グリーンビルディングに米国のパリ協定離脱が与える影響は?

グリーン ビルディング
Image composite: Earl Otsuka

2015 年にパリで開催された第 21 回気候変動枠組条約締約国会議に、世界各国の科学者代表団、エネルギーや建設関連の行政機関、政府首脳が一堂に会した。数年にわたる一進一退の交渉を経て、196 の加盟国から成るコンソーシアムは、温室効果ガス排出量を低減して地球温度の上昇を抑える、気候変動抑制に関する歴史的な協定を制定した。

それから 2 年も経たず、気候変動の脅威と、それに対する大衆の関心と不安が高まりつつある中で、ドナルド・トランプ大統領が米国のパリ協定からの離脱を表明。

2015 年のパリ会議に出席した、US Green Building Council (USGBC) のシニア ポリシー カウンセルを務めるエリザベス・ビアズリー氏は、LEED 認証プログラムの職能団体であり、エネルギー使用と温室効果ガス排出量の削減を目標とする支援に取り組む USGBC の政策担当責任者たちの間では、この離脱は非常に不評だと話している。

グリーン ビルディング 気候変動 USGBC
ワシントン DC の US Green Building Council 本部 [提供: USGBC]

「私たちは、もちろん落胆しています」と、ビアズリー氏。「気候変動は紛れもない事実であり、地球規模、国家規模、そして地域規模で、日々の対処に一丸となって取り組むべきことだと考えています。ビル運用でもたらされる可能性のある環境コストのすべてを吸収できてはいません。その影響を低減させる優遇措置を、政策で制定できます」。

とは言え、ビアズリー氏や他の産業政策担当責任者たちは、米国の離脱が持続可能なビルへの投資を減速させたり、民間や地方自治体向けの環境技術の市場を停滞させたりすることはないと確信している。「むしろ、より多くのビジネス提唱者や地方自治体のリーダーたちから、パリ協定目標を達成するべく能力を高めるために、グリーンビルディングやその他のツールを活用する手法の問い合わせを受けるようになっています」と、ビアズリー氏。

米国エネルギー情報局 (Energy Information Administration) が発表した 2017 年の報告書によると、住宅や商業ビルが国内の間エネルギー消費量の約 40% を占めており (英文資料)、建設業界は総じて LEED や Architecture 2030 Challenge などサステナビリティの自発的なイニシアチブに大きく投資している。USGBC のためにブーズ・アレン・ハミルトンが準備した経済インパクト研究 2015 (英文) では、米国のグリーンビルディングは 2011 年から 2014 年の間、GDP のうち 1,674 億ドルを生み出しており、2015 年から 2018 年の間に、その金額は 3,035 億ドルに達すると予測されている。

これらの成長予測は、元ニューヨーク市長マイケル・ブルームバーグ氏が先導するイニシアチブとも共存している。このイニシアチブでは米国内の都市や州、企業の代表者が団結し、米国がパリ協定目標を達成できるよう、再生可能エネルギーと都市圏における高速鉄道構想への取り組み計画を国連に対して提案するものだ。

その一方、USGBC はビルの効率性と性能の向上推進を続けるとビアズリー氏は話す。USGBC によるグリーンビルディングの最新の認証プログラムである LEED v4 では、達成のためのポイントの 1/3 以上が、気候変動の緩和対策に配分されている。

USGBC の姉妹団体であり、世界銀行や世界資源研究所、イクレイ-持続可能性をめざす自治体協議会 (ICLEI) と連携する Green Business Certification Inc. (GBCI) は、住宅向け温室効果ガス排出のスペシャリストのための専門の認証、訓練プログラムを拡大している。また、新しいデジタル プラットフォーム Arc では、ビル単体であっても 1 都市全体であっても、あらゆるプロジェクトを他のプロジェクトに比較して性能を評価できる。このプラットフォームは、ビアズリー氏によると、効率の低いビルのオーナーや、より新しく高性能なモデルのデベロッパーなどが性能を評価し、エネルギーや輸送による炭素排出量、水への影響、健康的な空間を、継続的に向上させることに役立つ。

グリーン ビルディング 気候変動 Brock Environmental Center
International Living Future Institute は Living Building Challenge 達成基準を管理。バージニア州バージニア・ビーチの Brock Environmental Center は、その認証を取得。 [提供: ILFI]

Washington Policy Center の環境ディレクターであるトッド・マイヤーズ氏も、パリ協定からの離脱が米国のグリーンビルディングや再生可能エネルギー企業の妨げとなることはないだろうと話す。「京都議定書と同じような状況です」と、マイヤーズ氏。「アメリカは議定書に批准しませんでしたが、グリーンビルディングやその他の活動に関して言えば、それによって民間企業の活動が妨げられることはありませんでした。ヨーロッパでは、議定書を締結した国でも、その目標を達成できない国が多数ありました。この議定書は、結局はそうした国々に制約を与えるには至らず、大きな効果は生み出せませんでした」。

ネット ゼロ エネルギー ビルの認証を行っている NPO、International Living Future Institute (ILFI) でゼロ エネルギー イニシアチブのディレクターを務めるブラッド・リリエクイスト氏は、この状況を楽観してはいるが、失望してもいる。リリエクエスト氏は、大統領の決断は ILFI に直接の影響を与えてはいないが、気候変動への強力な関与があれば、米国全土でのネット ゼロ エネルギー ビルの増大につながったかもしれないと話す。注目度の高いビジター センターや銀行だけでなく、平凡な住宅ユニットへ、ネット ゼロ エネルギー テクノロジーの導入が促進されたかもしれないのだ。「この業界に関わる多くの人間が、ゼロ エネルギーをポジティブなもの、気候変動に対応できるソリューションだと考えています」と、リリエクエスト氏。「連邦政府規模で、組織化された強固な取り組みが行われれば、拡大のペースは間違いなくアップするでしょう」。

トランプ大統領自身の、不動産デベロッパーとしての USGBC の LEED 認証プログラムへの参加履歴も、エネルギー効率に優れた建設活動における連邦政府政策ガイドラインの役割に疑問を投げ掛ける。Kendeda Fund の報告書によれば、トランプ・オーガナイゼーションが所有する、または「トランプ」の名称の使用許諾を得ている 50 棟以上のビルのうち、LEED 認証の対象として USGBC が公式にリストアップしているのは 1 ユニットのみだ。このユニットは、シカゴのトランプ・インターナショナル・ホテル&タワー・シカゴ (Trump International Hotel & Tower Chicago) の 62C で、LEED の「インテリア設計および建設」認証システムの取得を試みている。

グリーン ビルディング 気候変動 Trump Tower Chicago
数あるトランプ所有の不動産の中で、LEED 認証取得を試みているのはトランプ・インターナショナル・ホテル&タワー・シカゴ (Trump International Hotel & Tower Chicago) の 1 ユニットのみ

いずれにせよ、米国の離脱が中国やブラジル、インドなど、他の参加国のエネルギー使用と排出量の目標を変えることはないだろう。これらの国々は、今後 10 年間のグリーン インフラ成長の中核を担うと予想されている。Dodge Data & Analytics の報告書 (英文) によると、中国は面積別では米国に次ぐ LEED 導入を行なっており、LEED 認証エリアの総面積は約 3,462 万平米に及ぶ。世界のグリーンビルディングは、中国での導入により 3 年ごとに倍増すると予想されている。

パリ協定は、いろいろな意味で進行中の案件であり、その義務が徐々に強化される野心的な協定だ。パリ協定公約の第 1 ラウンドでは、合意した長期気温目標を大幅に上回ると予想される。だが、ハワイ大学の科学者で、専門誌「Nature Climate Change」に発表された研究 (英文) の主執筆者であるカミーロ・モーラ氏は、その目標は地球上のほとんどの人類の生命にとって、極めて危険なレベルなのだと話す。彼のチームが行なった 30,000 点に及ぶ学術論文の検証により、1980 年以降、死者を出した熱波の数は 2,000 を超えていることが判明している。現在、不快指数を年間 20 日以上超える地域に、人口の 30 % が居住していると、モーラ氏は話す。

「パリ協定の最良のシナリオ、つまり 2100 年までに温度上昇を 1.5 度に抑えることが実現できたとしても、世界の人口の半分は、2100 年までに致死的な猛暑を体験することになるでしょう」と、モーラ氏。「最善を尽くしても、かなり深刻な状況となるでしょう。パリ協定を離脱して、これまでどおりのやり方を続けるというのは、どうかしています」。

グリーンビルディングに携わるプロフェッショナルたちは、2018年の Facilitative Dialogue in 2018 に注目を向けるだろう。この協議会は、その進展を総体的に判断し、ゆっくりと時間をかけ、より強固な関与を促進することを目的としている。「私たちはこれを、失われた機会、あるいは後回しにされた機会であると考えています」と、ビアズリー氏。「会議の場に参加し、この問題の解決に向けて積極的に関与することが重要であり、その形態に回帰することを期待しています」。

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