スマート シティと国境なき世界: 境界線でなくインフラが示された地図

by Taz Khatri
- 2016年9月29日

パラグ・カンナ氏の母親は、妊娠 8 カ月で飛行機への搭乗許可を得るため、大量の書類にサインした。その結果、彼女は人生最大の乱気流を体験することになる。カンナ氏は、現代社会を定義する人間に定められた国境も及ばない、空高くで生まれるところだったのだ。

偶然か、はたまた運命か。このエピソードは、国境という概念を越えたグローバル シチズンで、思想的指導者へ成長したカンナ氏にお似合いだ。TED スピーカー であり、CNN グローバル コントリビューターでもある彼の新刊「Connectography」は、こう問い掛ける。「境界なき世界に生きるとは、どのようなことだろう?」。彼は交通手段やエネルギー、水、公衆衛生、通信などインフラというレンズを通して、私たちの世界はさらにつながり、政治的国境はその意味を失っていくという結論を下している。「私たちはこれまで、完全かつ均質で、独立した国家に暮らしたことはありません」と、カンナ氏。「全てはフィクションだったのです」。

国境なき世界

私ごとは政治ごと
カンナ氏の個人的な体験が、そのつながりの理論に反映されていることは特筆すべきだ。「生まれたときからずっと旅をしてきました」と、カンナ氏。「長い間、国から国へと移動を続け、最終的にそれが身を立てるきっかけになったのです」。

カンナ氏はインドで生まれ、アブダビとドバイで育った。その後 8 年間をニューヨークで過ごし、交換留学生としてドイツの高校を卒業する。ジョージタウン大学を卒業後、ニューヨークとジュネーヴに暮らし、ロンドン スクール オブ エコノミクスで博士号を取得する前は世界経済フォーラムで働いていた。現在、カンナ氏と家族はシンガポールに住んでいる。こうした国際的な人生を送っている彼が、世界を国境ではなくインフラとサプライ チェーンに権限を与えられたものだと見るのも理解できる。

「“…スタン”で終わる国名が並ぶ中央アジアを旅した際、力の道具となるのは戦車や空母ではなく、道路であり、鉄道であり、工事作業員なのだと気付きました」と、スタン氏。

国境なき世界
[提供: Parag Khanna]

現在、ほとんどの人は世界を、地図上の国境により明確に区切られた国々で構成されたものだと理解している。だがカンナ氏はこう指摘する。「国境ではなくインフラのみを示した地図を見れば、インフラより境界線が重要だと考えることもないでしょう。事実、インフラは国境より遙かに重要です。インフラは人々や資源、商品、アイデア、財源、資本をつなげます」。

「例えば商取引や資本の量と、国境を越える移民の数に目を向けてみましょう」と、カンナ氏。「あるいは、ビジネス旅行者の数、テクノロジーの流れ、自然資源が、世界のある場所から別の場所へどう移動するかで考察することもできます。人間の存在がかかわる、ありとあらゆるカテゴリーにおいて、考え得るデータポイントの全てで例外なく“つながり”が加速しており、歴史上のどんな時点よりも遙かに大きくなっていることを示しています」。

政治家と国境
消えゆく境界線というムーブメントをよそに、外国人の排斥や保護主義的政策も根強く残っている。米国とメキシコの国境に壁を建設することを呼びかけている共和党大統領候補ドナルド・トランプが、その例だ。

トランプは「壁建設の費用はメキシコが負担すべき」であり、「メキシコがそれを実行するまで、アメリカ政府は違法賃金で派生する送金の没収、メキシコ人 CEO および外交官に対して発行される全ての短期滞在ビザの手数料引き上げ、メキシコ人に対して年間 100 万件以上発行されている全ての国境通過カードの手数料引き上げ、メキシコからの全ての NAFTA 労働者ビザの手数料引き上げ、メキシコから米国への通関手続き手数料の引き上げを行う」と、述べている

国境なき世界
[提供: Parag Khanna]

だがカンナ氏は、この保守派政治家の発言については心配していない。「ドナルド・トランプが米国とメキシコの国境に壁を建設すると話すことに、それほど関心はありません」と、カンナ氏。「保守政治が心配されていますが、実際に彼らが実権を握ることになれば、相互依存という現実が、とげとげしい態度を緩和するでしょう」。

このカンナ氏がいう現実とは、限定的なものでなく、国家間での増加する移動だ。扇情政治をよそに、世界は急進的につながりの傾向を見せている。例えばヨーロッパは、保安面や経済面の懸念から国境警備を強化しつつあると考えられている。だがカンナ氏は、こう指摘する。「歴史上で、ヨーロッパへの年間入国者数が 2015 年ほど多かった年はありません。演説に耳を傾けるだけでなく、事実に目を向けるべきです」。

トランプのような政治家は、移民が国の経済に悪影響を与えていると主張しているが、カンナ氏は異論を唱える。「アメリカは企業家としての移民を必要としています。そして綿花やアーモンドを収穫するための移民も、老人の世話をするための移民も、バスの運転手や医者としての移民も。ヨーロッパもアメリカと同じく、より多くの移民を必要としています」。

だが一部の政治家が国境を閉ざしたいと願う理由は、経済だけではない。テロリスト攻撃が増加しつつある中、治安は政府にとって絶えず付きまとう懸念となっている。カンナ氏も「国境警備を強化することは、特定のテロリスト攻撃の阻止につながる可能性もあります」と認める。「しかし現況は、テロリストの多くは攻撃対象となる国の同じ市民であったり、欧米諸国のパスポートを所持する者であったりするため、国境を越えてシームレスに移動することができる以上、こうした類の移動を今さら止めても仕方ありません。いずれの場合にも、国内におけるテロ行為はテロリスト攻撃の 90% 以上を占めており、国境警備の強化が果たしてどれほどの効果をもたらすのかは定かではありません」。

境界を崩す
国境の取り締まりを強化するのではなく、カンナ氏はその逆を勧める。「パンデミックやテロリストを除き、あらゆる種類の移動を解き放つことは、概して良い結果をもたらします」と、カンナ氏。「世界中の重要な地域はどこも、ビザ要件やデジタル技術への障壁、投資資本と労働力の移動の緩和に向かっており、ますます多くの越境インフラを構築しています。世界で最も危険と考えられる地域でも、このようなことが行われているのです」。

国境なき世界

だが、市民はこの流れにどう対応し、国境なき世界を受け入れていくのだろうか? それはゆっくりと進展するだろうとカンナ氏は話す。「一挙に国境が消えることはありません。さまざまな場所で、さまざまなタイミングで消失していくでしょう」。それは国ごと、地域ごとに起こる。「平和で安定した国境のない世界を構築するには、各国が安定性と他国との関係を向上させ、そうした地域を少しずつ拡大していくことです」。

カンナ氏は、国境なき世界という概念は、その言葉からイメージされるほど急進的な考えではないと断言する。世界を、地図上に引かれた動きのない線としてではなく、ネットワークとして考える、ただそれだけのことなのだ。カンナ氏は、ワシントンのブレーンが「Connectography」に注目し、世界を分断されたものでなく、つながったものとして捉えるようになることを願っている。

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