建築・建設におけるジェネレーティブ デザインが生産性向上を実現

by Phil Bernstein
- 2018年10月18日
ジェネレーティブ デザインで設計されたアイオワ大学ボッックスマン音楽学校のコンサート ホールの吸音天井
ジェネレーティブ デザインの時代には、人間とコンピューターはビルのデータを操作することで、アイオワ大学ボックスマン音楽学校のコンサート ホールの吸音天井など、従来の方法では発想や施工の不可能な構造を共同で生み出すことができる [提供: LMN Architects]

建築・建設におけるジェネレーティブ デザインの新たな時代には、設計者や施工者は建物を記述するためだけでなく、共同で生み出すためにコンピューターを使うことになる。

GPS の無い時代は、運転中に道に迷ったらプライドを捨て、車を停めて道案内を頼む必要があった。それが今では Google マップや Waze の知性を活用してマシンに最良のルートを計算させ、本当に重要なことである運転そのものに集中できる。

建築家やエンジニア、請負業者の場合は、コンピューターが設計や建設プロセスのナビゲーションを行えば、プロジェクトを成功させ、素晴らしいビルを生み出すことに集中可能となる。

デジタルとコンピュテーショナル

こうした人間とマシンのコラボレーションは、何を伴うのだろうか? まずはデジタルとコンピュテーショナルの違いを理解しておこう。現在、多くのことがデジタルになっている。自宅にあるスマートライトのスイッチをオン/オフすることは「デジタル」だ。だがそのライトを、スマートフォンが自宅にあるときは在宅だと感知して点灯させ、ずっと離れた場所にいるときには消灯するようプログラミングするのは「コンピュテーショナル」ということになる。

Princeton University School of Architecture の学部長を務めた建築家のスタン・アレン氏は、かつてデジタルとコンピュテーショナルを比較して、「デジタルは現在の状態だ。アクティブなプロセスについて話すと、それはコンピュテーショナルになる」と説明した。

A view of the Heydar Aliyev Center's sweeping curves while under construction.
ザハ・ハディド・アーキテクツによるヘイダル・アリエフ・センターの複雑な曲線は、スクリプトで動作する初期のジオメトリ エンジンでデザインされている [提供: Zaha Hadid Architects]

現在、設計や建設の業界は、デジタルからコンピュテーショナルへと積極的に移行している。CAD やデジタル写真のような「データを作る」ことから、「データを活用する」こと、つまりコンピューターでデータの生成や操作、適用を行うことで、成果物を向上させる方向へとシフトしている。

新たな形を生み増やすスクリプト

建築家がスクリプティング、つまりプログラミングのテクニックを使い始めたのは約 20 年前。コンピューターで作られたジオメトリを操作することで、ビルのデザインや建設の新世代が生まれた。コンピューターが従来の「正しい」角度を却下し、描くだけでなく建設可能な、新しい形やカーブが生まれるようになった。

このオリジナル スクリプトで、当時利用できたプログラムがドライブされた。主にジオメトリ エンジン (3DCG における座標変換を専門的に行うソフトウェア) である Autodesk AutoCAD や Rhino などだ。それによって、ザハ・ハディド・アーキテクツによるヘイダル・アリエフ・センターなど、複雑で野心的なデザインが実現した。だが今日のスクリプトは、ビルに適用可能な充実したデジタルツール群をコントロールできる洗練されたアルゴリズムになっており、それが新たなストラテジーとなるジェネレーティブなデザインやコンストラクションへと発展している。

Acoustic panels for the Voxman School of Music's concert hall.
ボックスマン音楽大学のコンサート ホールでは、プロトタイプの作成と、施工業者へ正確なパネルのジオメトリと施工順序を描写するために設計スクリプトが使われた [提供: LMN Architects]

だが建築家や施工者の創造力を強化するスクリプティング技術以上に重要なのが、ジェネレーティブなツールが実現する、設計と建設の強力なコネクションだ。

例えばシアトルの LMN Architects は、アイオワ大学ボックスマン音楽学校の新しいコンサート ホールの音響反射板、照明と空気のディストリビューター、さらに建築上の特徴としてシームレスに機能する天井をデザインした。設計者はジェネレーティブ デザインのスクリプトを活用し、その全てを実現するユニークな建築上の特徴を、まずプロトタイプとして、さらにその後で実際に作り上げた。また同じスクリプトを使い、施工者に正確なジオメトリと、天井のファブリケーションとインストールに必要な施工順序を伝えている。

施工者は LMN のジェネレーティブ アルゴリズムで計算されたデジタル情報をファブリケーション フロアへ直接適用し、建築家が作ったデザインを完全な精度で実現して、コンピューター制御の精度でシステムを製造した。

従来の方法では発想や施工が不可能な吸音天井は、素晴らしい仕上がりになっている。この物理構造のデザイン、施工の両方に、ジェネレーティブなアプローチが役立った。

ボックスマン音楽学校にインストールされた吸音パネル
ボックスマン音楽学校では、ジェネレーティブ デザインのアプローチがデザインの作成と物理的な構造の施工の両方をアシストした

現場向けのジェネレーティブ デザイン

ジェネレーティブ手法は、設計スタジオで便利なだけではない。ディーター・バーミューレン氏が率いるリサーチ プロジェクト Crane Position Optimizationでは、施工者は PC (プレキャスト) パネルでビルを組み立てる際に、オートデスクの Project Fractal (現在は Project Refinery と呼ばれている) を活用して、モデリングされた最良のストラテジーを選択可能だ。

このアルゴリズムは、パネルを現場に運搬するトラックや、それを配置するクレーンの位置を試行錯誤して、建物のデザインやパネルの重量、機材の能力、道路などアクセスポイントとなる場所などをもとに最も効率的なプロセスを探す。いわば複雑な振り付けのダンスのようなものだが、そのステップを建設が実際に始まるよりもずっと前に、コンピュテーショナルに決定できる。

幾つか重要なことが起きている。まず施工者は、アセンブリ プロセスのジェネレーティブ スクリプトを作成することで、コンクリート ビルの最良のアセンブル方法に関する専門的知識を記録しておくことができる。この情報は再利用可能な形となって、プロジェクト チームの皆に提供される。

建設作業員が見つめる前でプレキャスト パネルを持ち上げるクレーン
クレーン位置最適化のプロジェクトでは、施工プロジェクトにおける変数をアルゴリズムが分析するため、施工業者は PC パネルで構造を組み立てる際に、モデル化された最高のストラテジーを選択できる。

次に、パネルを設置するクレーンや、それを供給するトラックをどう扱うという重要な決定を、個人の専門的知識や判断だけに依存する必要がなくなる。建設プロセスの最適化のため、建設チームはデジタルで表現したビルとジェネレーティブなプロセスの計算により、幾つかのシナリオを、ほぼ予算ゼロで実験できる。

このチームは何百というオプションを試して、最高のアプローチを見つけることができる。ジェネレーティブ アルゴリズムは、シミュレーションを実行して計測を行い、それによりジェネレーティブ スクリプトが設定したパラメーターで、最高のソリューションを“見つける”ことができるのだ。コンピュテーショナルなシミュレーションは、いまや設計スタジオを離れて建設トレーラーの中にある。

建設におけるコンピュテーショナルのレシピ

スクリプトに盛り込まれた建設の知識は、設計が完了する前に、施工者から設計者へという形で、設計スタジオに戻ってくる可能性があるのも重要だ。PC コンクリート構造の選択は、建築家がビルを考えている間には見えないような、コストやスケジュール、プロジェクトの建設におけるロジスティクスに重要や影響を持つ。オリジナル デザインが、プレキャストの選択だけでなく、それを施工する最良の工法にまで反映する場合の効率を想像できるだろうか。

将来的には、施工者が設計コラボレーターに建設スクリプトのライブラリーを提供し、それを難易度の高い建設の問題に適用することで、設計者はそれを現場で実際にコストをかけて原寸で建設するのでなく、まだデジタル上にある段階で施工可能かどうかをテストできるようになる。

デジタルのオブジェクト (例えば PC パネル) には、寸法や重量、接合点の説明だけでなく、設置プロセスにおいて (クレーンやトラック、作業員で) どう扱うのか、また建物への取り付けや遮断、組み込みを行う最良の方法など、コンピュテーショナルな指示も付属する。建設の知識は時間をかけて作成や保存、アクセス、向上が可能であり、建築・建設のプロセス全体を、より流動的で統合された、効果的なものとする。

建設の世界は長年に渡り、生産性の課題や設計者と施工者の間の議論、法的措置に訴える不満をかかえたクライアントに満ちてきた。ジェネレーティブ技術はこうした問題に対処し、プロジェクト チームの専門知識の共有や、より優れた解決法の発見、成果の向上にコンピュテーショナルなアプローチを可能とする。現在は多くのプロジェクトがデジタルだが、恐らくスタン・アレン氏も、コンピュテーショナルなアプローチがより優れた建物を施工する真の機会となることに同意するだろう。

フィル・バーンスタイン氏は、イェール大学建築大学院の副学部長兼上級講演者、オートデスク フェロー。新著「Architecture – Design – Data: Practice Competency in the Era of Computation」は 2018 年 10 月に Birkhauser Architecture から刊行予定。

関連記事

Success!

ご登録ありがとうございました

「創造の未来」のストーリーを紹介中!

日本版ニュースレターの配信登録