気候変動と自然災害が激化する今こそ「より良い復興」を

気候変動 自然災害
気候変動で激化する洪水による災害の防止に、より良い都市計画とレジリエンスを備えたインフラが役立つ

自然災害は、人間の歴史の一部だ。ポンペイの住民がヴェスヴィオ山の噴火の犠牲となって以来、母なる自然が見せる激しさにより、人類は必要以上の命を落としてきた。そして異常気象による災害は悲惨さをさらに増しており、その頻度と損害額の両方が拡大傾向にある。米国内では 2017 年だけでも、損害額が 10 億ドルを超える 自然災害が 15 件も発生している。

温室効果ガスの増加による気温と降水量の偏差は、気候変動と自然災害の激化につながるとされている。国際通貨基金は 2017 年の世界経済見通しで、その国の経済状況を問わず「熱波、暴風、山火事による災害頻度は大幅に増加する見込みだ」と述べている。

こうした災害に対処するため、国際社会は赤十字や米国連邦緊急事態管理庁 (FEMA)、災害対応担当の国際連合機関を通じて大規模なリソースを投入している。だが自然災害で生ずる打撃のかなりの部分を予測、軽減、抑止する能力はあっても、それが能力は発揮されていない場合が多い。

その理由は、公共機関が災害に対して事後に対処するよう組織されており、そのリソースを防止や軽減には割り当てず、必要に応じて支援や救済物資などを小出しにしているからだ。この背景となる心理は容易に理解できる。差し迫って困窮している個々の人にリソースを費やすことの方が、問題の回避に費用を費やすより望ましく見えるのだ。こうした傾向は、活動の本質的な重点が治療に置かれている医療分野など、人間が生み出したあらゆる制度に存在する。防止策は目に見えないものであり、その成功の物差しは死と壊滅状態の回避だけになる。

だが問題の規模が拡大を続け、その予測を提供する新たなテクノロジーの可能性を考えれば、もはやそれは納得できる説明とはならない。今こそ「より良い復興」を行うべきだ。気候変動による災害に耐え得るレジリエンスを備えた、世界のインフラを再興するためのサステナブル デザインの実践の最前線に、最大限の努力を投じるべきときなのだ。

気候変動 自然災害 セールスフォース・タワー
サンフランシスコで最も高いビルとなったセールスフォース・タワー (右) は、性能設計とコンピューター シミュレーションにより地震に対して最も安全なビルにもなっている

自然災害に備えるには、以下の 3 つの必須項目を達成する必要がある。

  • 都市計画法や建築基準法などをアップデートし、その施行を実施させる。
  • 新たに利用できるようになったツールを活用し、建造環境のストレス テストによって海面上昇や強風の影響のシミュレーションを行う。
  • 都市計画に長期的思考を組み込み、現行の政策と公共事業のプロジェクトを、将来的に与える影響に配慮したものとする。

建築基準法の枠を超えて

建築基準法を自発的に向上させ、より高いレジリエンスを促進している人々が存在する。それにより、例えばサンフランシスコ・ベイエリアでは、地震に関連するさまざまな方策が、それ以外の災害対策の機能を果たしている。地震多発地域であるサンフランシスコに新築されたビルの多くは、地震に対する安全対策にベースレベルの建築基準法以上の基準を用いることで、予防的な、かつ「より良い復興」を目指すという価値観を示している。

ARUP が開発した REDi (Resilience-Based Earthquake Design Initiative) 評価システムは、建物への被害と修繕費用、復興時間を最小限に抑えるデザインと計画の基準を策定している。REDi ゴールド認証を得た、サンフランシスコのフレモント通り 181 番地にある 56 階建の商用/住居用ビル (英文情報) は、西海岸で最も耐震性に優れた高層ビルだ。このエリアにおける「最大レベルの地震」とされる M 8.0 規模の地震にも耐え、その修繕費用は建築基準法レベルのビルの 1/10 であり、予想されるダウンタイムもわずか数週間だ (通常は数年間)。

建築基準法改善の必要性は世界的に高まっている。Autodesk Foundation (オートデスク基金) は新興国の人々と連携し、地震や台風に耐え得る住宅や学校を建設する Build Change などの組織を支援している。Build Change 設立者であるエリザベス・ハウスラー博士が言うように「人々を死に追いやるのは、地震ではなく出来の悪いビル」なのだ。Build Change は各政府と連携して建築基準を策定し、より優れた再建技術が学べるよう施工会社にトレーニングを提供している。

シミュレーション テスト

今年初めに竣工し、サンフランシスコで最も高いビルとなった高さ 326 m のセールスフォース・タワーは、液状化現象のエリアに該当しながら最大 M 8.0 の地震にも耐え得る、最も安全なビルのひとつだ。既存の建築基準法以上の基準を採用するだけなく、手間がかかり多大な努力を要するシミュレーション テストの恩恵も受けている。Magnusson Klemencic Associates は、サンフランシスコ市、査読委員会と連携して「性能設計」と呼ばれるプロセスに取り組んだ。このプロセスではコンピューターによるシミュレーションを使用して、ベイエリアで記録された最大レベルの地震をモデルとした 22 回の地震に対する耐震性を検証。建築家は性能設計を採用することで、特定の場所向けにビルを最適化し、より少ない材料を使うことで時間とコストを節約し、そして何よりも重要なことだが、災害に対して先手を打つことができる。

コンピューター シミュレーションにより「アコーディオンスタイル」の伸縮継手やその他の革新的な耐震技術が、ベイブリッジの新しい東側径間の地震の震動をどのように吸収するかを示した

2013 年に完成したサンフランシスコ・オークランド・ベイブリッジの東側区間の架け替え工事は、カリフォルニア州史上でも最大の公共事業となった。エンジニアリング事務所 T.Y. Lin International は、この橋を地震発生時に多方向へ動く「アコーディオン スタイル」の伸縮継手など、新たな耐震手法で設計。コンピューターによる複雑なシミュレーションが設計全体で使われ、地震のリズムに合わせて橋が踊ることで無傷で保たれることが示された。

都市計画のプランナーやビルダーは、最大数の人々を救う決断を下すためにも、こうした物理ツールやデジタル ツールを自由自在に活用できるようになる必要がある。国連の一機関で、世界各地で 3,500 万人に上る難民に住居と支援を提供している国際連合難民高等弁務官事務所 (UNHCR) は、ミャンマーから逃れてきたイスラム教徒ロヒンギャが滞在するバングラデシュ難民キャンプで、こうしたアイデアの検証を始める予定だ。UNHCR のコンピューター モデリング (英文資料) により、今年の雨季に発生する洪水や地滑りで、10 万人を超える難民が被害を被る危険にさらされていることが明らかになった。その後 UNHCR は他の国際救援団体と連携して、はるかにローテクのシミュレーションを実行し、洪水の影響に応じて救援活動家たちが住民を計画された、より安全で居留地に移動できるよう備えた。

未来を考え、いま行動を起こす

意外だと思われるかもしれないが、ハリケーン・ハービーの襲来に先立ち、アメリカ陸軍工兵司令部はシミュレーションを実施 (英文資料) してヒューストン周辺の洪水に備えていた。だがヒューストン近郊における住宅需要の急増を受け、政策立案者たちは陸軍工兵司令部の取り組みを無視して住宅を建設し、人々の生命と資産を危険にさらすことになった。こうした行為が、ハリケーンによる被害を大幅に拡大させたのだ。

こうした事態が起きたにもかかわらず、その対応に必要な長期的思考は、ようやく米国内でも高リスクの地域で浸透し始めたところだ。例えば昨年発生したハリケーン・イルマの襲来後、マイアミ・デイド郡は送水ポンプや下水道設備の向上、街路保護など 12 億ドルの洪水管理インフラの計画を完成させた。

だが、この計画の資金確保は、まだ完全ではない。選挙のサイクルが短いため、公共部門は予防策への支出においては、リスクを回避しがちになることが多い。その一方、慈善団体や企業財団はリスク許容度が比較的高いことも多く、新たな思考や革新的なデザインにもとづき行動する自由を有している。これらの組織が賛同し、政府と極力連携することで、より良い復興方針を先導する必要がある。

こうしたパートナーシップが素晴らしい結果をもたらした一例を紹介しよう。ハリケーン・サンディ襲来後、アメリカ合衆国住宅都市開発省 (HUD) とロックフェラー財団は、自然災害に対するレジリエンス プロジェクト向けの設計コンペである Rebuild by Design を立ち上げた。このコンペはニューヨーク、ニュージャージー、コネチカットの 3 州における、洪水と波食による損害を防ぐための 7 つのインフラ プロジェクト (2018 年末から 2020 年初めに建設開始予定) に資金を提供している。

気候変動 自然災害 resilient by design
Resilient By Design は、このサン・パブロ湾のようなエリアにおける環境保全型インフラによる海面上昇対策に取り組んでいる

Rebuild by Design をモデルとしたサンフランシスコ・ベイエリアの Resilient by Design チャレンジは、ベイエリア周辺の 10 のロケーションで地域住民と官公庁担当者、専門家を引き合わせ、海面上昇や暴風雨、洪水、地震に対するレジリエンスを発展させている 10 組のデザイン チームを選出した。

自然災害の到来を待つのではなく、こうした協調的な努力を行うことは、損害防止に重点的に取り組み、世界各地の人々に模範となるモデルを提示する。自然災害への先制的な介入は、未来から目を背けることを止めて立ち向かい、考え方を大きく変えるきっかけとなり得るのだ。

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