マイ デザイン マインド: ディスレクシアを抱えた海軍エンジニア、クリスティーン・デイリー氏の仕事

海軍研究所 機械技術者 クリスティーン・デイリー
2010 年にテキサス州ヒューストンで NASA の微小重力実験用放物線飛行機に搭乗した、海軍研究所の機械技術者クリスティーン・デイリー氏 [提供: NASA/Christine Dailey]

クリスティーン・デイリー氏は幼い頃に、ディスレクシア (読字障害) という診断を受ける。耳にする言葉は支離滅裂に聞こえ、綴りに苦労し、単語は逆から読んでいた。6 年生の時点で、彼女の読解能力は 4 年生のレベルだった。

その後入学した中学校で、学校のカウンセラーから勧められたのは、中退してファストフード店で働き、経験を積んで社会の一員としての地位を築くことだった。

だが、彼女はそのアドバイスには耳を貸さなかった。現在はワシントン DC の米国海軍研究所 (Naval Research Laboratory) で、機械工学士として戦術的電子戦部門 (Tactical Electronic Warfare Division) で活躍。またエンブリー・リドル航空大学 (ERAU) で、博士号取得に向けて勉学に励んでいる。その上、学生の科学、技術、工学、数学 (STEM) 分野でのキャリアの関心を高めるべく、無人機システム国際協会 (AUVSI: Association for Unmanned Vehicles Systems International) の基金で開設されたプログラム、RoboNation TV の共同司会も務めている。

テキサス州ヒューストン NASA 微小重力実験用放物線飛行機 デイリー氏 エンジニアたち
テキサス州ヒューストンで NASA の微小重力実験用放物線飛行機に搭乗したデイリー氏とエンジニアたち [提供: NASA/Christine Dailey]

生まれながらの発明家であるデイリー氏は、流体力学から電子工学まで、さまざまな分野に興味を示す。これまでに、自動運転車両を製作し、携帯電話の基地局や対ミサイル防御システムの開発に携わり、宇宙飛行士向けのエクササイズ マシンを設計してきた。その彼女の並外れた精神と、いかに学習困難を乗り越え、エキサイティングな工学分野におけるキャリアを着実に歩んできたかを語ってもらった。

発明家として、短期間のうちにかなりの成功を収めていますね。ここまでの経緯を聞かせていただけますか?
なかなか大変な道のりでした。しばらくはスポーツ ジャーナリストとして活動していましたが、チームの勝ち負けの記事ばかり書くことに飽きてしまったんです。やりがいを感じられなくなり、学業に復帰しました。両親はフロリダ州タンパでモルタルや漆喰の製造、流通、卸売を行う Mega Mix という会社を経営しており、その方法を自然に理解していました。修繕のやり方や、目の前にあるもので間に合わせる方法を身につけたんです。自然な成り行きでした。そしてエンブリー・リドル航空大学のツアーで出会った、機械工学部教授のチャールズ・ラインホルツ博士が、ロボット工学研究室を覗かせてくれました。私の目は、クリスマスの朝を迎えた小さな子供のように輝いていましたよ。「これだ!」と思ったんです。これこそが私がやりたいことで、ここが私がいるべき場所だと感じました。

抵抗エクササイズ マシン Entirety 微小重力の悪影響を抑える 下半身陰圧負荷装置
抵抗エクササイズ マシン「Entirety」は微小重力の悪影響を抑えるための下半身陰圧負荷装置 [提供: Christine Dailey]

海軍研究所では無人航空機を開発していますが、そこにはどのようなクリエイティブな思考が生かされているのでしょうか?
どんなデザインでも、ニーズと動機を理解する必要があります。私たちの取引先は米国海軍ということになるので、海軍の艦隊に関して、海軍がテクノロジーの最先端を維持するのに何が必要かを理解する必要があります。それは単にミサイルや爆弾ではなく、むしろインテリジェントな機械や無人システムの製造を意味します。爆破するのは、家族の一員ではなく車にしたいですからね。この種のロボットは、民間でもさまざまな用途に活用できます。たとえば、採掘は非常に危険な作業です。適切なセンサーを搭載したロボットなら、採掘抗に入って調査を行い、ガスやその他の資源の検出や、高温のエリアや安全なエリアを確認、苛性カリの探索などができます。これは、戦地で使用する場合と変わりません。

下半身陰圧負荷室に適応した、宇宙空間用のエクササイズ マシンの特許を、米国特許商標庁に出願中だそうですね。そのアイデアはどこから得られたのでしょう?
指導教官のラインホルツ博士から、ブラジルのポルト・アレグレに留学し、既存の陰圧負荷室に組み込み可能なエクササイズマシンの開発に関わらないかと打診されたんです。当時、そうしたものはほとんどありませんでした。私の父は独立前の子供には干渉するタイプで、常日頃から「機会を与えられたら、上司にノーとは絶対に言うな」と言い聞かされていました。当時の私は、宇宙のことも、エクササイズのことも、宇宙飛行士のことも何も知りませんでした。
でも父の声を思い出し、博士に「もちろん行きます」と答えたんです。2 年後には上出来のシステムと、そのデザイン プロセス全体を説明したを手にしていました。

デイリー氏の装置の設計図
デイリー氏の装置の設計図 [提供: Christine Dailey]

このデザインへと導くような、インスピレーションが生まれた瞬間があったのでしょうか?
いいえ。私は物事をシンプルに捉える方で、それがエンジニアとしての仕事に役立っていると思います。シンプルな処置で問題を解決できるなら、わざわざ複雑なやり方をする必要はありません。骨量の減少を抑えるには、運動が有効です。それを実現する効果的な方法は、該当する骨に垂直抗力を与えることです。筋肉にも同じことが言えます。各位個人で個々に応じて量は異なりますが、一定の抵抗をかけることで、筋肉の萎縮を抑えることができます。宇宙旅行が身体に与える悪影響すべてをまとめ、最適な解決策を生み出そうと心がけました。すべての問題を、1 台のマシンで解決するには? (米国海軍の潜水艦) ノーチラスのような、強力な抵抗を生み出すバネというシンプルなアイデアから構築していきました。

ディスレクシアに苦しんでいることを、オープンにされていますね。学校を辞めず、エンジニアを目指した動機は?
間違いなく両親の影響ですね。読むのに苦労していたときに、私を座らせて、1 ページずつ読んでいけばいいと言ってくれました。それが 4 ページずつ、章ごとというように増えていったのです。長い時間をかけてくれました。母は綴りを教えるため、紙切れに 1 文字ずつアルファベットを書き、それをリビングの床にバラバラに並べたのです。それをパズルのように組み合わせて、綴りを覚えていきました。両親と家族のサポートのおかげで、今の私があると思っています。

RoboNation TV での活動からして、STEM 分野でキャリアを築こうとする若い女性に役立つ経験とは、どのようなものだと思いますか?
私を含めて、ほとんどの女性は配慮を求めています。望まれている、必要とされていると実感したいのです。RoboNation でロボット工学の学生コンペに参加したときのことは忘れられません。メイクアップ アーティストにメイクを直してもらっていたのですが、本来ロボット作業を行っている筈の若い女性がリップグロスを手にやってきて、「エンジニアが美しさと知性の両方を持ち得るなんて思わなかった。私もあなたみたいに素敵になりたいわ」と言ったのです。私は唖然として、プロデューサーにメイク落としをもらってから、その若い女性に伝えました。素敵だと思うなら、それは知性や努力、倫理からくるものであり、私の顔はそれ以上のものでも以下のものでもないと。その後、彼女の手を取り、彼女がいるべき試験フロアの場所に行って「リップグロスじゃなくて、あなたのロボットを見せて」と言いました。

宇宙空間 微小重力の悪影響に対抗 抵抗エクササイズ マシン イラスト
宇宙空間での微小重力の悪影響に対抗するようデザインされた抵抗エクササイズ マシンのイラスト [提供: Christine Dailey]

この分野に一般的な若い女性を取り込むには、エンジニアがオタクっぽい人たちだいうステレオタイプと戦わなければなりません。大きなフレームの眼鏡をかけ、髪はぼさぼさ、いつも下を向いていて口下手、という、典型的なイメージと。それに男女を問わず、エンジニアリングが本当はすごくクールなものであることを、楽しめる方法で教える必要があります。教科書やテストから離れ、実際にロボット センサーを取り出して「これをコントロールするには、基本方程式を使います」と教えるのです。

優れたデザイナーには大胆さが必要だと思いますか?
「大胆さ」というのは最適な表現ではないと思います。必要なのは自信です。自分の研究結果の正当性に自信があれば、失うものはそれほどありません。宇宙向けエクササイズ マシンを米国海軍省と国防総省へ売り込みに行った際、それを身を以て体験しました。どちらもアイデアを気に入り、非常に強い関心を抱いていましたが、その一方で、この装置は海軍省の最大のニーズに役立つものではありませんでした。ミーティングに入る前からそのことが分かっていましたし、また高官だらけのミーティングで足がすくみましたが、それでも私は諦めませんでした。結果、この装置は海軍の資金援助を受けたものでなかったにもかかわらず、自分の仕事のプレゼンを行う機会を得て、投資家に接触し、上司に顔を覚えてもらうことができました。

Redshift の「マイ デザイン マインド」シリーズは、各界で活躍するデザイナーによる洞察を紹介しています。

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