アメリカンスタンダードのジャン・ジャック・エナフ氏が語るユーザー中心のデザイン

アメリカンスタンダード
ジャン・ジャック・エナフ氏 [提供: American Standard]

ジャン・ジャック・エナフ氏は、自分本位な理由でデザインの道に進んだと認めている。LIXIL Americas でデザイン部門のバイス プレジデントを務め、バス/キッチン サプライヤーの アメリカンスタンダードDXV を運営するフランス生まれのエナフ氏は「私はフランス西海岸で育ち、船に乗ることが多かったので、とにかくボートをデザインしたいと考えていました」と述べる。だが、現在の仕事はそれ以上に興味深く、やりがいのあるものだという。

エナフ氏が統括するのは、革新的な製品によりキッチン/バス業界、デザイン コミュニティの両方で称賛を受ける、成長中のデザイン部門だ。フロリダ州オーランドで開催された 2018 Kitchen & Bath Industry Show で発表された自動洗浄機能付きトイレ、遠隔操作可能なシャワーヘッドなども、彼が手がける製品だ。いずれも大規模な消費者調査とプロトタイピングから生まれたもので、エナフ氏によれば、人々の暮らしを過ごしやすく、衛生的なものとすることを目指す「ユーザー中心」のアプローチの核となるものだ。

コーラーや Audiovox、Terk Technologies のデザイン部門で責任者を務めてきたエナフ氏は、航空機や地下鉄のインテリアから医療機器や家電まで、ありとあらゆるものをデザインしてきた。だが、彼の個人的熱意でスタートしたことが、今やチームが重視する活動となった。豊かな才能を最大限に活用する目的で 2017 年 4 月にニューヨーク市内にオープンした新しいインダストリアルデザイン スタジオは、その最も顕著な例だ。エナフ氏にとって、LIXIL における優れたデザインとは右脳と左脳のバランスが取れたものであり、チームの使用する Autodesk Fusion 360 も、その複雑性への対応に役立っている。「ユーザーを中心に置くという方向性は、共感なしには不可能です」と、エナフ氏は付け加える。「エゴは別の場所に置いておき、その意識を忘れないことが必要です」。

そのエナフ氏に、自身のリーダーシップ スタイルや 3D プリント製の水栓金具、バングラデシュでの大規模な公衆衛生プロジェクトについて聞いた。

アメリカンスタンダード ActiClean トイレ
自動洗浄機能付きトイレ ActiClean は、既存の製品デザインの本質的な限界に対してアメリカンスタンダードが集中的に取り組んでいることの一例となっている [提供: American Standard]

LIXIL デザイン部門のバイス プレジデントとしての、主な役割は何だとお考えですか?
それは幾つかあります。私が率いるデザイン部門は、しばらくの間、未公開株式会社の組織内にあり、新製品開発の投資が不十分でした。私が果たす役割のひとつはデザインを組織の中心へと呼び戻すことであり、そのために適任な人材と適切なプロセス、優れたツールを持ち込んで、正しい方向へと導こうとしています。つまるところ、私の仕事は、人々の暮らしをより良いものにするための、優れた製品を生み出すチームを構成することになります。

アメリカンスタンダードは、自動洗浄機能を搭載したトイレ、手の動きでコントロールできる水栓金具、タッチ式シャワーヘッドなどを開発していますが、こうしたイノベーションへとつながったデザイン思考とは?
ユーザーを中心に置くものです。私たちは、ユーザーの観察にかなりの時間をかけています。既存の製品に存在する、問題の起こる部分、日々の暮らしを容易にするが機能上の不備を隠すため人々が用いている対処メカニズムを探します。競合他社より多くの機能を持たせることが目的ではなく、人々のニーズに応えるために製品やテクノロジーを開発しています。製品を、意識せず使えるようにしたいのです。率直に言って、誰もがトイレ掃除を嫌がります。触るだけでも嫌なものです。そこで、自動洗浄機能を持ったトイレを開発しました。こうした製品の機能には、製品を使用する人々のニーズや好みが反映されています。

jean-jacques l’henaff spectratouch showerhead
ユーザーの好みに合わせてカスタマイズ可能なタッチコントロール式シャワーヘッド SpectraTouch [提供: American Standard]

新製品の研究開発について、もう少し詳しくお聞かせ願えますか?
デザイン部門には観察チームがあり、市場動向をグラフ化して研究へ参加します。エンジニアリング チームはワークフローを作成します。ブレインストーミングやアイデアの作成に時間をかけ、その後、消費者を招いてテストを行います。研究からアイデアの形成、そしてテストまでを繰り返し行き来して、製品が適切に設計、検証されるようにします。また、私たちの製品には新製品でないものもあります。例えば大規模小売店に並ぶ水栓金具など、既存カテゴリー内の従来からある製品ラインのアップデートも、私たちの仕事です。

これまでデザインした中でも、最もクールだったものというと?
最高にクールなのは、Vibrato、Trope、Shadowbrook という、水栓金具の 3 つのラインです。ステンレス鋼で直接プリントされています。3D プリンティングの技術は登場からしばらく経ってはいますが、直接金属レーザー焼結法 (DMLS) によって、層ごとにさまざまな合金を使用して水栓金具をプリントできるようになりました。通水路は、これら水栓金具の内部構造に組み込まれています。

このプロジェクトは少し変わったところから生まれました。アメリカンスタンダードの前 CEO が 4 年前に要求したのは、従来は作ることのできなかった何かをデザインすることでした。経営側の思惑は、3D プリント技術を用いた水栓金具の少量生産による、在庫の圧縮です。2016 年 10 月のローンチに先立ち、プロトタイプとモデルを開発しました。市場価値は高く、これまでの販売数も数点という、極めて高価で独自性の高い製品となっています。興味深いことに、このプロジェクトは、水栓金具の製造方法についての私たちの理解を変えることとなりました。従来の製造手法では開発できなかったであろう製品です。

jean-jacques l’henaff sato toilet pan
低コストで衛生的な簡易式トイレ SATO は、シンプルな機構と水封を使用して落下式便所に蓋をし、臭気や病気の感染を抑えている [提供: American Standard]

アメリカンスタンダードは2013 年、バングラデシュを含む開発途上国に住む 550 万人を対象とした、より安全な公衆衛生の提供を目的とするプロジェクトで iDEビル&メリンダ・ゲイツ財団とパートナーシップを結ばれています。この Flush for Good キャンペーンの取り組みについてお聞かせいただけますか?
とても興味深いデザイン手法を応用した、素晴らしいストーリーです。弊社の製品エンジニアたちは、バングラデシュの人々の生活習慣を観察し、この国の経済活動の理解に時間を費やしました。そうして開発したのが、極めてシンプルな公衆衛生ソリューションである簡易式トイレ SATO です。価格は数ドルで、バングラデシュの既存の製造施設とサプライ チェーンが活用されています。改良されているのが、虫の侵入と病気のまん延を防ぐ、開閉する弁です。家庭内にトイレはなく、基本的に公衆トイレとして使われます。穴を掘ってコンクリートの蓋をして、その中央にプラスチック製の SATO を設置します。使用していないときは、排水口に取り付けられた弁が釣り合い錘の仕組みにより閉じらています。使用時に半リットルの水を流すだけで、虫の進入を防ぐ水封ができます。非常にシンプルながら、大きな違いを生むソリューションです。

私は、チームがソリューションを生み出した手法に心を奪われました。自国で使っているテクノロジーを押し付けるのでなく、現地の人々とテクノロジーからソリューションを導き出したことです。こうしたプロセスは、ケニアでも再現されました。親会社である日本の LIXIL は、優れた慈善活動が実行されていることを受け手、このテクノロジーやプロセスを用いてより多くのコミュニティに活動を広げるために新部門を設立しました。現在、世界総人口の 3 人に 1 人は、適切な公衆衛生設備を利用できない状況です。SATO のようにシンプルで手頃な製品には、計り知れない効果があります。

関連記事

Success!

ご登録ありがとうございました

「創造の未来」のストーリーを紹介中!

日本版ニュースレターの配信登録