ケン・ゴールドバーグ氏とともに「つかみとる」機械学習とクラウド ロボティクス

by Markkus Rovito
- 2017年8月29日
Ken Goldberg talks about Dex-Net 2.0
Image composite: Micke Tong

ロボット掃除機ルンバを iRobot がデビューさせたのは、15 年も前のことは。だが、食洗機から食器を取り出したり、洗濯物をたたんでくれるロボットは、どうなっているのだろう? 退屈な作業を処理してくれるロボットは多いが、未知のオブジェクトを感知し、つかむには、かなりの費用をかけた練習が必要になる。だがクラウド接続され、手作業をすぐに始められる能力を持つロボットという、新たなイノベーションが登場している。

カリフォルニア大学バークレー校工学部のケン・ゴールドバーグ特別教授と博士課程で学ぶ指導学生ジェフ・マーラー氏が、先日 Dex-Net 2.0 の成果を発表した。このリサーチ プロジェクトは、ディープラーニング ニューラル ネットワークに接続されたロボットが、新しいオブジェクトをつかめるよう訓練を施すものだ。このロボットは、オブジェクトを使った物理的実験を無限に繰り返すのでなく、その方法を、670 万の点群からなる合成データ セットから学ぶ。オブジェクトの表面の 3 次元座標を用いて、つかみ方の例を学習するのだ。クラウド接続によりロボットのメモリーと処理能力はネットワークにオフロードされる (肩代わりさせる) ため、こうした膨大なデータ セットの使用がより実用的なものとなり、クラウド接続している他のロボットとのデータや結果の共有も可能になる。

「合成データ セットにより機械学習をブートストラップ (自己開始実行) できることが解明されつつあります」と、ゴールドバーグ氏。「ロボットの位置の微細なエラーに左右されず、つかみ方を識別する統計的サンプリングがカギになっているようです」。

彼には分かっているはずだ。ゴールドバーグ氏はカリフォルニア大学バークレー校 の AI リサーチ (BAIR: Berkeley Artificial Intelligence Research) ラボの共同設立者で、20 年以上もロボット工学に携わっている。1995 年に彼が発表したインスタレーション The Telegarden はインターネットに接続された初のロボットで、遠隔地にいるコラボレーターが、ロボット アームを使用して苗を植えたり水やりをしたりするものだった。

今や、ロボット アームはプリプログラムされた機能を持ち驚くべき精度を実現していえるが、未知のオブジェクトへの適応には苦労している。自動車部品の溶接はできても、新しい部品をつかんだり、既知の部品をつかんで組み立たてたりするのは得意ではない。

だからこそ、カリフォルニア大学バークレー校 AUTOLAB のプロジェクトである Dex-Net 2.0 は、クラウド ロボティクスの商業化に大いに役立つ可能性を秘めている。ネットワーク上の膨大な合成データセットから学ぶ洗練された能力を持ち、クラウドで共有された結果がもたらすポジティブなフィードバック ループを組み合わせることで、さらに器用なロボットとなり、倉庫で商品を素早く梱包したり、機械工場や家庭で整理や片付けをしたりできるようになるのだ。

Ken Goldberg (far left) with AUTOLAB research students Michael Laskey, Jacky Liang, and Sanjay Krishnan.
ケン・ゴールドバーグ氏 (左端) と AUTOLAB 研究生のマイケル・ラスキ―氏、ジャッキー・リアン氏、サンジェイ・クリシュナン氏 [提供: ケン・ゴールドバーグ氏]

Dex-Net 2.0 の成果は、ニューラル ネットワーク機械学習と、数千もの小型のオブジェクトや、おもちゃのサメからねじ蓋までありとあらゆる部品の形状についての統計的推論を組み合わせたものから生まれている。ネットワークは統計的確率を用いてデータ セットを処理し、標準的なロボット部品と既製の 3D センサーを使用して、どの物体をつかむことができるのかを予測。つかめるという確信が 50 %以上だった場合、それに 99 %の確率で成功した。

こうした成果はロボット工学、機械学習のどちらの面でも心躍るものであり、ゴールドバーグ氏とマーラー氏が Dex-Net 2.0 データの一部を公開している理由にもなっている。コードやデザイン、その他のデータを公開してオープンソースとすることは、ゴールドバーグ氏のクラウド ロボティクスの 5 要素 (英文)のひとつだ。クラウドを介したデータ共有は、ロボット間学習をも可能にする。あるロボットが工場や倉庫、家庭で見慣れないオブジェクトに出会った際、その新しいデータをアップロードして、他のロボットに役立てることができるのだ。

こうしたクラウド ロボティクスのメリットには、幾つかの懸念もある。プライバシーやセキュリティ、ネットワークの信頼性、そして特にデザイナーに大きく関わのが知的所有権の問題だ。「もちろん、家庭内や手術室、工場で起こる全てのことをロボットが流布するような状況は好ましくありません」と、ゴールドバーグ氏。「ロボットがクラウドに接続されるということは、ハッキングの可能性があるということです。油断することなく監視が必要であり、「クラウドが全ての問題を解決してくれる」などとという過度の楽観視をしないことが重要です。クラウド ロボティクスは問題ももたらします。ただし、それが妨げになるとは思いません」。

まさに開拓期にあるこの技術の要素の一部は、技術進歩の最先端でバランスをとっているような状況だ。著作権で保護されたアイテムの 3D モデルをオープンソースのクラウド上に置くことに関する知的所有権の問題については、まだ取り組みが完璧だとは言えないとゴールドバーグ氏は話す。Dex-Net 2.0 の 3D モデルには著作権で保護されているデザインに由来するものもあるが、ディープラーニング ネットワークからオブジェクト形状をリバース エンジニアリングすることは不可能であるため、著作権所有者の権利が危険にさらされることはないと、ゴールドバーグ氏は考えている。

ゴールドバーグ氏とマーラー氏は現在、Dex-Net をさらに上のレベルの自己学習へと拡張している。それにより、間違いを犯した場合には故障モード分析を行うことで、解決策を割り出すことが可能だ。既知のオブジェクトでの精度を 98 %から 99.999 %まで向上させ、組立などさまざまな用途でつかみ直すことのできる機能を追加することにより、Dex-Net を散乱していたり山のように積み上げられていたりするものからオブジェクトを拾い上げるのが得意なロボットに進化させたいと考えている。ものが山積みにされている場合、今のところロボットにとって、個々のオブジェクトの外縁とサイズを感知するのは難しい。新バージョンは、オブジェクトを押し出し、対象のオブジェクトを他からより分ける能力を備えるようになる。

「子供は、何度もものを落としたり拾ったりします」と、ゴールドバーグ氏。「能動的な検討作業から学ぶのです。誰かがテニスをしているのを 1 日中眺めていたからといって、テニス ラケットを手渡されても、上手にテニスができるわけではありません。自らやってみるしかないのです。そうすることで学ぶのです」。

ABB YuMi robot with grips
Dex-Net 2.0 では ABB YuMi 協働ロボットが使用われた [提供: メンロン・グー氏]

クラウド ロボットが人間のように新しいオブジェクトを認識し拾い上げることを学ぶには、分析的推論とデータ主導のディープラーニングを組み合わせる必要があるだろうと、ゴールドバーグ氏は考えている。「科学者たちが数百年にわたって発展させてきた分析モデルの重要性を強く訴えたいと思っています」と、ゴールドバーグ氏。「最近では、これらを軽視し、データ主導のディープラーニング モデルのみを使用する傾向がありますが、分析をないがしろにするのは間違いです。解決策は 2 つを組み合わせることにあります」。

自ら学習するマシンというアイデアは、技術的特異点 (シンギュラリティ)という概念を引き起こした。人間が人間より賢いマシンを生み出すとしたら、そのマシンは、マシンよりも賢い新しい AI を生み出すことができるであろうし、この連鎖はあらゆる予測可能性を超えて続いていく。その発展による最悪の事態を予想する人が多いが、テクノロジー ユートピア支持者は最良の事態を予想する。

ゴールドバーグ氏は、慎重(スケプティカル)でありながら楽観(オプティミスティック)でもある「スケプティミスト」だ。AI を巡る世界滅亡のシナリオにも、過大なユートピアのシナリオにも、どちらにも懐疑的だが、同時に生活を向上させる人間とマシンの相乗効果には楽観的な見方をしている。ゴールドバーグ氏はシンギュラリティに代わる概念として多様性 (マルチプリシティ) を提唱している。多様な層の人々が重要な問いを投げ掛け、多様なマシンに取り組んで最良の決断を下す。

「今後どのように展開していくのか正確に予測することはできませんが、現行の産業利益のレベルはこれまでの 30 年間に目にしたことのないものです」ゴールドバーグ氏はこう話す。「十分に多様なマシンの集団は、単体で働くマシンよりも、より優れた決定を行うよう学習するようになるだろうと、私は確信しています」。

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