Vantage Power がハイブリッド バス エンジンのセールスに MR を活用

by Markkus Rovito
- 2017年11月14日
ハイブリッド バス vantage power
[提供: Vantage Power]

7 年前、地球最南端の沿岸に立ったアレクサンダー・シャイ氏は、ここから進むべき道を模索していた。

シャイ氏に才能や知性、動機が不足していたわけではない。むしろ才気に溢れる人物である彼は、友人であるトビー・シュルツ氏と、自分たちがデザインしたカスタムメイドの電気自動車 (EV) で 3 万 km に及ぶパンアメリカン ハイウェイを完走したところだった。プロジェクトの資金調達ができると、シャイ氏はインペリアル・カレッジ・ロンドンの機械工学科を中退し、工学部の院生チームの力を借りてスポーツ カー Radical SR8 を EV に改造。電気自動車のポテンシャルを周知することだけを目的として、アラスカ北部からアルゼンチンのウスアイアまで、数カ月にわたる長距離ドライブを敢行したのだ。

ハイブリッド バス 改装 vantage power
ロンドンにある 9,250 台のバスのうちの 1 台。このバスに Vantage Power が取り付けられている。[提供: Vantage Power]

この壮大なロード トリップは多数の報道や全 8 回の BBC ドキュメンタリーで取り上げられたが、シャイ氏とシュルツ氏は 2011 年初頭にロンドンに戻ると、資金は無かったが、たった 2 人でビジネスを立ち上げることを目指す。彼らが必要としたのは、スタートアップがアプローチできるような、自動車の電気化におけるニッチな分野だった。そしてディーゼル エンジンを搭載したバスが抱える問題に着目すると、後付けが可能なバス向けハイブリッド システムを製造する Vantage Power を共同設立する。

イギリスには現在 46,000 台以上のバスが存在し、年間 10 億リッター以上ものディーゼル燃料が消費されている。ロンドン市内だけでも 9,250 台のバスがあるが、2019 年 4 月 8 日以降、ディーゼル エンジンを搭載したバスは、ロンドン中心部に新設される超低排出量ゾーンの通過に際して高額な料金を支払うことになる。ハイブリッド バスにすれば支払いを回避できるが、運営会社には巨額の初期費用が必要だ。だが Vantage Power の B320 Hybrid Retrofit System を使えば、実質的な追加コスト無しに、既存のバスをハイブリッドに転換できる。

hybrid bus B320 Hybrid Retrofit System
Vantage Power の B320 Hybrid Retrofit System [提供: Vantage Power]

ほぼ研究開発段階を終えた Vantage Power チームは 37 名にまで成長し、同社のシステムを使用する顧客やバスが路上を走っている。Vantage Power は現在、規模拡大の必要性に迫られているが、シャイ氏によると駆け出しの企業である同社の最大の課題は、政府の政策でも中国のリチウム価格でもなく、潜在顧客を納得させることだと話す。「これまでのところ、お客様は満足されており、期待通りのサービスを提供できています」と、シャイ氏。「私たちのアプローチを受け入れる人もいれば、リスク回避を重視する人もいるので、お客様の心を揺さぶる必要があるのです」。

シュルツ氏とシャイ氏は、パンアメリカン ハイウェイの旅で EV の支持獲得に貢献したにしても、自らの製品の気概を潜在顧客に示すことが必要だ。だが、その製品が 1.5 t もあるハイブリッド エンジン システムとなると、実演はかなり面倒なことになる。そこで Microsoft HoloLens の出番だ。この MR (拡張現実) ヘッドセットは、ユーザーの実世界環境に 3D ホログラムと立体音響を統合できる。Vantage Power は HoloLens を使うことで、有望な顧客に自社のエンジンとバッテリー パック、ハイブリッド システム全体の実物大 3D モデルを提示できるのだ。

 

 

現在のところ HoloLens は高価な現在開発者向けエディションのみが入手可能だが、2015 年に初めて HoloLens をテストしたシャイ氏は、これが自身のビジネスに役立つと確信した。Vantage Power が今年になって HoloLens を入手すると、シャイ氏と彼のチームはロンドンの 3D MR 開発メーカー Gamar の支援も得て、その巨大な 3D モデルを Autodesk Inventor から HoloLens に転送する大変な作業を成し遂げた。

「内部の機構を取り除き、カーブを滑らかにしてポリゴン数を減らすなど、HoloLensの処理能力で対応できるよう、かなりのスリム化が必要でした」と、シャイ氏。その努力は無駄ではなかった。7 月に Vantage Power の HoloLens デモをスタートして以来、シャイ氏は、顧客や投資家、社員から 85 歳の祖父に至るまで、ありとあらゆる人にヘッドセットを装着させてきた。

「祖父が床に仰向けに寝転がり、モデルを下から眺めている姿の写真もありますよ」と、シャイ氏。「MRは非常に直感的であり、侵襲的なところは全くありません。VR では感覚の錯覚により、実際に転倒してしまうこともあります。HoloLens のクリアなレンズであれば周辺環境を目視して確認できるため、テーブルや椅子にぶつかることもありません」。

hybrid bus retrofit
Vantage Power のハイブリッド パワートレインは燃費と排気を 40% 以上低減する [提供: Vantage Power]

シェイ氏は HoloLens が短期間で Vantage Power に効果をもたらし、モデルのレンダリングにも誤作動がないことに感銘を受けた。「効果は絶大です」と、シャイ氏。「従来のどのソリューションよりも優れており、技術に不慣れな方が製品を理解するのにも役立っています。HoloLens を体験できた人はまだ非常に少ないので、実際に装着する機会を提供すると、ビジネスと製品にも特別な価値が付加されます。先進的だという好印象を与えられるのです」。

シャイ氏は、事業経営における「スキル不足」に関する文章 (英文) の中で、先進的な考えを持つ企業であることが社員のモチベーションの維持にも役立つと説いている。「ビジネスの核となるのは、社内のチームです」と、シャイ氏。「会社が硬直化していないことが社員に伝われば、それが社員の仕事の質と事業への関心として還元され、循環する効果が生まれます」。

Vantage Power による HoloLens のビジネス活用は、ほんの始まりに過ぎない。シャイ氏は、このデバイスを自動車点検に組み込みたいと考えている。HoloLens を装着した整備士は、これまで見えなかった部分まで車両を確認できるようになり、またオフィスの社員は、整備士が装着するヘッドセットのカメラを通じた確認ができるようになる。社員がマニュアルを整備士に示せば、それを整備士は手の空いている時間に確認可能。修理はより迅速になり、事前研修は短くて済む。

ハイブリッド バス hololens デモ
Microsoft HoloLens を使うことで 1.5 tハイブリッド エンジン システムのデモがずっと簡単になる [提供: Vantage Power]

「HoloLens のようなデバイスは、世界との情報のやりとりの手法を一変させると私は確信しています」と、シャイ氏。「HoloLens は、今はまだ話題の先行したキットに過ぎないかもしれませんし、サイズもかさばり、重量もあります。でも、数年のうちにサングラスほどのサイズになるのは間違いないでしょう」。

軽量化が進めば、HoloLens で 顧客や投資家、サプライヤーに Vantage Power の機能を実演するのも、さらに簡単になる。「例えばエンジン ベイには数々のパーツやワイヤー、ケーブル、ゴム管が付いていますが、これまではそうしたコンピューター モデルは存在していなかったし、あったとしても、弊社の製品が持つディテールにはほど遠いものでしょう」と、シャイ氏。「顧客がデザインをバーチャルに、私たちが望むレベルで詳細に目視確認できれば、無意識のうちに弊社のエンジニアリング技術のクオリティとその深みに注意が向けられるようになるでしょう」。

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