした確認も不要になりましたね」。

「改修は人が作った建物、計画した建物を触るという意味で、すごくリスクを感じている建築士の人は多いと思います」と、大石氏。「いちから作るのとは違って、以前作った人の瑕疵まで責任を持たなければならないという、ネガティブな発想を持っている人も多いのではないでしょうか。でも住まい手は、古くなったから改修したいというだけでなく、自分たちの生活の質をよくしたいと思ってリフォームを希望されるんです」。

「単に表面を綺麗にするようなリフォームであれば、僕らのかかわる余地はないんですけど、骨組みを取り外したりしてがらっとプランを変えることで、自由度は格段に上がります。新築よりも改修工事の方が、住まい手の満足度は高い。リフォームは、すごく評価をしてもらえる仕事だと、我々は考えています」。

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