積木製作が建設現場の安全意識を VR 体験で向上

by Yasuo Matsunaka
- 2017年11月6日
建設現場 VR
[提供: 積木製作]

全産業における労働災害による死傷者数は過去 10 年で半減しているが、建設業が 3 割以上を占めている。その対策として、いま大きな注目を集めているのが、建設現場の VR 体験により安全意識を向上させるコンテンツだ。

マンションのデベロッパーや設計事務所向けに CG パースや映像の制作を行う会社として 2003 年に設立された積木製作は、設計データをもとに CG ソフトの 3ds Max でモデリングを行い、レンダリングにより高品質な画像を提供する事業を手がけてきた。その傍らで、より自由度の高いビジュアライゼーションを求めて、2012年からゲーム エンジンを使ったリアルタイム レンダリングも研究してきたという。

同社セールスディビジョン シニアディレクターの関根健太氏は、「2013 年の Oculus Rift DK1 (開発キット) により、ディスプレイを変えるだけで VR の世界に入れるようになりました」と語る。「それまではプロジェクターや大画面のマルチモニターを使うしかなかったのですが、PC だけで直接的に空間に入れるようになったのは、我々にとって追い風になりました」。

テクノロジーの進歩と新たな機器の登場で VR 体験は身近になったが、その一方でコンテンツ制作には時間とコストがかかり、事業として軌道に乗せるには苦労もあったという。「不動産の広告のためのものであれば、ある程度はビジネスになるだろうと考えていたのですが、実は不動産や建築・建設の業界では、新しいものに対する理解が得られにくいということも、身を持って体験しました」と、関根氏。

VR に関する様々な話題がメディアで取り上げられ、「VR 元年」と呼ばれたのは 2016 年。積木製作では 2013 年に VR 事業を開始しているが、当初はクライアントへの提案内容が VR を使った日本初の試みであっても、「他に事例が無い」という理由で、なかなか採用に結びつかなかったという。だが、その理解を深めるべく、さまざまなプロジェクトに取り組んできた。

「VR のメリットは、それを見れば誰でも理解ができるということにあります」と、関根氏。「例えば再開発事業の場合、もともとの地権者、開発者、ジョイントベンチャーの開発事業者など何百人、何千人が関わってきますし、場合によっては役所も関係します。周辺の方々を含めて多くの方にプロジェクトを紹介するには、VR は非常に都合がいい。その相互理解のための活用も、数多くやってきました」。

現在、積木製作は VROX (ブロックス) という独自の VR サービスを提供している。同社ならではの高品質な CG による表現力と、ゲーム用レンダリングエンジンをベースとするリアルタイムレンダリング処理の相乗効果によって、3D 空間内での仮想体験を実現。ゲーム・エンターテインメントや建築・不動産、さまざまな現場支援など幅広いサービスがラインナップされている。

その中でも、このところメディアなどで注目を集めているのが、建設現場での墜落や落下、火傷などの事故の状況や、実際に体験することが困難なシチュエーションを VR で再現した「安全体感 VR トレーニング」で、月に 100 件以上の問い合わせがあるという。関根氏は、「今後、間違いなく施工者の手は足りなくなり、外国人の労働者を入れることも増えるので、教育が重要になることは明白でした」と言う。

建設現場の事故を避けるには安全に対する意識を高めることが重要だが、従来のビデオを使ったトレーニングでは、危機感を感じづらかった。「VR を使った安全教育は、言葉でなく自分の感覚値で危険さを理解できるようになっていて、それが大きなメリットだと思います」と、関根氏。「外国人の方にも体験していただきましたが、腰が引けるような恐怖感を感じるのは世界共通。それによって現場の気を引き締めることができ、事故を無くすことにつながると思います」。

また、現場監督の育成用プログラムも注目されている。大林組と共同で開発された、VR 内で施工ミスを探すトレーニングは、従来の研修施設を使ったトレーニングと比較すると専用の施設を維持管理する手間などの負荷が大幅に減る上、データを入れ替えることで内容を更新して実施することもできる。

一級建築士事務所である積木製作は、建築設計にも精通している。VR 以前から設計支援としてデザインの提案も行い、プレゼンテーション支援や空間デザインの企画、設計管理なども行ってきた。年間 300 ものプロジェクトに携わる機会があり、その経験からいろいろなデザインサンプルを提示しやすいので、変更点なども提示しながらパースを描いていたという。

現在は CG ツールとして 3ds Max や Maya、建築設計データ用の AutoCADRevit、さらにはリアリティ キャプチャを行う ReCap なども使用。リノベーションを手がける際には、レタッチした CG を提示したり、現場では AR で新たなファサードを重ねて見せたりすることも可能だ。

 

「ツールが発展することで、例えば設計者が Revit ユーザーであれば、Revit Live により、自分の作ったデータをすぐに VR で見られるようになりました」と、関根氏。「我々が介在する必要もなく、設計者自身も関係者も、空間をより早く理解できるようになります。そもそも建築は、長い間、設計者が三次元の空間をわざわざ二次元の図面として書いて、それを現場で三次元に変換していました。BIM の浸透により、その手間が無くなっていくことは重要だし、今後 10 年くらいで設計のやり方そのものが大きく変わっていくと思います」。

では、ツールの向上により CG パースや VR の制作が容易になると、その分野に特化したビジネスの未来はどうなるのだろうか? 「専門家は、よりプロフェッショナルでなければいけないし、中途半端な人たちは淘汰されると思います」と、関根氏。「プロとそうでない人の線引きは、よりレベルの高いところになると思います。そこは我々としてもむしろ歓迎すべきで、個人で意欲の高い人がいれば一緒に仕事をしたいし、そういう人が仕事をしたい会社と思われるよう、さらに意識を上げていきたいと思います」。

積木製作 関根健太 建設現場 VR
株式会社積木製作 セールスディビジョン シニアディレクターの関根健太氏

積木製作という社名の由来は、積み上げていくことで無限の空間を生み出せる積木のように、さまざまな価値を生み出すサービスを提供することにあるという。そして、これまで CG パースを中心として多数の案件を手がけ、問題解決や数々の要望への対応を通じて経験を積木のように重ねてきたこと、特に建築に関する知識と経験、コネクションなどが、差別化の要素になっている。

「VR は大きな注目を集めていますが、まだ VR を使ってみたいという段階の方が多いのが現状です」と、関根氏。「我々は、VR を使って“何をやるか”というところも含めて提案しています」。

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