重要インフラの防護: 窮地に陥ったダムを救う

by Matt Alderton
- 2017年6月27日
早朝のグレン キャニオン ダム [提供: Autodesk/BOR]

それは、まるで IMAX シアターの巨大なスクリーンで目にする作品のようだ。ゴツゴツした峡谷の岸壁に沿ってホバリングするヘリコプター、立ち入りが制限された政府施設の深部を行き交うドローン、ゴムボートによる危険な偵察、ソナーで水面下のターゲットを攻撃する水陸両用ロボット。

だが、これはアクション映画のワンシーンではなく、アリゾナ州ページ近郊のコロラド川であった、実際の出来事だ。ここでは世界最大級のコンクリート ダムであるグレン キャニオン ダムの 3D デジタル モデルを作成する、野心的なプロジェクトが進行中だ。

critical infrastructure protection iPhone panorama of the Lake Powell side of glen canyon dam
グレン キャニオン ダム上流側 (パウエル湖) を iPhone でパノラマ撮影 [提供: Autodesk/BOR]

その脚本ではかなりのスタントが要求されるが、この物語のヒーローは、トム・クルーズでも、ジャッキー・チェンでも、ザ・ロックでもなく、米国水利再生利用局だ。

米国内務省管轄下の水利再生利用局は、干ばつ地域への水の供給による米国西部の経済開発振興を目的として 1902 年に設置された。水利再生利用局はこれまでに全長約 13,000 km のかんがい用水路、337 の貯水池、492 基のダム、53 カ所の水力発電所の建設と管理を行っており、3,100 万人を超える人々に年間 38 兆リットルの水と 400 億キロワット時の電力を供給している。

水不足で洪水が生じやすい米国西部では、水利再生利用局のインフラが極めて重要な役割を果たす。だが、その老朽化も進んでいる。事実、米国内に存在するダム 90,580 基の平均築年数は 56 年で、それより古いものも多い。西部の人々に水を供給するミッションとして始まったのだが、今やそれを守ることがミッションとなっている。

ソルトレイクシティにある水利再生利用局コロラド地域オフィスで CAD マネージャー、GIS コーディネーターを務めるデイヴィッド・ウィンスロー氏は「グレン キャニオン ダムのコンクリートは、あと数千年は使えるほど十分な強度があります」と話す。「この耐用年数の期間、施設を維持し、人々に便益を供給し続けるようにすることが必要です」。

適切な保守が行われなければ、資産であるインフラも障害となり得る。グレン キャニオン ダムは米国の重要インフラに指定されており、その保護と保守が重視されている。保守や修復が必要な大規模ダムは世界各地に 57,000 基あり、うち 23,000 基が中国に、残りの多くは米国や日本、ブラジル、インド、ヨーロッパに存在している。

カリフォルニア州にある、築 49 年のオーロビル ダムを例に挙げてみよう。今年 2 月、常用放水路と非常用放水路に穴が発見された。気候変動で誘発された長年にわたる干ばつの後、雨季の豪雨がオーロビル湖の水位を急激に上昇させる。ダムの管理者は、決壊しないようにダム壁への水圧を下げるため、放水路から放流を行った。だが、押し寄せる水により、放水路はあっという間に崩壊する。放水路が完全に決壊し、周辺地域に大氾濫を引き起こすことを恐れた当局は、放水路の安全が確認できるまでの 3 日間、188,000 人を避難させた。その数カ月後に修復工事が始められたが、依然として危険な状態が続いている。

critical infrastructure protection iPhone panorama of the High Flow Experiment at glen canyon dam
グレン キャニオン ダムでの大流量点検放流 (HFE) を iPhone でパノラマ撮影 [提供: Autodesk/BOR]

未来をスキャンする
築 54 年のグレン キャニオン ダムで同様の災害が発生するのを防ぐため、水利再生利用局は、ダムとダム水力発電所の 3D デジタル モデルを作成中だ。

ウィンスロー氏は「このダムは 50 年代から 60 年代初頭にかけて建設されており、設計にコンピューターは使われていません」と話す。水利再生利用局はグレン キャニオン ダムの手書きの図面約 1 万点を所有しており、これは施設の構造を理解する上では優れた参考文献となるが、ダム全体の現在と今後の状態を理解したいマネージャーにとっては、その価値は低い。

コンクリートの歩道と同様、コンクリート ダムにも亀裂は当たり前に生じる。水利再生利用局は 20 年前、3D モデリングの可能性を模索し始めた。水利再生利用局は亀裂を記録し、その原因を究明し、補修するのに 3D モデリングが役立つだろうと理論立てたのだ。ウィンスロー氏は、ダム施設を隅から隅まで徹底的に調べ上げた。その対象はエレベーター シャフトにまで及び、まるで洞窟を探検するかのようにシャフトに潜り込んで調査を行うと、AutoCAD Map 3D で作成した基礎モデルに亀裂を記録した。スタートは好調だったが、まだ序の口だ。

「これでは、亀裂がどのようなもので、どこにあるのか、ということ以上は分かりません」と、ウィンスロー氏。「本当に必要なのは、包括的な 3D モデルです」。

3D への移行
ウィンスロー氏が財政的支援を得てようやく 2015 年にモデルを作成した際、最初のステップは、ダムと水力発電所を入念にレーザー スキャンすることだった。2016 年 8 月にオートデスクとのパートナーシップによりスタートしたこの作業は、壮大な取り組みとなった。最小限の機材でも数分、数時間のレベルでスキャン可能な室内やオブジェクトとは異なり、巨大な重要インフラのスキャンには、最先端のテクノロジーを投入しても何日もかかる。これは率直に言って、かなり大胆な試みだ。

プロセスには 2 週間を要し、700 回のスキャンが行われた。コロラド川から流れ込む水を貯水するダム上流側では、ROV (遠隔操作型無人潜水機) でソナーを使用してダム水面下の地形をキャプチャ。下流側では、救急ヘリコプターを使用した空中からの写真測量と、ゴムボートを利用した水面レベルの写真撮影が行われた。チームはさらに、ドローンを活用して水力発電所の主発電室内部をスキャンした。発電室の天井高は約 15 mにも及ぶ。

こうしたスキャン結果から、写真のようにリアルな点群データのコレクションを生み出された。データはその後、ReCap Pro を使用して統合された。統合された点群データは Revit にインポートされ、ビルディング インフォメーション モデル (BIM) が作成された。水利再生利用局はこれを性能の向上や、交換が必要な際の機械系、電気系、制御系の各技術設計の最適化に使用できる。今秋、この Revit モデルは InfraWorks へとインポートされ、ダム施設の視覚化、状態の監視、今後の性能予測用に非技術系ユーザー向けの動的モデルが作成される予定だ。

ここにはダムの設計や運用に関する地質データが組み込まれる予定になっており、特にこの一般向けのモデルは大きな変革をもたらすものになると予想される。「私たちが普段収集する情報をこのモデルにリンクしたいと考えていますが、現時点では、情報は異なる複数の記録システムに送られています」と、ウィンスロー氏。「将来的には、こういったデータすべてをひとつにまとめ、どれほどの水が発電機へと取り込まれ、発電機から排出されているのか、漏出の程度、生成される電力の量、稼働中のユニット、休止中のユニットはどれなのかなど、無数の情報を把握することができるようになります」。

ダムのファリシティ マネージャーは、モデルを使用して実際の施設を監視することができるようになる。ダムの管理担当者は、モデルを使用して機械系や電気系の問題を診断することができる。第一応答者は、ダム内の深部に負傷者がいる場合、より迅速に行動することができる。また、教育上の目的での 3D プリント モデル作成にも使用できる。

critical infrastructure protection The Big Dipper over Glen Canyon Dam during the High Flow Experiment
大流量点検放流 (HFE) 中のグレン キャニオン ダムにかかるビッグ・ディッパー橋 [提供: Autodesk/BOR]

だが、最も重要な受益者となるのは、未来の米国民だろう。モデルは、水利再生利用局によるトレンドの観測や、気候変動の影響の予測を容易にするからだ。結果として、より早期により良好な保守が行えるようになり、米国西部の各州への持続的な水供給を確保し、オーロビル ダムのような危機的状況を予防できるようになる。「私たちがこのモデルを使用してやろうとしているのは、ダムがどのような状態にあるのかをより良く理解することです。即座に、というだけでなく、長期にわたっても」と、ウィンスロー氏。「トレンドを確認し、それを理解できれば、より優れた施設管理の方法を知ることができます」。

これは非常に前途有望なアイデアであり、水利再生利用局は今後、ネバダ州のフーバー ダムやワシントン州のグランド クーリー ダムなど、ほかのダムのモデリングも計画している。また、デジタル モデリングを使用して、生育環境再生など、水利再生利用局が担当する、その他の問題の解決に役立ててもいる。

「これは、テクノロジーを受け入れようという水利再生利用局の姿勢の証だと思います」とウィンスロー氏は話し、縮小傾向にある連邦政府予算と仕事量の増加により、局も変化を余儀なくされていると付け加える。「もう、これまでと同じやり方を続けることはできません。その時間も、リソースもありません。より良いツールと方法を見つける必要があるのです」。

関連記事

Success!

ご登録ありがとうございました

「創造の未来」のストーリーを紹介中!

日本版ニュースレターの配信登録