建築家が船舶デザインとスーパーヨットから学べること

by Jeff Link
- 2016年10月5日
アワードを獲得した Madame Gu (デザイン: アンドリュー・ウィンチ氏、製造: Feadship) [提供: Jeff Brown]

故ザハ・ハディド氏の、滑らかな曲線美を誇る全長 128 m の Unique Circle Yachts の発表により、無視できないトレンドが注目を集めるようになった。それは、ますます多くの建築家がスーパーヨットのデザインを行うようになっているという事実だ。

適切な契約を結ぶことができれば、船舶デザインの分野で稼げるチャンスは十分にある。好調なスーパーヨット産業は、Broward 製の 65 万ドル (約6,500万円) の Mia から、Hakvoort 製の 6,000 万ユーロ (68億円) 近い豪華ライナー Something Cool まで、今年既に 272 隻もの売上を記録している。

だが建物とボートでは、デザインに提示される課題は異なる。例えば、ボートは全体が動く。建築家にとって、その境界を越える簡単なことなのだろうか? メンタル面を、高額納税者層であるクライアントとの仕事へ切り替えさえすれば、全く問題ない。

「Boat」誌のトップ 50 デザイナーに選出された Winch Design のアンドリュー・ウィンチ氏なら、スーパーヨットでは何よりもライフスタイルが重要だと言うだろう。ブルワークやリギン、内装の仕上げから、寝室の照明スイッチの位置を決める人間工学まで、それを手にする余裕を持った富裕層の夢を実現するため、その全てに細心の注意を払って構想が練られ、製作が行われる。

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Madame Gu (デザイン: アンドリュー・ウィンチ氏、製造: Feadship) [提供: Jeff Brown]

ウィンチ氏がボート制作を始めたのは 30 年以上も前のことになる。現在、スタジオの 4 部門を統括する氏のメインオフィスは、テムズ川の風が感じられるロンドン西部にある、19 世紀の消防署を改装したものだ。今や 70 名が集う彼のスタジオは、10 年以上前にヨットデザインの枠を超え、モンテネグロのヨットクラブやロンドンのカスタムデザイン邸宅、ボーイングやエアバスのプライベート ジェットのデザインなど、洒落た受託建築プロジェクトの分野へ進出を果たした。

ウィンチ氏は、オートデスクの AutoCAD を使用したヨットのデザインは、基本的にはビルや飛行機の設計とそれほど変わらないと述べている。3 次元で考えることが要求されるが、そのスキルはキングストン カレッジでの学生時代に養い始めたものだ。バランスと形状、プロポーションは、ジェット機やヨットのカラーリング、ドアのハンドルのデザインのいずれにも、同じようにうまく応用できるのだと彼は話す。「私は文字や数が苦手なのですが、それが功を奏しています」と、ウィンチ氏。「ビジュアル面での才能のおかげで、デザインの空間と造形を理解できるのです」。

氏の豪華なデザイン作品のひとつに、全長 92 m の Equanimity がある。フランス・カンヌを出港して北米を周航する、このスーパーヨットには高級材料であるウェンジや金箔、竹、大理石が使用されている。最新のプレスリリースによると、船上スパとビーチクラブにはサウナ、ハマム (トルコ式風呂)、体験型シャワー、飛び込み可能な水深のプール、多角的なエステを完備し、さらにスポーツジム、ピラティス スタジオ、認可ヘリポートまで。その豪華さには、ただただ驚くだけだ。

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Phoenix2 (デザイン: アンドリュー・ウィンチ氏、製造: Lürssen Shipyards) [提供: Klaus Jordan]

ロジスティクスの巧妙な処理と、国際的なプロジェクト管理も重要だ。北海で海上試運転を行う様子が撮影され、史上最大の水上体積と報じられている Lürssen 製の全長 156 m のスーパーヨット Omar プロジェクトで、Winch Design はインテリアを担当。これは途方もない仕事になった。「あれだけの規模なので、これまででも最も複雑で、やりがいもあるプロジェクトでした」と、ウィンチ氏。「ああしたプロジェクトに対処するには、スタジオを拡張する必要があります。家具を提供するためドイツに 6 名の人員を用意し、関連会社を通じて世界各国から 450 点に上るデスクやテーブル、コーヒーテーブル、アート作品の数々を集めました」。

スイスのデザイン事務所 Timon Sager Design でコンセプチュアルデザイナーを務めるティモン・セイガー氏は、自身の手掛ける最新式ボートは水の特性同様、スペクタクル映画にも大きく触発されたものだと言う。「1970 年代、デザイナーは当時の SF マンガからインスピレーションを受け、その影響が自動車のテールフィンなどの象徴的なデザインへ昇華されました。近年はハニカム構造や LED の発光ラインなど、最新テクノロジーを描写する要素がデザインに影響をもたらしていますが、その注目のきっかけを作ったのもエンタメ業界でした」。

その影響は自身が手掛けた Nimue 490 にも鮮明に表れている。この Numue 490 は、シーザー・ハラダ氏の Protei コンセプト (変形する帆走ロボット) に基づく、全長約 15 m のデイクルーザー。ボートの形状は、エレクトリック バイオリンやバットマンが出てきそうなステルス機を彷彿とさせるものだ。透明なフロントガラスが後部に伸び、最大 8 名まで乗船可能なこのボートに高級感を与えている。

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Nimue 490 コンセプト ボート [提供: Timon Sager]

だが、セイガー氏のような未来派デザイナーにとっても、水などの実際の航海で注意すべき事項は無視できない。涙型の形状で「ゼロ抵抗」のボート Bairim は効率を念頭に置いてデザインされ、船体は最小限の抵抗で潮の流れを通過できるよう考案されている。「水の抵抗や波、その他の海上における危険が大きな問題です」と、セイガー氏。「海上では、インテリア全体が絶え間なく移動する状態になります。窓や視界を考えるときには、これが重要です」。セイガー氏が、Autodesk SketchbookAlias で描画した使用したデザインを、Oculus Rift を使って仮想空間で検証している理由もここにある。製造予定や購入方法に関して多くの問い合わせを受けているものの、これらのボートはまだコンセプト モデルに留まっている。

イギリスのロンドンとミルトン・キーンズに置かれた Pauley Interactive Software Specialists のオフィスでソフトウェア、テクノロジーのエキスパートによるクリエイティブ チームを率いて、数々の作品を発表しているフィル・ポーリー氏も、スーパーヨットに取り組むコンセプチュアリストだ。インダストリアル デザイナー兼建築家で、テクノロジーコンセプト デザイナーのポーリー氏は「巨大なパーティ デッキを持つボートを中心に、スーパーヨットのデザインについて考え始めました」と話す。「ヨットは究極のステータス シンボルですが、そのオーナーが船上へ一度に招くことができるのは少人数に限られるからです」。

そうして生まれたのが、Yacht Cruiser、Sub Cruiser、Fly Cruiser、Power Cruiser の 4 隻のコンバーチブル ボートからなる Cruiser コンセプト シリーズだ。これらのボートに乗船した人々は、パーティを催したり、空を飛んだり、お忍びで出かけたりできる。

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Cruiser シリーズ コンセプト ボート [提供: Phil Pauley]

だが、2014 年に世界初の自律式水中居住空間を概念化し、Green Good Design アワードを受賞したポーリー氏にとって、スーパーヨットのデザインは短期的なエクササイズであり、他の建築プロジェクトほど夢中にはならなかった。「ヨットのデザインはかなり限定されたフレームワーク内で行うものだと感じていて、私がこの分野で仕事を行っていない理由も、そこにあるのかもしれません」と、ポーリー氏。

Winch Design は、2009 年の世界スーパーヨット アワードで Al Mirqab により最優秀インテリア デザイン賞を、また 2014 年の世界スーパーヨット アワードでは Madame Gu でショーボート デザイン賞を受賞している。こうした大きな成功はクライアントの声に耳を傾け、その意見をエモーショナルに心に響くディテールへと変換させたことによるところが大きい。

「ターゲットを理解せずに、そのターゲットに命中させることはできません」と、ウィンチ氏。「富裕層のクライアントは、常に時間に追われています。彼らは素早く決断を行い、意志決定によって突き動かされています。明確な質問が、より効率的で効果的なプロジェクトにつながるのです」。

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