数年前にイケアのヘッドマネージャーを務めるようになって以降、マーカス・エングマン氏は、この世界で最も有名な家具量販店と、業界で活躍するトップ デザイナーたちとの連携を実現する取り組みを統率してきた。それは、彼が高品質なデザインは全ての人に利用可能なものであるべきだと信じているからだ。

上質なデザインを大衆に広めたいという願いは、単に洗練された美を推進したいという願いから生じているわけではない。これは、サステナブルかつ倫理的なビジネスを営むため、企業レベルで気候変動と闘うイケアの進歩的な取り組みにも関連している。世界でも最大規模の量販店のヘッド デザイナーであるエングマン氏は、美しいオブジェを生み出すことだけでなく、そうした商品を可能な限り最もサステナブルな方法で製造し、その価値が時を経ても長く保たれる商品を生み出すことに大きな責任を担っている。

2017 年 5 月、エングマン氏は、気候変動というテーマに焦点を合わせてアムステルダムで開催された What Design Can Do カンファレンスで、イケアのデモクラティックデザイン モデルと、サステナビリティへの取り組みの効果に関するディスカッションを行なった。その講演を控えたエングマン氏に、資源の浪費に立ち向かうためイケアが現在のデザイン戦略に取り入れていること、また企業のサステナビリティに対する態度に変化をもたらす上で大企業が持つ利点について話を聞いた。

イケア ヘッド デザイナー マーカス・エングマン.
イケアのヘッド デザイナー、マーカス・エングマン氏

イケアがサステナブル デザインへの取り組みに関心を持つのは、なぜでしょうか?
イケアは、地球にポジティブな影響を与えたいと考えています。生産方法だけでなく、人々に提供する製品においても優良な企業でありたいと願っています。サステナブルな手法で生産される製品は、そのひとつの面にすぎず、人々がよりサステナブルな暮らしを営むのに役立つ製品とソリューションにも重点を置いているのです。

例えば完全 LED 化がそうだったように、時として大胆かつ勇敢な決断が必要となります。気候変動対策における数値目標の達成を目指すには、エネルギーの消費を抑えることが重要だということに、大抵の人が同意するでしょう。そこでイケアは 2011 年、LED 以外の照明を段階的に廃止し、またイケアストアでは 2016 年までにエネルギー効率の高い LED 照明製品のみを販売すると決断しました。これを徹底するには、利用者全員にサステナブルな選択を行う機会を提供する必要があります。その方法は、できるだけ多くの人々が優れた LED 電球を購入できるよう、低価格で提供することです。エネルギー消費を削減するには、その規模が重要です。そして、低価格もそれを可能にする要素です。非常に低価格な LED 電球開発が課題となりましたが、イケアはそれを実現しています。そしてこれはイケアにも、カスタマーにも、そして地球にとっても優れたビジネスとなったのです。

イルゼ・クローフォード コレクション イケア 2015
イケアのためにイルゼ・クローフォードが手がけたコレクション (2015 年)

Pacific Standard によると、イケアが消費している木材は、世界の産業用木材供給量の 1% 近くになります。これは圧倒的な数字であり、グローバルな市場でサステナブルな取り組みをリードする上で、イケアには大きな責任があります。イケアのデザイナーは、環境問題へどのように取り組んでいるのでしょう?また、今後はどういったサステナブルな計画を実行に移したいと考えていますか?
イケアでは製品を開発、デザインする手段を開発しています。それを「デモクラティック デザイン」と呼んでいますが、これは形や機能性、品質、サステナビリティ、低価格の全てを含む、真に優れた製品を開発しようというものです。つまり、イケアのデザインにおける基盤には、サステナビリティが含まれています。そして製造そのものと、その製品でよりサステナブルな暮らしを送れるようにすることの両面で、人々をインスパイアし続け、支援することが重要です。

とりわけ木材は素晴らしい再生可能材料であり、イケアは責任を持ってグローバルな森林保護に取り組んでいます。イケアは、適切な森林管理が確実に行われるよう、林業従事者を配しています。この管理には、森林の再生も含まれています。また、認証プログラムにも取り組んでいます。現時点でイケアの森は 100% の責任ある調達が行われており、さらにイケアが使用する木材の約 75% は、私たちが定義する「よりサステナブルなソース」(FSC 認証を受けたもの、またはリサイクルされたもの) から調達されています。

例えば KUNGSBACKA (クングスバッカ) というキッチン扉は、再生木材から家具を製作する手法を模索しました。廃材は環境上の大きな問題であり、資源だと認識することが必要です。KUNGSBACKA シリーズのキッチン パネルは、ペットボトルをリサイクルした再生樹脂を使用し、パーティクルボードの表面には薄いプラスチック皮膜を施しています。標準サイズのキッチン扉で約 25 本のペットボトルが使われており、キッチン全体では 1,000 本分に相当します。シリーズ製品の前面は、生産廃棄物や廃棄処分となった木製の商品など、さまざまな調達源からの再生木材にで製作されています。

こうした実現と実行をさらに推し進めるつもりです! イケアは、化石燃料ベースのバージン原料への依存を減らしたいと考えています。会社の規模が大きいこともあり、業界とリサイクル材料や再生可能資源を原料とするプラスチックの開発に変化をもたらすことができるとも考えています。イケアは、さまざまな調達源からの廃棄物やバイオ燃料ベースのプラスチックなど、よりサステナブルなリサイクル材料や再生可能資源から生産されるプラスチックを選択し、化石燃料ベースのバージン原料によるプラスチックから脱却しつつあります。

IKEA Bang マグカップ
イケアの Bang マグカップ

底に向かって細くなるデザインの Bang マグカップ は、焼入れ時の窯内部の空間を有効活用するためだそうですね。これは、イケアが現在の評価の獲得に貢献した、明確かつ独創的なデザイン決定の一例だと思います。製造と梱包をデザイン プロセスに組み込む方法について、もう少しお話しいただけますか?
製品の開発とデザインには、チームとして取り組んでいます。デザイン、エンジニアリング、梱包、サプライ チェーンなど、さまざまな適性を持つチームが一丸となって取り組むことで、デモクラティック デザインが確実に実現され、梱包や製造などの重要な面が、プロジェクトの開始からプロセスの一部となるようにしています。製品の見栄えが良いだけでは十分とはいえません。良い方法で梱包、製造できなければ問題です。それは価格に影響し、最終的にはカスタマーにも影響するからです。そこでイケアでは、さまざまな分野のエキスパートたちを交えて工場フロアでデザインを行っています。

では、サステナブルなデザインと、最適な ROI を維持しつつ価格をできるだけ抑えることは、どのように両立させていますか? このバランスを維持するために、イケアが製造と材料調達のプロセスに取り入れていることは?
私たちにとって低価格を実現する必須条件は、材料の有効利用、効率的でイノベーティブなプロセス、塗料の過剰使用などの不必要を排除することです。つまり、サステナビリティの考慮は、低価格を実現する手段の一環なのです。無駄の多さは、低価格につながりません。サステナビリティの観点から言えば、手頃な価格であることは非常に重要です。最終的なソリューションが高価なものであれば、その効果は「分厚い財布」を持つ一部の人々にしか及びません。それがサステナブルなソリューションであるとは思えません。

変化の大きな障壁となるのは、変化のためのコストと、変わる勇気です。

気候変動の急速な進行が原因となって、イケアが直面することになった障害や課題はありますか?
気候変動の影響は、さまざまな面で明白であり、多くの人の家庭での暮らしを変えることになります。例えば、ある地域では水不足となり、別の地域では洪水が頻発するようになるでしょう。影響の全てが現時点では明確でないとしても、その影響を抑え、変化に適応する方法を多くの人々とビジネスが模索していると、私たちは確信しています。イケアは原材料、デザイン、生産、輸送、そしてカスタマーへとつながるバリュー チェーンを通じて、環境フットプリントの削減に熱心に取り組んでいます。

イケアの気候変動へ対する、他の企業にはないパワーとは何でしょうか?
ひとつの要素が、企業規模だと思います。イケアが行動を起こせば、それは多数の人々に届きます。先ほど、イケアが安価な LED 電球提供するに至った決断と過程についてお話ししましたが、IH ポータブル コンロ TILLREDA (ティルレーダ) もその一例です。他のポータブル コンロに比べてエネルギー効率が 40% 優れており、従来のコンロに比べて調理時間を半分に短縮します。

ピート・ヘイン・イーク イケア 2017 年 コレクション
ピート・ヘイン・イークがイケアのために手がけた 2017 年コレクションのチェア

低価格もイケアのパワーを可能にしている要素です。イケアの低価格は使い捨て文化であり、消費文化そのものであるといった主張を時折耳にしますが、それは間違っています。低価格は、より多くの人々に働き掛け、優れた価値を提供する手段なのです。分厚い財布を持つ人々だけではなく、誰もが優れたデザインに触れる権利を持っています。それはまた、モノを向上させることでもあります。それには変化が必要です。そして変化の大きな障壁となるのは、変化のためのコストと、変わる勇気です。低価格は、その両方に役立ちます。高価でなければ、実行する余裕と勇気が得られるのです。形、機能性、品質、サステナビリティ、低価格の全てを重要なものと考えるデモクラティック デザインにより、イケアは、より多くの人々にサステナブルな方向に変化する余裕と勇気を与えることができると、私は信じています。

イケアのヘッド デザイナーに任命されて以来、経験豊富で流行を生み出すデザイナーたちに、印象的なハイレベル スタイルを提供する PS コレクション向けの作品制作を依頼する試みをリードされていますね。より直感的で美しい製品を生み出すという取り組みは、組立の容易さと、家具の全体的な外観の向上に貢献していると思います。人々が長い間持ち続けたいと考える家具を造るというこの試みは、サステナブルな取り組みに貢献すると思いますか? そうであれば、どのように?
サステナブルなもの作りで重要なのは、感情面への結びつきだと思います。それにより、製品との付き合いも長くなります。イケアがトム・ディクソン氏と共同で開発した DELAKTIG (デラクティグ) オープン プラットフォームは、製品寿命を考慮してデザインされています。

このソファが人々の暮らしの絶え間ない変化に適応できるような方法を模索しました。フレームに何かを取り付けたり、形、サイズ、色を変更できたりと、無限の可能性を提供するプラットフォームをデザインしました。軽量でありながら強固な製品となるよう、また同時にカスタマーに長期に渡って使用してもらえるよう、時間の経過と共にフレーム変更の機会を提供できるアルミニウムを選択しました。

組立を簡単なものにするという意図は、もちろん解体にも当てはまります。人々は以前よりも頻繁に引っ越しをするようになっていることを、私たちは理解しているからです。これはイケアにとっても、製品寿命を延ばすひとつの手段なのです。

執筆: アリソン・フォンダー

本記事の別バージョンが Core77 に掲載されています。

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