木造と RC 造のハイブリッド工法による栄光学園の新校舎: 大地に近い「みらいの学校」

by Yasuo Matsunaka
- 2018年11月22日
木造と RC 造のハイブリッド工法による栄光学園の新校舎の構造
2017 年 3 月に竣工した栄光学園の創立 70 周年事業 新校舎 [提供: 日本設計]

神奈川県鎌倉市にある栄光学園は、広々とした校庭と自由な校風、完全中高一貫教育で知られる私立の名門校。その創立 70 周年事業となる新校舎のコンセプトは、築後 50 年を経過した本校舎の建て替えを中心とした、次の 50 年をリードする「みらいの学校」の創造だった。

東京ドーム 2 個分以上の広大な敷地に恵まれ、国内有数の進学校でありながら、運動・スポーツも盛んな栄光学園。その新校舎に採用された日本設計の計画案は、要求される床面積が既存校舎から増加しているにもかかわらず、25 社のプロポーザル応募案の中で唯一、3 階建ての旧校舎から階数を減らした 2 階建てへの建て替えを選択していた。

創立 50 周年を迎える株式会社日本設計は、日本を代表する建築設計事務所であり、自然エネルギーの活用や屋上緑化など、環境をテーマとする作品でも知られる存在だ。2015 年の建築基準法改定で可能となった木造 3 階建てによる校舎設計にも、山形県鶴岡市の羽黒高等学校などでいち早く取り組んでいる。だが栄光学園のプロポーザルは、木造主体ながらも一部を RC 造としたハイブリッドな構造だ。

自らも栄光学園の卒業生であり、その新校舎の設計に携わることを「設計者冥利に尽きます」と語る日本設計のプロジェクト管理部副部長、岩村雅人氏は「栄光学園では、広いグラウンドに出て行くことが多かったという思い出が一番強い」と述べており、「みらいの学校」の最初のアイデアは「コンクリートの箱でなく、大地に近い木造の学校」だったという。

3D と BIM を有効に活用したワークフロー

2013 年から設計に着手したこのプロジェクトで、日本設計は基本設計の初期から 3D を活用して、木造の架構検討や、景観・光環境・風環境などさまざまなシミュレーションを行いつつ、設計の進度に応じて 3D から Autodesk Revit で作成する BIM モデルへデータ移行を行なうアプローチを採っている。プロポーザルの段階から竣工に至るまで、3D と BIM を柔軟に活用することで、多数の学校関係者とコンセプトを共有できたという。

新校舎は 1階から2 階床まで RC 造を採用することで、校舎全体の高さを抑えた低層校舎を実現。2 階部分では橋梁に用いられるゲルバー梁を木造に応用し、梁を廊下とバルコニーの両端から RC 造である2階床へ引っ張ることで、スパン 9 m という開放的な内部空間を実現している。

木造と RC 造のハイブリッド工法による栄光学園の新校舎の構造

初期の段階から設計を手掛けた日本設計 建築設計群 BIM 室主任技師の村井 一氏は、「大規模な木造建築を実現するために、防耐火の制約をクリアする必要があり、一部 RC 造で木造部分を区画していますが、そこが地震の際に木造部分の水平力を受ける耐震壁にもなっています」と述べる。「コンクリートと木の良さを併せ持った全体構成にするのが、架構計画上のポイントであり、構造エンジニアとの綿密な検討が必要でした。3D・BIM によるイメージ共有が非常に役立ったと思います。また木造部分は、一般に流通している集成材を使って全体を構成することで、ほかの計画でも展開できる汎用性を目指しました」。

設計者決定の翌年に日本設計へ入社後、すぐにこのプロジェクトへ携わった建築設計群の吉岡紘介氏も、同学園の卒業生。新校舎の設計案を初めて目にした際にも違和感がなく、低層の採用に「栄光らしさ」を感じたという。「打ち合わせに参加された先生方も、自分が教わった方が大半でした」という吉岡氏は、「我々の提案に対して、学校の運用上の課題は先生方からしっかりとフィードバックされつつも、設計者の意志を尊重し、理解しようと努めていただけたのはありがたかったですね」と述べる。

それぞれの材料の特性を考慮した木造とコンクリート造のハイブリッド構造は、非常に合理的な選択だったと岩村氏は述べる。2 階部分は構造材をそのまま現しとすることで木の温もりが感じられる一方、天井を低くし気積を抑えることで空調の立ち上がりに対しても有効な計画とした。「掃き出し窓の採用により、天気の良い日には、ほぼ照明が不要です。一方で長い軒によって、日射負荷も軽減しています」と、岩村氏。鉄骨に木材を巻いたハイブリッド木造柱により、1 階の RC 造部分でも木の温もりが感じられる。

「従来の木造建築とは考え方が異なり、木材を多く使うことが目的ではなく、木材の特性をいかに引き出すかが重要でした」と、岩村氏。「1 階を木造にすると階高が上がったり、柱が多く必要で内部空間も狭くなったりしてしまう。木造と RC 造のハイブリッド構造とすることで大地に近い建物にでき、木材量も最小限に抑えられ経済的に大規模木造を実現できます」。

効率的な施工の実現

仮設校舎の建設費を省くため、当初は既存校舎の部分的な解体、新校舎の部分竣工を順次行う建て替えが予定されていた。だが工期短縮や工事費抑制のため、日本設計は基本設計の中盤に早期施工者選定方式を提案。実施設計からは大成建設株式会社と共同で取り組む、設計 JV となった。大成建設は、Revit で等高線図や国土地理院の 3D 地図から敷地の地形モデルを作成。日本設計の作成した建物モデルが、施工を担当した大成建設が作成した地形モデルや既存の建物モデルとも融合された。

BIM を活用することで、施工業者である大成建設とのコミュニケーションもよりスムーズになり、紙の図面では難しい 3 次元での情報共有が可能となった。大成建設 設計本部 設計品質技術部 BIM ソリューション室 室長の高取昭浩氏も「設計の早い段階から日本設計とコラボレーションできたので、施工でも設計データを利用できました」と述べている。「BIM モデルで会話ができていたので、図面にしなくても情報ロスがありませんでした」。

こうしたコラボレーションで作られたモデルは、父母会での説明資料としても利用された高品質な CG ムービーでも役立てられる。また吉岡氏は、「予期していなかったことですが、CG などのビジュアルがあると現場の方、職人の方にも設計者の意図が伝わって、その実現に向けていろいろと工夫をしていただけた」とも述べている。「その効果を、現場で実感できました」。

コンクリートの躯体が一部残されたことで複雑になった地下工事も、現況が Revit でモデル化されたことで干渉のチェックなどが可能になった。さらに在来工法による木造建築とは異なる、プレファブリケーションの技術の採用にもつながったと、高取氏は述べる。「工場で部材を加工して組み立て、梱包して現地に搬入しました。現地で柱と梁を地組してから実際の場所にセットし、その後で横の繋ぎ材をつけるという組み立て工法によって施工も合理的になり、工期短縮に繋がりました」。このプロジェクトは大成建設が、後に施工 BIM を本格的に採用する足がかりともなったということだ。

ゲルバー梁の木造建築へ応用と、それによりフレキシブルな空間を実現した先進性が高く評価され、このプロジェクトは国土交通省のサステナブル建築物等先導事業(木造先導型)に採択された (当時は木造建築技術先導事業)。また木と鉄、RC のハイブリッド構造で、温かみがありシンプルかつ省エネにも配慮した空間を作り出したとして、第21回木材活用コンクールの最優秀賞も獲得している。

「新校舎を使い始めて 1 年目が終わったときに、校長先生から“我々にとっては 1 年前にできたのでなく、ずっと前から使っているような気がします”と仰っていただきました」と、岩村氏。「それは、この新校舎が学校生活にうまく溶け込んでいるという評価をいただいた、ということだと思っています」。

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