笑顔でサービス: 未来のホテルで重要なのはハイテクでなく、おもてなし

by Matt Alderton
- 2016年8月30日
未来のホテル
Renaissance New York Midtown Hotel のデジタル ウォール [提供: Renaissance]

ヨーテル・ニューヨークのオープンは2011 年だが、このホテルは SF 映画「トータル・リコール」の舞台となった 2084 年を彷彿とさせる。

アーノルド・シュワルツェネッガー主演の、まさに未来を思わせるような独創的でカルトな人気を誇るこの作品は、ロボット警察官やインスタントのマニキュア、ホバリング飛行する自動車、記憶の植え付け、皮膚に埋め込まれた携帯電話などが登場する。主人公のダグラス・クエイドは、火星でのバケーションを夢見る建設労働者だ。

日本のカプセルホテルをモデルとして「最低限度のサービス」を提供するホテル、ヨーテル (YOTEL) に火星店があれば、クエイドが宿泊したであろうことは想像に難くない。このホテルは、従来のホテル サービスが無くても便利で手頃な宿泊施設を利用したい旅行者を対象としており、とても小さなモジュール式の客室を多数提供している。2020 年代には、この種の自動サービス ホテルがトレンドになるのかもしれない。だが、果たしてこれが本当にホテルの未来なのだろうか。

タイムズスクエア近くのヘルズ キッチンにあるヨーテルのフラッグシップ ホテルには 60 フロアに 計 669 室の「キャビン」があり、各キャビンに設置されているソファーベッドが、わずかな室内スペースのほとんどを占めている。白に統一された非常にモダンなデザインと、ネオンのように眩しく光る紫のムード照明、セルフサービスの自動発券機を利用した自動チェックイン、宿泊者の荷物を保管と取り出しを行うロボットの YOBOT などが特徴的だ。

未来のホテル AC ホテル・シカゴ・ダウンタウン キッチン
AC ホテル・シカゴ・ダウンタウンのキッチン [提供: The Gettys Group]

ヨーテルを利用した宿泊客のほとんどは、未来のホテルを体験していると感じるに違いない。だが、シカゴを拠点に活動するホスピタリティ関連のデザイン事務所 The Gettys Group でブランディング部門の主任を務めるロン・スウィドラーは、このホテルに宿泊した際に全く異なる印象を抱いた。まず、実際に YOBOT を使用している客は一人もいなかった。クールな外見ではあるが、サービスというより人目を引く仕掛けのように思えた。自動チェックインについても同様で、自動発券機にソフトウェア エラーが生じて機能しなくなっていた。また、このホテルに滞在した 2 日間、スウィドラーがホテルの従業員に出会うことは一度もなかった。

「最先端のホテル体験を象徴するような環境ですが、重要な要素が欠けていました。“おもてなし”の心、ホスピタリティです」と、スウィドラー。「テクノロジーの未来と、それがホスピタリティの分野で果たす役割は、コンピューターのパワーと結びついてパーソナライゼーションとカスタマイゼーションを実現するものでなければなりません。検討すべきなのは、テクノロジーを活用し、人間同士のつながりを残しつつ、宿泊客の体験をいかに充実したものにできるかということです」。

未来のホテル マリオット ボールルーム ピロー ライト
マニラ・マリオットのグランド ボールルームに用意された「ピロー」ライト [提供: The Gettys Group]

2015 年に The Gettys Group がデザインを担当した AC ホテル・シカゴ・ダウンタウンには「コールポッド」と呼ばれるワイヤレス サービス ボタンが備え付けられており、宿泊客はサービスが必要な際にスタッフを簡単に呼び出すことができる。マニラ・マリオット・ホテルのグランド ボールルームには、天井にプログラム可能な 176 の「ピロー」(枕型) ライトが設置されており、ミーティングやイベントの雰囲気に合わせて 360 色に変更可能。ザ・ゴッドフリー・ホテル・ボストンでは、宿泊客が持参したモバイル機器を使用して、客室に備え付けの 55 インチ型テレビに写真やビデオ、音楽を直接ストリーミングできる (全てのホテルが AutoCAD Architecture でデザインされている)。

“新し物好きでハイテク好き” を自称するスウィドラーは、「テクノロジーはホスピタリティ サービス体験に取って代わるものとしてではなく、それを支援するものとして使用されるべきだと、私は強く信じています」と話す。

そう考えるのは彼だけではない。テクノロジーは手段ではなく目的だという前提のもと、ヨーテルのような目新しい宿泊施設は今後も増えていく (例えば日本では最近、スタッフが全てロボットの、変なホテルという世界初のホテルがオープンしている)。その一方で多数のホテル デザイナーが、単に自動化するのではなくサービスを充実させるような手法で、テクノロジーとホスピタリティを統合させることに意識を集中させている。

未来のホテル ゴッドフリー・ホテル・ボストン
ザ・ゴッドフリー・ホテル・ボストンの客室 [提供: The Gettys Group]

「私同様、かなりの時間をかけてトリップアドバイザーの評価を読めば、宿泊理由としてホテルの審美性が言及されることはほとんどないと知っているはずです」と、スウィドラー。「むしろ、コメントの内容はサービスに集中しています。つまりデザインに対する宿泊客の期待度を考察する場合、それは体験の総合的なデザインを意味しており、ホテルの差別化は、そうした体験を提供できるかどうかにかかっています」。

この精神を完璧に体現しているのが、「暮らすように泊まる」ことを実現するニューヨーク初のインタラクティブなホテルとして 3 月にオープンしたルネッサンス ニューヨーク ミッドタウン ホテルだ。Jeffrey Beers International がデジタル デザイン会社 Réalisations Inc. Montréal との提携によりデザインしたこのホテルは、先進的なテクノロジーを活用し、Renaissance ブランドの使命を支える宿泊客の体験を充実させている。「次世代の出張旅行者を支援することは、思いがけない文化体験の発見につながります」。

そのハイライトが、ガーメント地区を見下ろすようにビルの上部へ 4 階分にわたって設置されたデジタル時計を表示する LED ボードや、エレベーター扉の開閉に合わせて変化するデジタル画像を表示するエレベーター列、反射する壁紙、動作感知機、プロジェクター、3D カメラを利用して周囲で生じるプロジェクト データと動きを捉える「デジタル タペストリー」などだ。ホテルの正面玄関と別玄関を挟むように 1 街区全体に広がっている、デジタル アートワークのダイナミックなパッチワークであるタペストリーは、人間の動きとタッチに反応して変化する。

hotels of the future digital clock Renaissance
ルネッサンス ニューヨーク ミッドタウン ホテルのデジタル時計 [提供: Renaissance]

このタペストリーの核となっているのが「ディスカバリー ポータル」で、これは床と壁面にホログラムが投影されたデジタル アルコーブだ。特定のホログラムの上に立つと、周辺エリアの散策に役立つコンテンツが画面上に表示される。たとえば、あるホログラムの上に立つと、ホテルから徒歩 10 分圏内にあるアトラクションの一覧が表示される。別のホログラムでは、夜間に開いている近辺のアトラクションになる。より詳しい情報を得るには、手を上げて画面上のコンテンツを指さすだけでいい。

Renaissance New York Midtown ゼネラル マネージャーのデイヴィッド・ディファルコは「お客様には当ホテルにご宿泊いただく度に、これまでにない体験を味わっていただきたいと考えています」と話す。「テクノロジーは、そのための触媒なのです」。

ディスカバリー ポータルは、従来の人間によるコンシェルジュ サービスに取って代わるものではなく、むしろそれを補完するものだ。それぞれのニーズに合わせたオススメを知りたい宿泊客は 6 階のホテル ロビーを訪れて、地元住民しか知らないレストランやバー、アトラクションを提案できるよう訓練され周辺情報に精通した、「ナビゲーター」と呼ばれるエキスパートに助言を求めることができる。

hotels of the future Renaissance Discovery Portal
Renaissance New York Midtown Hotel のディスカバリー ポータル [提供: Renaissance]

「優れた機能を多数備えた、先進的な最新のビルの中にいるような気分を与えるテクノロジーもあります」と、ディファルコ。「ですが同時に、ホテルスタッフとの触れ合いを邪魔するテクノロジーも数多くあります。スタッフは、ホテル内に所有する最も重要な資産です。テクノロジーがいかにクールで、デザインがどれほど素敵であっても、それとは別の話です。サービスを提供する優れたスタッフがいなければ、お客様が戻ってくることはないでしょう」。

ディスカバリー ポータルであれ、YOBOT であれ、ホスピタリティ関連の新興テクノロジー (ビーコンやキーレス入室、室内でのバーチャル リアリティなど) であれ、ハイテクと人間味あるサービスとのせめぎ合いは絶えず続く。

「テクノロジーの充実には優れた PR バリューがありますが、テクノロジーを統合した結果がお客様の満足につながるかどうかは分かりません」と、スウィドラーは締めくくる。「だからこそ、最も控えめなソリューション以上のものであれば、何でもひとまず信じてやってみることです」。

関連記事