ゲンスラーのプロジェクト アーキテクト、ネイト・ディーソン氏の問題解決と前例作り

Gensler プロジェクト アーキテクト
ネイト・ディーソン氏 [提供: Gensler]

大学での建築学の授業中、ネイト・ディーソン氏が建築に初めて心を奪われたのは、アントニ・ガウディの作品を研究するクラスでのことだった。

心理学専攻で入学したディーソン氏にとって、建築学の授業はコースの必修単位を満たすためだけに取ったものだった。だがディーソン氏が、この新しい興味の発見以上に驚かされたことは、彼の心を引きつけた要素だ。建築は、単に美しいデザインというだけでなく、問題解決が重要なのだ。世界有数の建築事務所、ゲンスラーでプロジェクト アーキテクトを務めるディーソン氏は「華麗な空間に足を踏み入れるとき、ほとんどの人は、それを実現するために解決しなければならなかった 15 の問題には目を向けません」と話す。「私は、そこが楽しいのです。それこそが私をこの業界につなぎ止めている要素だとも言えます」。

継父が施工業者だったディーソン氏が現在働いている会社は、Instagram や Facebook の本社、MLS (メジャーリーグ サッカー) ロサンゼルス FC の本拠地に予定されているバンク オブ カリフォルニア スタジアムなどのプロジェクトに携わっている。先日彼は、シリコン バレーにある巨大なテクノロジー会社のインテリア プロジェクト アーキテクトとして招聘された。

そのディーソン氏が、プロジェクト アーキテクトという役割の魅力や苦労、それを支えるメソッドについて語ってくれた。

ゲンスラー プロジェクト アーキテクト
ネイト・ディーソン氏が現在手がけている、シリコンバレーにあるハイテク会社のキャンパスのレンダリング [提供: Gensler]

ゲンスラーでの日課は、どのようなものですか?
まず朝に、最も緊急性の高いメールに目を通し、その日のうちに完了させるべき 3 つから 5 つのことを選び出します。現在、この業界は非常に多忙です。景気は極めて良好で、多くの企業が成長に伴い、より広い空間を必要としています。

自分でも意外なことなのですが、建築やその他の法規を読み通すのが非常に楽しいのです。なぜその法規が策定され、このように書かれているかのロジックを理解することで、何をデザインするべきかを把握できます。

図面が好きになり、今では建築法規に興味を持っているのですね?
興味の対象としては、少し変わっているかもしれません。図面やデザインは今でも好きですが、法規を実際に理解し、応用できる人はいませんからね。

仕事を効率的に行う上で障害となるのは?
自分たちで決めたスケジュールを守れるような、素早い決断のできないクライアントです。必要な情報があって、初めて問題が解決できます。例えば、クライアントのために幾つかのソリューションが考えられるとしましょう。そして、「これを実行するために 3 通りの手法を使えますが、どれが最も気に入りましたか? 御社に最良の方法は?」と聞いてもクライアントが答えられず、その後も同じ状態が続くと、私たちの仕事は極めて難しいものになります。商業プロジェクトでは、この種の業務支援はそれほど必要とされません。最も効率の優れた商業クライアントは、デベロッパーです。経験が豊富で、何が機能するか、決定には何が必要かを理解しています。居住施設の場合に比べれば、知識が豊富です。

サンフランシスコの新しいセールスフォース・タワーの 5 フロアの仕事は、どんな感じでしたか?
60 階建てのビルで、我々が担当したのは真ん中あたりの部分です。4 フロア分を吹き抜けにして、5 フロア全てがつながるようにしていますが、建築法規との兼ね合いもあって、とても複雑でした。高いビルの中層階にあり、全部のフロアに共通する排気用のシャフトも無かったので、アトリウムを作ることはできません。そこで 5 フロアのうち 3 フロアをスモークカーテンで閉じるソリューションに行き着きました。

ゲンスラー プロジェクト アーキテクト
サンフランシスコにある超高層のセールスフォース・タワー内の、5 フロアの吹き抜け [提供: Gensler]

また、このプロジェクトには人員負荷が非常に高いフロアがありました。従来は水平出口を設置して解決していた問題ですが、さらにハードルがありました。9/11 後、建築法規が改正されて、超高層ビルには出口の要素を追加設置することが必要になったのです。デベロッパーは、3 つ目の追加階段を作るか、居住者脱出用エレベーターと呼ばれる専用エレベーターを取り付けるかを選択できます。セールスフォース・タワーのデベロッパーは追加階段を選択しましたが、関連法規により、水平出口の設置はかなり困難です。水平出口の一方から追加階段へ、他方へ通らずに到達できるようになっている必要があります。市の建設課から許可を得るには、5 カ月も必要でした。

市当局は、私たちのプロジェクトだけでなく、ビルの耐用期間に渡る、そしてこのプロジェクトにかかわる全ての人に対する回答だと理解していました。この回答が、ある種の前例になることを認識していたのです。このビルは、追加階段を選択した、サンフランシスコで唯一の建物です。私の知る限り、これ以外に建築許可を得た 10 棟の超高層ビルは、いずれも階段でなくエレベーターのオプションを選択しています。そのプロセスは興味深く、困難で、手に汗を握るものでした。

この仕事を始めてから、ツールはどう変わってきましたか?
チームが見事なデザイン案を生み出したら、それがクライアントに Autodesk Revit のレンダリングとして提供されます。Enscape というプラグインも使用しており、このプラグインは、Revit モデルを取り込んで、直接 VR 環境にフィードします。クライアントがここのオフィスを訪れるか、私たちがクライアントに持ち込んでゴーグルを着用させることで、着工前にバーチャル空間内を歩き回ることができます。デザインの意図をこうした手法で提供することは、図面や 2D のカラー スケッチを使用したかつてのやり方に比べて、まさに昼と夜ほどの差があります。実際に空間を体験できるのですから。2D では誰にも見えない部分がかなり多いのですが、3D では、その環境に入ることで全てを見ることができます。

特に苦労したプロジェクトについて説明してもらえますか?
最近のあるプロジェクトで、クライアントが許可申請後に相当の部分を変更したのですが、スケジュールは変更不可能でした。建設工事が進行中だったため迅速にデザインを変更し、施工会社にデザイン変更の文書を提供したのですが、彼らの時間は増やせませんでした。できるだけ素早く指示を提供し、工期を通じてデザイン指示書を継続的に提供することが必要でした。そして、クライアントは決定を行う前に、まずフォトリアルなレンダリングで確認する必要がありました。3D でデザインできるのは素晴らしいことですが、クライアントも全てに 3D での確認を期待するようになってきました。ワイヤーフレームであれば素早く準備できるのですが、フォトリアルは手間も時間もかかります。

良い仕事をするためのモチベーションは?
最終的な成果物です。ディテールに心血を注ぎ、良い仕事をしなければ、デザインしたものを実現できません。例えば NGO のための仕事であれば、彼らがその空間で十分に機能を発揮できるよう、優れた空間を生み出したいと考えるでしょう。また、彼らのビジネスの成功と成長のため、ニーズを満たすような空間をレイアウトをしたいと思うでしょう。企業が入居して大きな成功を収め、さらに大きな空間を求めて、また私たちに声を掛けてくれるのが願いであり、それが目標です。

Redshift の「リアル ライフ」シリーズは、建築家やエンジニア、デザイナー、その他のクリエイター/メイカーとしての試行錯誤や喜びなど、リアルなストーリーを紹介しています。

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