炭素繊維は建築材料のスーパーヒーローとなれるのか?

by Matt Alderton
- 2018年1月10日
炭素繊維 建築
その軽量で独特な特性により、炭素繊維はエキサイティングな建築資材となる可能性を秘めていると、Autodesk BUILD Space の研究者たちは話す [提供: シュトゥットガルト大学]

高架鉄道の環状線が走っていることから「ループ」と呼ばれる、シカゴ・ダウンタウンのビジネス地区。ウィークデイは、天敵から逃げるアンテロープの群れのように急いで通りを渡る人々で、常に溢れかえっている。大抵の人は、フィールド・ビルの横を、その重要性を深く考えることもなく小走りで通り過ぎていく。この場所に建設され、1931 年に取り壊された歴史的建築物、ホーム・インシュアランス・ビルのことだ。1884 年に建造されたこの建物は、構造用鋼を使用した金属骨組で建てられた、初めて高層建築物だった。構造用鋼は、木造や石造よりも高層かつ強固な構造で迅速な建設を実現する、軽量かつ手頃な価格で、耐久性に優れた材料だ。

世界初の高層ビルとされるホーム・インシュアランス・ビルは、鋼が実際に活用可能な建築材料であり、鉄骨構造が実用的な技法であることを実証した。そして、その後の建築、エンジニアリング、建設の方向性を永久に変えることになる。10 階建て(約 42 m) とそれほど高くはなかったが、206 階建て、地上高 800 m を超える現世界一のドバイの超高層ビル、ブルジュ・ハリファを含め、それ以降に建設された高層ビルの先駆的な存在となった。

鋼と鉄骨構造は、それから 130 年を経た現在も建築界の王として君臨している。だが、複合材料とロボット製造技術のイノベーションは、新たな君主による王座奪還の日が近いことを示唆しているのかもしれない。そして、ボストンの Autodesk BUILD Space (BUILD は Building, Innovation, Learning, Design に由来) で行われている研究は、社会を一変させるほどの斬新さの兆候かもしれない。

炭素繊維 建築
BUILD Space で炭素繊維の糸を編む Ibañez Kim プロジェクト チームのメンバー [提供: Salem Chism]

魔法の材料

未来のビルの最も前途有望な複合材料、それは炭素繊維 (カーボンファイバー) だ。炭素原子を結晶構造で結合させた、長く、人髪よりも細い糸状の繊維で構成されるポリマー (高分子化合物) で、鋼より軽量だが 5 倍の強度、2 倍の剛性を持つ。その特性から製造業界では特に人気があり、この繊維を撚り合わせて作成されるより糸 (ストランド) は、生地の作成や成形に使用される。こうしたプロセスは、自転車のフレーム、釣り竿、飛行機の翼からレーシングカーのボディ、ゴルフクラブのシャフト、帆船のマストまで、さまざまなものに使用されている。

マサチューセッツ州ケンブリッジの建築デザイン事務所 Ibañez Kim で主任を務める建築家であり、BUILD Space の新たなレジデントとなったサイモン・キム氏は「炭素繊維やその他の複合材料は、極めてパフォーマティブだと言えます。つまり超軽量でありながら、耐荷重性が非常に優れているのです」と述べている。

炭素繊維は極めて独特な特性を持ち、キム氏や他の研究者は、理想的な建築材料になると考えている。「複合材料は、迅速な製造とカスタマイゼーションにおいて、非常に興味深い存在です」と話すキム氏は、炭素繊維による小型住宅用フェンスの作成にはわずか数週間しかかからないが、従来の材料では数カ月はかかると付け加える。「複合材料を用いた構造物は比較的短期間で建設でき、ゼネコンや施工会社から資材供給に至るまで、それほど特殊な作業やワークフローを必要としません。そのため、より迅速に仕事を進めることができ、納入までの期間を短縮し、材料の量を削減して、価格も抑制できます」。

炭素繊維は柔軟かつ軽量であるため、輸送も簡単だ。「モジュールは簡単に持ち上げることができ、どこへでも運搬できるので、必要に応じてつなぎ合わせて、より大型の部品を作成することが可能です」と、キム氏。「そのため複合材料による構造は、従来のビルと比べると、はるかに柔軟性に優れています。従来のビルは不変性があるものだとみなされてきましたが、それは必ずしも良いことではないのです」。

炭素繊維 建築 BUILD Space
BUILD Space に設置された製造セットアップ [提供: シュトゥットガルト大学]

未来を組み上げる

高層ビルを生み出したのは鋼の登場だけではない。建築家が鋼の利点を活用するには、新たな建築技術も必要とされる。それが鉄骨構造だった。炭素繊維のようなイノベーティブな材料でも、それは同じだ。そのポテンシャルは、研究室と現場の間のギャップを埋める最先端の製造手法が開発されるかどうかにかかっている。

BUILD Space に滞在中、キム氏と、同僚のレジデントであるシュトゥットガルト大学院生のアユブ・ラーチ氏、イェンシェン・リュー氏は、これらの手法の検証と実演を行った。彼らの取り組みは、複合材料の建築が鋼と同じほど、あるいはそれ以上に強固なものになるという未来を予示するものだ。

彫刻から構造へ

キム氏は 2017 年 6 月、ボストンへ招聘され、レジデンスを開始。彼の目標は、炭素繊維による建築物が、優れた機能性だけでなく構造をも生み出せると示すことにあった。さまざまな樹脂の強度特性の評価、複合材料である CFRP (炭素繊維強化プラスチック) の作成など、彼の実験は、現実世界における自身の作品作りにも影響を与えている。

「仮設の建造物により、炭素繊維がいかにパフォーマティブであるのかを紹介するだけでなく、それが文化的見地からも美しいものだということを紹介しています」と語るキム氏の作品「The Forest of Sound」は、CFRP構造の視覚的、触知的な特性にハイライトを当てたものだ。ピュー慈善信託に資金提供を受けたこのプロジェクトは、オペラ作曲家のレムビット・ビーチャー氏の作品「Sophia’s Forest」のワールドプレミアのために、彼と完成させたものだ。この 2017 年 9 月にフィラデルフィアで初演が行われたオペラ作品には、キム氏と BUILD Space での自身のチームが作成した 9 点の「サウンド スカルプチュア」が登場する。それぞれ人間の演者と同サイズで、炭素繊維を織って作成された外殻構造から構成されており、上演中に環境音を生み出す機械仕掛けの楽器が内蔵されている。

これはクモの巣や繭を思わせる姿の、持ち運び可能な彫刻として構成されてはいるが、キム氏によると、建築における炭素繊維の可能性を暗示したものとなっている。氏は、空調設備のある倉庫など既存の構造体に炭素繊維製の外殻や被膜を加えることで、建造物を再利用する未来を思い描く。外観はそのまま残されるが、内部はサウンド スカルプチュアと同じプロセスと原理を用いて製造された、モジュール式のオフィスや居住空間でカスタマイズ可能だ。

「新たな施設を建築することもできますが、数百年分の建造物が今後も厳然と存在し続けるという事実を受け入れなければなりません」と、キム氏。「コンクリートやレンガ、石板による建築物を解体して再建するのは、カーボン オフセットやCO2排出量の見地からも困難です。建築物を再利用し、極めて精巧かつ軽量で、しかも安価な“追加物”を活用して、その機能を最新のものにすればよいのではないでしょうか」。

未来の製造を形作る

らせんや球体、曲線や錐体など、自然界は興味深い形状で満ちている。それにも関わらず、建築物の世界は、三角、丸、四角で構成されていることが余りに多い。建築物に応用可能な形状の種類を広げるべく、ラーチ氏とリュー氏は、BUILD Space でのレジデンス期間中、繊維強化複合材料 (FRC) の形状の可能性について研究を行った。

炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などの FRC で、これまでにない形状を生み出すには、効果的な製造手法が必要だとラーチ氏は話す。「繊維の最高の活用法はラージスパンの構造で、例えばスタジアムの屋根のように、その下の空間を塞いでしまう柱を設置したくない場合がそうです」と、ラーチ氏。「そうした建築物を現時点で建設するには、3D プリントによる住宅を作れるような、あるいは産業用ロボット アームのような大型機器を使うことになるでしょう。ただし、前者を現場で使うことは考えづらいですし、後者の場合はアームの可動範囲による制約が加わります。私たちは、ひとかたまりで継ぎ目のない、大型の [FRC] 構造物に適した、実用的な製造手法を実現しようとしているのです」。

期待の持てる製造手法のひとつとして、ケーブル ロボットを使用するものがあるとラーチ氏は話す。彼のチームは、BUILD Space でケーブル ロボットの可能性を実証してみせた。ロープを使用して炭素繊維の性質を模倣してみたのだ。

「スタジアムで使われているスカイカムは、カメラを搭載したケーブル ロボットです」と語るラーチ氏は、 2 基のケーブル ロボットによるシステムを考案。ケーブル ロボット 1 基が別の 1 基の上に配置され、2 基が同時に動作する。ケーブル上を移動する際、ロボット同士がロープを交換することで、屈曲したユニークな形状が生み出されるのだ。「大型かつ軽量の構造体を作る場合には、繊維が優れた選択肢となります。低コストで利用しやすい製造手法の研究により、繊維による建築が現場での主流になればと願っています」。

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