わずかな差へのこだわりが大きな違いを生み出すキッチンツール

by Keiko Kusano
- 2017年2月14日
キッチンツール 野菜をうつわに ベジココスプーン オークス leye
leye シリーズの「野菜をうつわに ベジココスプーン」 [提供: オークス株式会社]

みそを簡単に計量できるマドラー、自分の指のような感覚で使える小さなトング、魚焼きグリルにそのまま入れられるグリルパン。ありそうでなかったアイデア キッチンツールは、使う人の視点に寄り添い、「わずかな差」を追求することから誕生している。

鍛冶や鎚起銅器などの長い歴史を持ち、現在もプレスや鍛造、機械加工などの企業が多い新潟県・燕三条地区。その地に本社を構えるオークス株式会社は、キッチン、インテリアなど家の中で使用されるプロダクト全般の企画・販売を手がけるファブレスのメーカーだ。

同社のインハウス デザイナーであるマーケティング本部 商品企画課の小坂井里美氏は、社内のさまざまな商品の企画にかかわりながら、キッチンで作業を行う女性ならでの視点を大切にした leye (レイエ) ブランド製品のデザインを一手に引き受けている。社内でただ一人のデザイナーである氏は、これまでさまざまな試行錯誤を重ねてきたという。

キッチンツール オークス 小坂井里美
オークス株式会社 マーケティング本部 商品企画課の小坂井里美氏

「手で発泡スチロールを削り、納得がいく模型ができたら、それを元に 2D CAD で図面を起こし、その図面を元にまた模型を手で作り、という作業を繰り返します。少しイメージが違うと思ったら、また修正する、ということを延々と繰り返していたため、マウスの使いすぎで手が炎症を起こして、ボロボロになっていました」

製品は企画、デザイナー、設計の 3 人のチームで担当するが、商品となるツールの大きさや使い勝手の確認には、手に取って確認できる模型が不可欠だ。小坂井氏はデザイン作業と模型作りを幾度となく繰り返し、オフィスを出るのは常に 22 時、23 時という日々を送っていたという。

2012 年 6 月に発売された「ゆびさきトング」のデザインも、発泡スチロールを削り、トングを握った際のサイズ感などを確かめて、最終形を模索しながら作り込まれていった。社内の男性社員からは「手を汚さないためのトングなんて、そんなものが売れるのか」と言われるほど、最初は期待されていない製品だったという。

だが細部への徹底的なこだわりが、大きな違いを生み出す。指先のような器用さを思わせるフォルムと、柔らかい握り心地で作業できる機能性、上下を逆にして場所を汚さずに置ける点など、女性ならではの目線による細やかな配慮が随所に散りばめられたデザインが共感を得て、リリース直後から大きな話題となった。大ヒットを記録する leye シリーズの代表作であり、5年経った現在も人気のロングセラー商品だ。

3D CAD への移行
小坂井氏がデザインを学んだ大学では、CAD などの画面上のデザインよりも、まずは自分の手でモデルを作ることが重視されていたという。その教えは今でも大切にしているという一方で、デザインをより効率的に行うため、画面上でもさまざまな角度から検討できる 3D CAD への移行を検討。必要性を周囲にも理解してもらおうと、2015 年、まずは自宅のパソコンで Fusion 360 を試してみたという。

「ポリゴンモデリング、ソリッドモデリングの両方の作業に対応していて、もっと効率的にデザインができるものを探していました」と、小坂井氏は当時を振り返る。「そこで目をつけたのが Fusion 360 だったのです。実際に使ってみると、モデリングの履歴が蓄積でき、いつでも前の状態に戻れる機能、アセンブリや解析などの機能もあり、プロダクト デザインに必要な機能が備わっていることに感動しました」。

従来は模型を作って確認していたことの多くが画面上で行えることを体感し、設計担当者ともファイルを共有できることを確認。こうして本格的に導入した Fusion 360 を活用し、初めて世に出た製品が「ムダなくまぶせる粉ふるい」だった。「これは Fusion 360 がなければ、作ることができなかった製品でした」。

この「粉ふるい」は二層構造になっており、上下に重なったマラカス型をスライドさせて粉類をすくい、その型を閉じてひっくり返すことで均等に粉を振るう作業が可能となる。こうした構造の模型を手作りすることは難しく、3D プリンターで模型を出力することで実現できたプロダクトだったのだ。

「実は粉ふるいの穴は正円で設計していたのですが、3D プリンターで出力してみたら、なぜか素材の変形で楕円になっていたのです。でも、その形状の方が粉の出方が良かったので、楕円にすることにしました。これは 3D プリンターによる奇跡ですね (笑)」。

野菜をキレイにくり抜ける「野菜をうつわに ベジココスプーン」の開発では、野菜の出回るシーズンに合わせるため、発売まで 4 カ月という異例のスピードが要求された。2016年夏に発売されたこの製品の、最初のデザイン提案までに与えられた日数は、わずか 4 日間。「これまでの発泡モデルを作って 2D CAD で図面を起こすやり方だったら、到底できないスケジュールですが、3D モデリングとそれを出力したモデルで、カタチの検証や職人さんとのやりとりが効率的に行われ、短い日数でも無事発売することができました」。

3D CAD 上でのデザインを行うことで 2D CAD の描き直しの手間が減り、現在は手の炎症も治まって、残業も減らすことができたという。「作業で追われていたのが、新たな企画を練ることに時間に割けるようになりました。それに Fusion 360 はクラウドベースで、家でも会社でも同じ環境で使うことができるのも、とても助かります」。

今後はさらにソフトの機能や技術を習得することで、モデリングのスピードを上げるのが目標だと、氏は笑顔で語る。「商品を見て、用途に気づいた時に、お客さんが“こんなのほしかったの!”と笑顔になってくれるのが嬉しいですね。私は設計までですが、実際の製造物は職人技に頼るところも多いのです。アイデアとデザインと職人技で、これからも世の中にない新しいプロダクトを出していきたいですね」。

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