安全をモデリング: BIM と建設リサーチによる死傷事故の削減

by Matt Alderton
- 2017年7月10日

ニューヨークは、さまざまなことで有名だ。

例えばショッピング。マンハッタンの 5 番街はジュエリーやアパレル、フレグランス、シューズを探し回るトレジャー ハンターで溢れている。エンターテインメントも有名だ。ブロードウェイのショーやヤンキースの試合には、大勢の人々が虜になっている。自由の女神やセントラル パークなど、ミツバチが群がる花畑のごとく観光客を引き寄せる観光名所も多い。もちろん食事も魅力のひとつだ。薄いクラストが特徴的なピザ、イーストの利いたベーグル、屋台で売られるホットドッグが、数百万人の食欲を満たしている。

だが今回のテーマは、ショッピングでも、エンタメでも、グルメでもない。ニューヨークは、アイコニックな建造物でも有名だ。エンパイア ステート ビルディング、ニューヨーク ライフ ビルディング、クライスラー ビルディングなどの高層ビルを見上げると、それらのビルが山並みのようにはるか昔からそこにあったかのように感じられる。ただし、岩でなく鉄でできた山なのだが。もちろん、そうでないことは容易にわかる。事実、建設から 1 世紀も経っていない。

construction_research_building_safetyこれらのビルが存在するのは、母なる自然ではなく、タコで硬くなった手と、痛む背中を抱える人間のおかげだ。そう、1932 年の RCA ビルの建設中に、地上 256 m にある横桁で昼食を楽しむ 11 名の作業員をとらえた、有名な白黒写真「摩天楼の頂上でランチ (Lunch Atop a Skyscraper)」に写る男たちのような。こうした人々と彼らがニューヨークで、そして米国中で建設したビルは、米国例外主義のシンボルになっている。

だが同時に、米国の無軌道さのシンボルでもある。この時代の作業員たちはヘルメットも安全帯も使用しておらず、20 世紀初頭の高層ビル建設ブームの時期、現場監督は 1 棟の高層ビル建設において、100 万ドルのコストあたり作業員 1 名の死亡を予測していたと言われている。例えばエンパイア ステート ビルディング建設中には 5 名、橋の「高層ビル」であるブルックリン橋の建設中には、何と 27 名が命を落としている。

だが 2012 年、ニューヨーク市は米国で初めて「3D 現場安全計画プログラム (3D Site Safety Plans Program)」を許可した地方自治体となった。これは建設業界がビルディング インフォメーション モデリング (BIM) ソフトウェアを使用して現場安全計画を作成し、電子出願することを許可するものだ。このプログラムにより、ニューヨーク市建設局は現場をバーチャルに見学し、ビルがどのように建設されるのかを段階を追って確認して、ビルの複雑性と課題を視覚化し、規則に準拠しているかどうかを、手作業によるレビューの実施前に確認できる。

その成果を語るには時期尚早とはいえ、このプログラムはニューヨークの建設業界におけるケガや死亡者数の低減に役立つと期待されている。建設業界は、依然として米国における最大かつ最重要の産業であるが、米国労働省によると、最も危険な産業でもあるのだ。2013 年、建設業関連の死亡者数は 828 名に上った。これは米国内の、他のどの業界よりも多い。うち半数以上 (57.7 %) は、建設業における「致命的な 4 つの要因 (Fatal Four)」によるもので、その内訳は墜落・転落 (36.5%)、落下物の直撃 (10.1%)、感電 (8.6%)、はさまれや巻き込まれ (2.5%) となっている。

construction_research_framing_safetyジョージア工科大学土木環境工学研究科で准教授を務めるチョー・ヨン博士は「米国は安全規制においては世界一であり、米国内の作業員は他国より手厚く保護されています」と話している。「しかし、”完璧な” 建設安全というものは存在しません。安全規制があっても、米国内では 1 就業日あたり 3 名が死亡し、60 – 90 名が負傷しているのです」。

労働に関連するケガや死亡は、作業員にとっても、企業にとっても有害だ。「安全は非常に重要です」と、チョー博士。「大切な命が失われるだけでなく、コストが増大し、建設作業に遅れが生じ、施工会社の評価と信用が失われます」。

ニューヨーク市建設局同様、チョー博士と彼の下で博士課程を学ぶキム・キュンギ氏とパク・ジェウォン氏も、BIM が米国内外の建設現場における重大な安全性のギャップを埋め、命と収益の両方を守る解決策だと考えている。

construction_research_scaffolding_safetyチョー博士は「建設計画作成のかなり初期の段階から、プロジェクトで BIM が使用されています」とこう説明し、プロジェクト チームが Autodesk Architecture, Engineering & Construction Collection などの BIM ソフトウェアを使用し、ビルの仕様、スケジュール、リソース、プロセス、性能の最適化および連係を目的として、建設計画のデジタル図面の生成、管理を行っていると話す。「残念ながら、安全性は建設計画とは切り離して考えられています。プロジェクトマネージャーと安全専門家が連携していないので、安全性が計画に含まれていないのです。それが含まれるようになれば、安全性の問題が自動的に特定され、建設前の計画時点で、その問題に取り組むことができます」。

自身の建設研究と仮説―建設における危険要因を BIM ソフトウェアに組み込むことが建設安全を向上させる、というもの―を検証するため、チョー博士と学生たちは、安全における BIM の利点を実証するようデザインされた 2 つの研究プロジェクトを開始した。

1 つ目のプロジェクトはチョー博士とキム氏により実施されているもので、規則に基づく安全性確認アルゴリズムを使用し、建設計画に含まれる安全上の危険要因を自動識別してプロジェクト チームのメンバーに伝える BIM 安全性総合フレームワーク開発を研究している。規則は建設、安全の専門家のインタビューに基づき作成され、作業クルーの人数やサイズ、現場内での作業員の空間移動、足場などの仮設構造物の有無といった要素 (現行ではこうした要素が、まず建設計画には含まれない) が考慮される。

construction_research_georgia_institute_of_technology
潜在的危険要因を識別する新しい建設研究の例 [提供: Dr. Yong Cho and Kyungki Kim]

BIM ソフトウェアに統合されることにより、この情報は、プロジェクトマネージャーとセーフティエンジニアがさまざまな空間ワークフローや異なる種類の足場の安全性への影響を検証し、危険要因を最小限に抑え、最大限の保護をもたらすよう着手前に決定できるようになると、チョー博士とキム氏は論じている。

チョー博士の 2 つ目の研究プロジェクトは、パク氏が実施する、iBeacon ベースの安全追跡システムの利点を研究するものだ。チョー博士とパク氏が提案するのは、建築現場監督による、現場への Bluetooth Low Energy (BLE) ベースの iBeacon とモーション センサーの配備だ。これらにより、現場監督は作業員のモバイル デバイスを使用して、現場内での作業員の居場所の確認や追跡を行えるようになる。この位置情報 (および安全性データ) をモバイルの BIM 環境内で活用することにより、作業員が潜在的な危険要因に近づくと、モバイル デバイスを通じてリアルタイムに警告が発せられ、注意を促すことで、事故発生の危険を低下させることができる。

construction_research_iBeacon
iBeacon に基づくテクノロジーの研究例 [提供: チョー・ヨン博士、パク・ジェウォン氏]

まだ始まったばかりだが、どちらの研究プロジェクトも最終的に多くの命を救い、コスト節約という利点を建設業界にもたらす可能性がある。そうなれば未来の建造物は、従来の建造物同様に壮大ながら、悲劇的なエピソードはずっと少ないものとなる。

「研究者としての私たちの目標は、テクノロジーの正当性を立証し、その潜在的な便益を実証することです」と、チョー博士。「私たちは、建設安全を BIM に組み込むことにより、建設現場でのケガや死亡事故を低下させることができると信じています。だからこそ私たちはオートデスクなどソフトウェア開発メーカーと連携し、こうしたタスクを実行してくれる製品を開発しようとしているのです」。

関連記事

Success!

ご登録ありがとうございました

「創造の未来」のストーリーを紹介中!

日本版ニュースレターの配信登録