構造エンジニアリングの未来は、ハイテク革命を生き延びる

構造エンジニアリングの未来
Image composite: Micke Tong

構造エンジニアリング業界は、大地震サイズの変化によって大きく揺さぶられている。

Odeh Engineers 代表のデヴィッド・オデー氏は「構造エンジニアリングの未来に影響を与えるような要因は、とにかく多数あります」と話す。「シナリオのひとつは、エンジニアの存在が無意味になる、というものです」。

これは構造エンジニアの職に関する主要な懸案事項であり、その不安の大部分は、3 つの要素によって引き起こされている。その 1 つめは、コンピューター モデリングの大幅な進歩が、極めて複雑な構造につながっているということだ。「まるで自己達成的予言やフィードバック ループのようなものです」と、オデー氏。「より先進的なモデリングや分析が、より複雑なデザインをもたらします。それが、より複雑な提案へとつながり、さらに先進的なコンピューター ツールが必要になります」。

構造エンジニアリングの未来 Museum of Tomorrow リオデジャネイロ
ブラジル・リオデジャネイロのマウア広場にある Museum of Tomorrow

だが逆説的に、従来のエンジニアリング タスクの自動化が進むにつれ、実際のエンジニアの重要性は低くなるように思われる (また、そう感じる) かもしれない。そして、2 つめの要因。「従来のタスクが、クラウドで実現するコンピューターの処理能力へのアクセスによって補完され、より先進的なソリューションへ任せられるようになると、相当量のエンジニアリング時間とスキルが削減されます」と、オデー氏。

一見、構造エンジニアは、恐竜と同じく絶滅の道を辿るように思えるかもしれない。「例えば鉄骨構造の部材サイズの選択には、従来は何日にも渡って面倒な作業が必要でした。構造エンジニアが図表を参考に作業し、重要な判断を下す必要があったためです」と、オデー氏。「いまや、それは取るに足らないタスクとなりつつあります。9,300 平米のビルの処理も数秒で完了し、その結果として得られるデザインはより正確で、一層優れた最適化が行われたものになります」。

そして、3 つ目の要因がグローバルな競争だ。「私たちが行うこと全てが、いまや知識の普及に影響されています。構造エンジニアリングの才能が米国に集中しているというのは、もはや真実ではありません」と、オデー氏。「それは否が応にも、私たちの職業に大きく影響します」。

こうした要因が同時に発生することで、インフラ業界で特に重宝されてきたスキルを脅かす、破滅的な事態を引き起こしている。エンジニアの技量を向上させるコンピューターの進化が、同時にエンジニアの必要性を低減させるかもしれないとは、何とも皮肉なことだ。

「デザイナーや施工業者の中には、そもそもエンジニアは必要なのか?と考え始める人もいます」と、オデー氏。「彼らにとっては、プログラムで同じことを行えるのであれば、エンジニアは無用なのです」。

構造エンジニアリングの未来 ウィーン経済大学 図書館 ラーニング センター
オーストリア・ウィーンにあるウィーン経済大学の図書館とラーニング センター [設計: Zaha Hadid Architects]

Structural Engineering Institute (SEI) のフェローであり、現プレジデントでもあるオデー氏は、こうしたトレンドを誰よりも考えるべき立場に置かれているが、楽観するに足る理由はあると考えている。ただし、こうした変化を構造エンジニアが受け入れることが条件だ。「私たちは、この機会をうまく利用するべきです」と、オデー氏は続ける。「そうでなければ、変化の渦に飲み込まれることになるでしょう」。

彼の基本論理はシンプルだが、直感で納得するのは容易ではない。「自動化によって必要な時間が短縮され、従来はエンジニアに任されていたタスクの一部が必要なくなることは確かですが、それにより構造エンジニアの必要性は高まります。業務遂行に付随する雑用の時間を短縮するツールが存在するということは、エンジニアはその本質的な価値である「クリエイティビティ」へ、より注力できるようになるということです」。

「単調な工学的計算の必要性を削減する自動化のパワーは、それと同時に、より多くのデザイン オプション、より複雑な構造、より耐久力を持つ構造の分析を可能とします。構造エンジニアは、こうした高い要求のタスクを処理するのに最適な専門家なのです」。

「これまで建築家は建築形式の着想を得ると、エンジニアと話をして、そのデザインが実現可能か、それをどう建設するべきかを検討していました」と、オデー氏。「この手順は変わりました。今や私たちは、ずっと早い段階でデザイン チームの一員となり、初期段階におけるデザイン構築の判断に貢献するようになっています」。

その一例となるのがドバイの 160 階建てビル、ブルジュ・ハリファのデザインだ。Skidmore, Owings & Merrill (SOM) の構造エンジニアたちはシミュレーション ツールとモデリング ツールを使用して、風荷重を最小限に抑え、材料数量を最適化する形状の分析および反復を迅速に行った。提案された特定の形状を支持して建設する方法を探すのではなく、エンジニアたちは提案された形状へに「ダイレクトに」取り組んだのだ。

構造エンジニアリングの未来 ブルジュ・ハリファ
アラブ首長国連邦ドバイにあるブルジュ・ハリファ

構造エンジニアの役割が、従来の分野を超えて拡大する可能性はある。だが拡大する役割へと足を踏み入れるには、エンジニア自身がその知識の範囲を広げる必要がある。「新たなスキルを学び、より良い建造物を建設できるようになる必要があります」と、オデー氏。「つまり万能型の教養人となり、さまざまな分野のスキルを習得する必要があるのです。これは、コンピューター ツールを利用し、より高く目標を設定することで実現できます。既に行っていることを自動化するだけでは不十分です」。

拡大する役割が、新たなスキルと能力を取得する動機をエンジニアに与える「アメ」だとすると、「ムチ」も存在する。コンピューター ツールをうまく使用できなければ建設の失敗につながる恐れがあり、その責任はエンジニアが負うことになる。「この数年、法医工学の分野において「最悪のケース」と呼ぶ事例が心配されています。コンピューターを原因とする失敗です」と、オデー氏。

「そこまで重大な事例はまだ起こっていませんが、計算間違いにより、建造物が意図された性能を提供しないというケースが増えています」と、オデー氏。これはコンピューターのエラーが原因ではありません。ソフトウェアの誤作動やバグの問題ではなく、大抵の場合は、ソフトウェアの制約を理解していないエンジニアが原因です」。

この未来の展望 (英文) は、ASCE 構造エンジニアリング研究所により積極的に推進されており、その反応は「極めて肯定的」なものだとオデー氏は話す。「構造エンジニアは、今後も業界に関わって敬意を払われることを強く望んでおり、優れた建造物のデザインに貢献したいと考えています」。

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