内なるサイボーグを解き放つベヘナーズ・ファラヒ氏のファッション テクノロジー

by Wasim Muklashy
- 2018年2月1日
Opale by Behnaz Farahi
ベヘナーズ・ファラヒ氏の「Opale」は顔の表情に反応する“情緒的衣服”だ [提供: Behnaz Farahi]

自己表現と科学の間の境界が、これほどあいまいになったことはない。かつては、右脳か左脳か、現実主義者か理想主義者かなど、どちらか一方に傾倒するのが普通だと考えられていた。だが、こうした選択肢は、実は以前から同じものだったのかもしれない。こうした観念を実現し、活用できる適切なツールがなかっただけなのかもしれない。

それが変わろうとしている。

絶え間なく進化するこの分野間の分裂の好例が、デザイナー、建築家、哲学者、ファッション/テック イノベーターとして活動するベヘナーズ・ファラヒ氏だ。

“いつの間にか、異なる分野の間の未知の領域で活動していることも多いのです” —ベヘナーズ・ファラヒ氏

建築分野で 2 つの修士号を取得していたら、その人物は建築家だと考えるのが自然だ。だが、ファラヒ氏はメディア アート分野での博士号取得にも取り組んでいる。「ご職業は?」という質問に対する彼女の答えが、自身の興味の共通項と同じくらいあいまいでも、全く驚きではない。

「いつの間にか、異なる分野の間の未知の領域で活動していることも多いのです」と、ファラヒ氏。「根本的にはインタラクティブ デザイナーであり、またクリエイティブ テクノロジストだとも言えるでしょうか。デザインをインタラクティブなテクノロジーと組み合わせ、ある物体に対して新しいシナリオや機能、ストーリーを考え出すことに興味があるのです」。

そのファラヒ氏が、厳密に言えば建築家からキャリアをスタートさせたことは注目に値する。「建築家として 8 年間過ごしましたが、辞めようとは考えたこともありませんでした」と、ファラヒ氏は話す。

だが、あるとき彼女は公園を散歩していて、気がつくとインタラクティブな噴水で遊んでいる子供たちのグループに魅了されていた。「子供たちは心から楽しんでいました」と、ファラヒ氏。

その空間と触れ合う子供たちの熱狂的な様子を注視しているうち、「未来の公共の場、未来のエンターテインメント、未来のデザイン一般について考え始めるきっかけとなる閃きが得られたのです。それは、より人々の心を引きつける体験を生み出すことに向かっていました」と、ファラヒ氏。「建築の世界からインタラクティブ テクノロジーの世界へと目を向け始めたのは、その時です」。

ファラヒ氏は、深度感知カメラ、伸縮自在の生地、モーターを搭載した Leap Motion デバイス、形状記憶合金製のネジ (特にファラヒ氏のインスタレーション作品「The Living Breathing Wall」と「Breathing Wall II」でフィーチャーされている) など、テクノロジーと材料を用いた取り組みを行っている。3D プリントを用いた試みを始めたのは、2015 年の「Synapse」からだ。この作品は、装着者の脳活動に応じて反応、点灯する 3D プリント製のヘルメットだ。

Behnaz Farahi's Caress of the Gaze garment
「Caress of the Gaze」は、人間の視線に反応するインタラクティブな 3D プリント製ウェアラブル [提供: Behnaz Farahi]

ファラヒ氏の Webサイトによると、「Synapse」の背景となったアイデアは、「第二の皮膚として身体を覆う、形状が変化する構造を生成するためのマルチマテリアル 3D プリンティングの可能性を検討」するというものだった。このテーマはその後の彼女のプロジェクトにも影響を及ぼしており、 3D プリント製のウェアラブルで Will.i.am のスタジオと共同開発された 2015 年の「Ruff」、 Autodesk Pier 9 Residency Program の一環で作成された、人間の視線に反応するインタラクティブな 3D プリント製ウェアラブル「Caress of the Gaze」、建築家としてのルーツに一部回帰し、「下に立つ人の身体の動きに反応するインタラクティブな動く天井」をデザインした 2016 年の「Aurora」にも投影されている。

ファラヒ氏のファッション テクノロジーは、自然系への強い興味により支えられている。「私の作品の、インスピレーションの主な源は自然だと考えています」と、ファラヒ氏。「あらゆる自然系は、内的要因と外的要因の両方に対して、非常に能動的な方法でその環境に対処することができます。例として植物を挙げてみましょう。植物は絶えず自身の内部に反応しつつ、それを取り囲む外的な刺激にも反応します。私にとっては、これは大きなインスピレーションなのです」。ファラヒ氏の最新作である、2017 年の「Bodyscape」と「Opale」は、これらの強い興味が印象的な手法で具現化されている。

ファラヒ氏が「人体の動作にヒントを得たインタラクティブな 3D プリント製ファッション アイテム」と描写する「Bodyscape」は、プリントされた SLA 素材に、ジャイロスコープと着用者の動きに合わせて光る LED ライトを組み合わせたもので、人体の動きの滑らかさに注意を引き寄せる。ポンチョや外套のように身に付けるこの作品は、1861 年に解剖学者カール・ランゲルが発見した皮膚の割線図、ランゲル線を基にしたものだ。

「人間と非有機的な物体の間の関係性を曖昧にして、より共感できる何かを生み出したいと考えました」と、ファラヒ氏。「私たち人間は、モノにいのちを投影させがちです。例えば車に名前を付け、人格を与えたりします。その観念を利用してみたいと考えたのです。それが生きているという感覚、それこそ私がオーディエンスに感じてもらいたいことです」。

「Bodyscape」が内的刺激への反応に焦点を合わせているのに対して、「Opale」では関心は外的刺激、つまり“他者”に移っている。「Caress of the Gaze」の進化形とも言える「Opale」で作成されたドレスで、ファラヒ氏は 3D プリントからより包括的な製作技術の領域へと強い意志を感じさせる新展開を見せている。この作品では、ソフト ロボティックス、光ファイバー、カメラを使用して傍観者の表情を検出する顔認識といった技術に取り組んでいる。これらを組み合わせることにより、動物の毛皮にインスピレーションを受けた『Opaleのファイバーは正しく反応することができる。

ファラヒ氏は「Bodyscape」の後、この素材を他の媒体で使い倒してみたいと考えたという。「ソフト ロボティックスとシリコンの使用についての研究に強く興味をそそられました」。ファラヒ氏は、この興味を「Opale」でテーマに掲げ、作品作りに取り組んだ。「まず、ファイバーをレーザーカットしたアクリル シートに取り付け、それをシリコンの裏側に取り付けました。ファイバーの密度と高さは、人体の曲線を分析することによりキャプチャされたデータが基になっています」。

その結果は、まさに見る者を魅了するものとなった。周囲の者が怒ったふりをすると、ファイバー製の毛皮が反応し、おびえたネコのそれのように突如として逆立つ。悲しい顔をすると、今度はファイバーが不機嫌そうに垂れ下がる、といった具合だ。「このプロジェクトの背景にあるアイデアは、感情と動作という概念を軸に展開しました。社会的交流における感情の変化、ある種のハーモニーや感情の反映に対応する何かを、どうデザインするべきかという点です」と、ファラヒ氏。

「私の作品の多くは思弁的に感じられるかもしれません」とファラヒ氏は自ら話すが、彼女はさらに次のように続けている。「でも、将来においては全く当たり前のことになるでしょう。私たちが身に付ける上着やコートにはカメラが埋め込まれ、ジェンダーや年齢だけでなく、視線の方向も理解できるようになるでしょう。また、スポーツウェアには布地にセンサーが内蔵され、着用者の姿勢や動作のスピードを感知できるようになります」。

「素晴らしいのは、材料はますますインテリジェントで、能動的で、プログラム可能なものとなるであろう点です。これは私たちが今後暮らしていく、コンピューターを利用した材料の世界の未来においても、とてもエキサイティングなことです」。

ファラヒ氏は今後も、建築とデザイン、ファッション、芸術、インタラクティブ テクノロジーを人格に組み合わせ、それが何であり、どのようなものとなり得るのかについて、可能性の限界に挑み続けるつもりだ。ファラヒ氏の取り組みから、今後も目が離せない。

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