マス ティンバー: 実験的な高層木造建築で絶賛を浴びる建材

by Zach Mortice
- 2016年7月26日
ノーザン ブリティッシュ コロンビア大学 Wood Innovation and Design Centre [提供: MGA/Ema Peter]

世界最古の高層木造建築は約1,000年前に建てられたもので、数々の王朝と多様な天候、さらには度重なる地震を耐え抜いている。中国の応県木塔は 9 層、高さ 67 m の仏塔だ。この素朴な八角塔には 54 種類もの木造継手が使用され、釘は一本も使用されていない。

この例を見ると、高層木造建築を行わなくなった理由となる常識が、妥当でないように思えてくる。木材は多少の日光と土、水さえあれば育つ建築材料だ。鋼より軽いが、それに匹敵する強度を持つ。また、大気中の炭素の活発な吸収と隔離を行う。

魅力的な可塑性を持つコンクリートには環境コストが付き物であり、建築家たちはその解決に取り組んでいる。この木骨造の仏塔が現代の確認検査をパスするのは無理だろうが、従来にはない高さを木造で達成する新たな木構造が研究、再提案されつつある。これは「マス ティンバー」と呼ばれ、I 形梁やカーテンウォールの登場のように、斬新な変革をもたらす材料革命を推進するものとなるかもしれない。

マス ティンバーとはどんなもの?
マス ティンバーとは、複数の木材を組み合わせて圧縮強度と張力強度を向上させた集成材を指す。この集成材が、最大で14階建てまでの完全木構造に使用されるようになってきた。10階建てと12階建ての木造建築に挑戦するデザイン コンペもある (各国の建築基準法では従来の木骨造による建築物の階数を 6 階までに制限していることが多い)。マス ティンバーの構成要素には、長さ約 46 m、厚さ約 51 cmになるものもある。

mass timber wood innovation and design centre
Wood Innovation and Design Centre [提供: MGA/Ema Peter]

北米で考案された集成材もあるが、 CLT (直交集成板: 大抵は高層ビルに使用される) は何十年も前にヨーロッパで開発されたものだ。マス ティンバー研究の多くに建築家やエンジニアが参加し、既存の構造を新たな建築に応用する方法を模索している。木造建築物を設計する建築家やエンジニアに技術支援を提供する組織、WoodWorks の業務執行取締役ジェニファー・カバー氏は「用途と利点を理解し、規制緩和が期待通りのスピードで行われるよう研究を進めることが非常に重要です」と語る。

だが、高層木造建築における洗礼者ヨハネのような存在であるマイケル・グリーン氏は、マス ティンバーは建築家が、材料科学と開発に直接関わることのできる機会だと述べている。「私たちはデザイン コミュニティとして、この議論で製作側の立場に戻ることができるのです」。

グリーン氏は「マス ティンバー」という語を 6 年前に生み出したと話す。彼が手掛けた、ノーザン ブリティッシュ コロンビア大学にある高さ約 30 m の Wood Innovation Design Center (WIDC) は、北米で最も高い木造建築だ。これに続く幾つかのプロジェクトも、その一部はグリーン氏によるものだ。彼は現在、木造 30 階建ての建築物の企画書に取り組んでいる。

その材料は?
厚いひき板を接着した重量木材には幾つかある。NLT (釘接合集成板) はアルミ製の釘を使用してひき板をつなぎ合わせており、切断してサイズを変更できる。GLT (接着集成板) は接着剤を使用して、ひき板を接合。CLT (直交集成板) はジェンガのように、ひき板の方向が直交するように並べることで、さらなる強度を付加している。これらはパネルとして使用されることが多いが、CLT はほぼ全ての構造機能に使用することができる。

mass timber wood innovation and design centre
Wood Innovation and Design Centre [提供: MGA/Ema Peter]

合板と同様、集成材は複数のひき板を貼り合わせて作成され、梁として使用されることが多い。LVL (単板積層材) は幅広の薄い板を、繊維方向を揃えてサンドイッチ状に貼り合わせたものだ。LSL (ストランド積層材) は、細かく裁断された木材を熱圧成型したもので、これも繊維方向は揃えられている。

コンクリートとマス ティンバーの両方から成る複合構造は、木材を使用することによる確かな緑化効果を加えつつ、より高層な建築にも対応する。例えば、木造に関する SOM レポート (英文) は、このハイブリッド システムでも、コンクリートのみの同等のビルに比べて炭素排出量を 60 – 75 % 抑えることができるとしている。マス ティンバーが進展するにつれて、「エンジニアたちは、構造上および環境上のパフォーマンス両方を実現するにはビル内のどこにどの材料を使用するのがベストなのかを判断するようになるでしょう」とカバー氏は話す。

そのメリットは?
強度重量比に加えて、最も大きな利点となるのが炭素隔離だ。木は成長中に大気の炭素を取り込み、木材内に留める。20 階建てビルに使用される木材は、3,150 t (英文資料参照) の炭素を隔離できる。同程度のビルの建設に使用されるコンクリートは、1,215 t の炭素を排出するため、これにより削減できる炭素排出量は 900 台の自動車が 1 年間に排出する量に匹敵する。

さらに木材は柔軟で現場で迅速に処理でき、必要に応じて簡単に切断したり変更を加えたりできる。また木材は、ビル解体後はさまざまな用途にリサイクル可能だ。木材は大型建築で仕上げ材として使用されることが多いが、その豊かで自然な質感 (と人々が感じる魅力) は、構造体や外壁、内壁としても機能する。

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Wood Innovation and Design Centre [提供: MGA/Ed White]

デメリットや耐火性は?
研究者はこれまで、木材が対処できない構造上、建築上の機能を発見していないが、木材も完璧ではない。オレゴン州立大学木材科学工学科のレフ・ミュジンスキ教授は、木造では消音効果が問題となることが多いと話す。「バイオリンが木製なのは偶然ではありません」と、ミュジンスキ氏。また木材は、鋼やコンクリートは異なり虫害にも弱い。さらに高温多湿の地域では、湿気や劣化を防ぐため慎重な仕上げが必要となる。

耐火性については、全ての建材は同じ建築基準法に準拠しなければならないが、マス ティンバーは分厚く硬いため、強度を保ったまま外側からゆっくりと予測可能な速度で炭化する。それにより延焼速度が抑えられ、避難時間を確保できる。炭化部分は木材をさらなる崩壊から守り、ビルの構造上の完全性を維持し、木材が炎の燃料となるのを抑える。これはつまり、マス ティンバーを使用して、より高層構造を建築可能ということだ。

森林破壊については?
これに関して、マス ティンバー推進派は米国内の約 3,040 平方 km にわたる森林が、何十年にもわたって不変であると反論している。これは米国の国土の総面積の 3 分の 1 に相当する、膨大なエリアだ。「北米の森は、CLT を用いた 8 ~ 10 階建てビル 1 棟分に相当する木を 5 分で育てることができます」と、グリーン氏。

安定性を促進するひとつの方法は、例えば森から得られる木材を、持続可能性に優れたビルをより多く建設することに使用するなど、森林の金銭的価値を維持することだ。「木製品の市場が強力であれば、森林管理に投資するだけでなく、他の用途のために森林を伐採するのではなく、森への植林を続ける動機を地主たちに与えます」と、カバー氏は話す。

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Wood Innovation and Design Centre [提供: MGA/Ed White]

では今後は?
研究者たちは、地球上で最も成長スピードの速い植物である竹など、他の材料についても研究中だ。オレゴン州立大学木材科学工学ラボでは、科学者たちがマス ティンバーに低価値の木材を使用する方法を模索している。

また建築家たちも、郊外型大規模小売店や大学施設、橋など、マス ティンバーに理想的なビルやインフラの種類を検討している。事実、専門家たちは、マス ティンバーの代表的な建築が必ずしも高層ビルだというわけではないと話している。だがこの素材は便利なので、高層マス ティンバー建築が偶像以上のものになる可能性は高く、いつの日かユビキタスな存在となるだろう。「鉄骨造におけるエッフェル塔のような存在です」と、ミュジンスキ氏。「このテクノロジーがもたらす可能性を示しているのです」。

「高層ビルは…」と、グリーン氏も付け加える。「何が可能なのかという一般認識を、一変させようとしているのです」。

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