AirGo: ボディスキャンにより人間中心設計のアプローチの最前列へ

by Rosa Trieu
- 2017年11月2日
AirGo Design Njord
新型の AirGo Njord バス座席の画像 [提供: AirGo]

公共交通機関による大量輸送のための優先リストでは、乗客の快適さは最低にランクされているように思える。これは長旅では特に悩ましいことだが、シンガポールを拠点とするスタートアップ AirGo Design が、その状況を変える取り組みを行っている。同社は既にエコノミー クラスの座席に大変革をもたらすことで 84 兆円市場である航空業界への進出に成功しており、その範囲を船舶 (フェリー) やバスの座席にも拡大するつもりだ。

こうした他の交通産業への取り組みは、最初から計画の一部だったわけではない。AirGo は、当初は既存の長距離路線用エコノミー座席向けにデザインした、超軽量でエルゴノミックな薄型シート フレームで勢力を伸ばした。航空会社をアップグレードに納得させることは、大変な挑戦だった。この業界は、厳しい規制と利幅の小ささが悩みの種だ。だが数々のテストと認証を経て、このスタートアップが手がける座席は 2018 年までに大量生産が始まり、2019 年には運用される予定だ。また昨年には、船舶を製造する企業から、フェリーの座席を改良するようアプローチを受けている。

AirGo Njord エルゴノミック バス 座席
AirGo の座席は、より健康的な着席姿勢を促進 [提供: AirGo]

機械工学部の出身である AirGo 共同設立者兼 CTO のアリレザ・ヤグホウビ氏は、「フェリー用の座席は、バス用に近いことが分かりました」と話す。「認可手続きは異なりますが、本質的には同じ製品です。参入予定でなかったさまざまな業界から多数の要望があり、あらゆる業界が新たなデザインを求めていることを理解しました」。

これまでの公共交通機関の座席は、人体計測グラフを使って、体型が小さい方から 50% 値、95% 値、99% 値の平均でデザインされてきた。AirGo のデザイン プロセスには平均値でなく 3D ボディ スキャニングの技術が取り入れられ、他に類のない「人間中心設計」になっている。「一度に 3 種類の数字を扱ったとしても、身体は数字ではありません」と、ヤグホウビ氏。「分布として表れますが、それを図表から理解することは難しいのです」。

AirGo ボディスキャン
この 3D スキャン画像は起立時の男性の背中が後方にカーブしていることを示している [提供: AirGo]

例えばアームレストが座席の低い場所に取り付けられていると、デザインの指標として使用されている「平均」より背が高い、あるいは低い人は、アームレストを利用するために腕を伸ばさなければならず、首や肩上部の筋肉に負担がかかる。「こうしたことは、グラフや表を検討するだけでは分かりません。それは数値に過ぎないからです」と、ヤグホウビ氏。「人体をスキャンすることに比べると、インタラクティブではないのです」。

座席を開発するため、AirGo は平均より背が高い、もしくは低い男女各 10 名ずつほどの 3D スキャンを行った。男性は 165 – 190 cm、女性は 155 – 180 cm の範囲をカバーする男女それぞれ 3 種類の標準モデル (低身長、平均、高身長) を作成して、それが座席のおおまかな外形をデザインするための指標として利用された。外形は、身体の部位から取得されたノード (スキャンに含まれる点) の範囲から抽出される。部位としては膝の位置、首の高さ、腰の曲線などがあるが、これらの形状は人により異なる。

AirGo Njord が腰椎の優れたサポートを提供
AirGo Njord シートの背もたれのカーブは人体の曲線に沿っており、腰椎の良好なサポートを提供する [提供: AirGo]

「女性は起立時に比べて着席時の腰のカーブが 10 度も変化することが分かりました」と、ヤグホウビ氏。「女性にとって背中をまっすぐにして座ることは難しく、背もたれはフラットではない方が適しています。一方、男性の身体は背中の方向へ自然にカーブしているため、あらかじめ 5 度から 10 度ほど傾けておくのが望ましいでしょう。現在の座席のほとんどは、リクライニングを使用していない場合、完全に直立しています」。

こうした研究結果をもとに、AirGo の背もたれは 15 – 65 歳の乗客の 95% へ快適にフィットするよう作成されている。一方、座席を過度に安定させると重量が増え、コストが高くなる。だが、3D スキャニング技術を使用することで、さまざまなサイズ、年齢、性別の人々が隣り合って快適に着席ができる。「快適さとは非常に主観的なものであり、特に座席の使用層が分からない場合はその傾向が顕著です」と、ヤグホウビ氏。「背丈も体格もそれぞれ違いますから」。

AirGo がデザインする座席のもうひとつの利点は、自動クリーニング機能だ。これは、材料工学を学んだヤグホウビ氏の経歴と、航空機には鮮やかな色が使用されていないという観察結果に端を発するものだ。「グレーやダークブルー、ブラウンといった色ばかりが使用されています」と、ヤグホウビ氏。「その理由は、白だとすぐシミになってしまうからです」。

AirGo の座席には超撥水・超撥油性を持つ、フッ素重合体の水性エマルジョンが噴射されている。これにより汚れが付きにくくなり、抗菌性が付加され、食品や油、細菌、臭いの染みつきを防ぐ。その結果、AirGo はモダンで色彩豊かな座席を製造することができるのだ。飛行機、バス、船舶に対する各製品は、飛行機またはバス用のモデルに使用可能な材料の種類によって異なる。

バスや船舶の座席として実装することは、飛行機の座席と比べてずっと簡単だとヤグホウビ氏は話す。既に業界認可を受けてバス フレームを製造している Khimaira Oy (フィンランド) など、他のバス座席メーカーと提携できるからだ。ヤグホウビ氏は、年内にもヨーロッパの主要なバス メーカーにプロトタイプを提示する予定になっている。

AirGo のデザイン プロセスには、さまざまな種類の張り布のプロトタイプ作成や、オステオモーフィック デザインを実現するためのクッションのラミネート加工も含まれている。オステオモーフィック デザインとは、座席スポンジを幾何学模様に配置し、さまざまな圧点を支えるよう、スポンジに厚みに変化を持たせるデザインを意味する。乗客が着席すると、(そのサイズや体型を問わず) クッションがさまざまな圧力に対応し、血流量を増加させ、しびれを低減させる。

AirGo の座席により改善される背部サポートと着席姿勢は、現行のシート配置と同じ配置でも、足元の広さ (各社の取り組みの英文情報) を確保するのに役立つ。空間の最大限の活用を目指す航空会社にとって、これは重要な検討事項だ。より良いデザインは、特に飛行機で見られるような、限られた空間にできるだけ多くの座席を詰め込むという、限界に到達しつつあるアプローチを緩和できるかもしれない。軽量で環境に優しい材料と快適性優先のアプローチを用いることは、乗客にも、交通産業の収益にも利点をもたらすことができるのだ。

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