Crafty Apes が繊細なインビジブル エフェクトで作り出す映像の魔術

ドリーム インビジブル エフェクト
「ドリーム」のワンシーンのビジュアル エフェクト処理前と処理後 [提供: Courtesy Crafty Apes/20th Century Fox]

映画業界で、大爆発から絵画的で時代に即したインビジブル エフェクト (現実と CG の境目を分からなくするなどの効果) まで、あらゆるものを生み出すデジタル技術、ビジュアル エフェクト (VFX; 視覚効果) の最前線で生計を立てており、それが得意であるなら、遅かれ早かれ独立しようという気持ちが生まれてくるだろう。

大抵の場合、そのタイミングは、潜在的なクライアント一定数に到達することで必然的に決まる。また、ワークフローの合理化やツールの低価格化など、その分野における技術的発展と同時に起こることもある。ビジュアル エフェクト制作会社 Crafty Apes の共同設立者であるクリス・レドゥ氏には、Scanline に勤務していたときに、その閃きの瞬間が訪れた。当時レドゥ氏は、合成部門のスーパーヴァイザーとしてJ・J・エイブラムズ監督作品「SUPER8/スーパーエイト」の列車の大激突シーンに取りかかっており、4 カ月連続で 1 日 16 時間働いていた。Scanline は、それまで勤めた中でも最高の会社だったと絶賛するレドゥ氏ではあるが、やはり帳尻は合っていなかった。

「家族と離れて過ごさなくてはならず、バーでくつろぐ大切な時間が持てないなら、それなりの理由がなければならないと考えました」と言うレドゥ氏は、行きつけの居酒屋 2 軒の売上不振は自分のせいだとジョークを飛ばした。「それにコンピューターの前でずっと過ごしていると、プロデューサーやスタジオとネットワークを築けないことも実感しました。視覚効果だけでなく、映画製作全体のプロセスを学びたいと考えたのです」。

「ドリーム」のワンシーンのビジュアル エフェクト処理前と処理後 [提供: Courtesy Crafty Apes/20th Century Fox]

アラスカ出身のレドゥ氏は物静かで、サーバールームに付くまでクラウド コンピューティングの最新の進歩について一方的にまくし立てるような人物ではなく、スーパーボウルのある週末に一緒にTVでアメフトを観ながら、くつろいで過ごしたい相手に思える。氏は Scanline や Café FX、Uncharted Territory、Orphanage で合成処理を行ったほか、Pusher Media を通じてオーディオスレイブや U2、パラモアといったバンドのミュージック ビデオ制作に参加し、また R!OT のスーパーヴァイザーも務めた。だが、枠に収まらない人生が待っていた。

「言葉で表現するのは難しいのですが、自営業を営むことに閃きを感じたのです」と、レドゥ氏。「会社勤めであれば、毎月決まった時期に給料が振り込まれると分かっています。でも、そこに興奮はほとんどありません。会社員とはピラミッドの石を積み上げる働き手のひとりであり、ピラミッドをデザインする役割ではないからです」。

2011 年、レドゥ氏は業界仲間でベテランのジェーソン・サンフォード氏、弟のティム・レドゥ氏と共に Crafty Apes を立ち上げた。レドゥ氏の弟は意欲的で、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の化学博士課程の奨学金を蹴って、ビジュアル エフェクトでのキャリアをスタートさせた。この制作会社がフォーカスする専門分野は 2D 合成で、最新の「スーパーマン」シリーズに見られるような猛烈なビジュアル エフェクトとは対照的な、クロマキーやマット ショットなどだ。

デモリールも無いまま新会社を立ち上げ、モンスターや宇宙船を合成する仕事から、レドゥ氏本人が「2 名の人物が室内で話をしている」というようなシーンを扱う作業へシフトするのは困難も伴った。だが、その努力は徐々に実を結びつつある。チームは「それでも夜は明ける」などの映画作品の、単発かつ緊急性の高い「お助けマン」的な仕事の受注を始めたが、それが結果的には、大規模な制作会社では不可能な方法で業務をこなす、このチームの技能を披露する機会になった。そして、こうして参加した映画がアカデミー作品賞を含むオスカーを 3 つも獲得したことで注目が集まる。

映画「Fist Fight」(アイス・キューブ、チャーリー・ディ出演) の作業完了後、レドゥ氏は、過去に一緒に仕事をしたプロデューサーが指揮する、新たなプロジェクトの知らせを受ける。それが映画「ドリーム」だった。60 年代初めを舞台とし、35 mm フィルムで撮影された「ドリーム」は、コダクロームのような、あの時代特有の雰囲気を持つが、それは独特の問題を突き付けることにもなった。35 mm はソフトで、その粒状感が画面にボケ感を与えるので、ケープ・カナベラルの発射台から歩き出るジョン・グレン宇宙飛行士の姿を描いた壮大な合成撮影などには最適だ (このシーンは、実際には倉庫内で撮影された)。だが、ロケットの発射や軌道上を進むシーンに当時の雰囲気を加味するのは非常に難しく、多大な時間を要する。

レドゥ氏とチームは、古いフィルムのストックや、国際宇宙ステーションで撮影された映像を研究した。Phoenix FDやNUKE、FumeFX、そして使い勝手の良さと柔軟性やユニバーサル性、「恐ろしいほどの数のプラグイン」が用意されているので気に入っているという Autodesk Maya を多用。映画最大の見せ場となる大気圏再突入中の炎に包まれたカプセルのシーンも、マット ペイント (実写映像と背景画を合成する技術) や NASA ラングレー研究所の外観ショットなど違和感を与えないエフェクトも、レドゥ氏にとって重要なポイントは、シンプルかつ本物らしいものにすることだ。

「ドリーム」のワンシーンのビジュアル エフェクト処理前と処理後 [提供: Courtesy Crafty Apes/20th Century Fox]

「ビジュアル エフェクトは、ストーリーを支える柱として使われるのがベストです」と、レドゥ氏。「ビジュアル エフェクトがストーリーになってしまうとプロットが失われ、高価なストック映像を作成しているだけです。私はいつも、母にリトマス試験紙になってもらっています。母が観て、ストーリーに夢中になるかどうかがカギです。エフェクトが多すぎると、認識が妨げられてしまいます。人間の脳は石器時代から進化していないので、選択肢が多すぎると、うまく対処できないのです」。

レドゥ氏と Crafty Apes チームは「ラ・ラ・ランド」にも参加。この映画も 35 mm で撮影され、「ドリーム」同様に独特の画風と雰囲気に仕上がっている。映画冒頭の壮大なシーンでは、5 分間に 8,000 以上のフレームが詰め込まれた。カメラ機材、車や人を編集で削除し、衣装の色を補正する必要があった。膨大な量のビジュアル エフェクト作業だけでなく、数 TBに及ぶデータに対応するため Crafty Apes のデータ ストレージ インフラ (Qumulo の QC24 ハイブリッド ストレージ) にも新しいアプローチが要求される、途方もない仕事だった。

Crafty Apes のビジュアル エフェクトが使用された「ラ・ラ・ランド」の高速道路のシーン [提供: Dale Robinette/Lionsgate]

Crafty Apes は SpikeTV の新シリーズ「The Mist」(スティーブン・キング原作) の作業を完了し、現在は「ジェイコブス・ラダー」のリメイク (LD Entertainment)、ジュリア・ハート監督、「ラ・ラ・ランド」のプロデューサーであるジョーダン・ホロウィッツによる「Fast Color」など、14 の大型プロジェクトに参加中だ。

「「Fast Color」は、これまで映画界で経験したことのないようなユニークな仕事です。それに、「ジェイコブス・ラダー」では映画のトーンをさらに高める、ムーディな効果が加えられました。それ以上は言えませんけどね」。

「このビジネスは独特です」レドゥ氏はこう続ける。「DIY 的なことが多く、大抵は自力で解決策を見つける必要があります。「ドリーム」の空を眺める群衆のシーンでは、あの群衆の半数は、このオフィスで作成されたビジュアル エフェクトです。そういうことを四六時中やっているんです。日々、新たな課題に取り組んであり、その混沌を受け入れています。先日、駐車場で打ち上げ花火を発射していたら、「一体何事だ?」と人だかりができてしまいました。そういうときには、こう言うんです。「ご心配なく。映画を撮っているだけですよ」とね」。

 

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