現在、世界人口の半分以上が都市部に居住している。今後数十年の間、この数は増加すると予測されている。

環境保護の観点から言えば、既に地球のエネルギー消費と温室効果ガス排出の原因の大半を都市部が占めている。意義のある気候変動対策を行い、炭素収支を維持するためにも、都市規模での対策が極めて重要だ。

モノのインターネット (IoT) を先見する人々は、洗練されたセンシング技術および制御技術を使用して「スマート」な送電網がスマートな建設物と双方向にコミュニケートする未来を想像している。そうした機構があれば、ネットゼロ エネルギー ビル (年間消費と同じだけのエネルギーを再生可能資源から生産する、極めて効率性に優れた構造) が標準となり得ることは容易に考えられる。

しかし、実現にはまだかなり遠いのが実情だ。現在のところ、ネットゼロ ビルの建築は簡単ではなく、予算がタイトな場合は特に困難だ。アブダビのマスダール シティなどの都市が、崇高なネットゼロ構想を経済的および技術的制約からトーンダウンしているのも納得がいく。オイルマネーでゼロから構築された都市がネットゼロを実現できないのに、果たして既存のコミュニティや都市でネットゼロを実現できるのだろうか? 可能であるとすれば、今日のネットゼロ熱からエネルギー ニュートラルな都市の未来を導く教訓は得られるのだろうか?

ネットゼロに向かう現在のトレンド
米国連邦政府政策から州規制任意認証団体グローバルな活動への呼びかけに至るまで、ネットゼロ エネルギーは建設物をターゲットに気候変動との戦いに大きな変化を生み出すためのスローガンとなっている。建設物は、世界の温室ガス排出の約 3 分の 1 を占める「ホット スポット」なのだ

国際再生可能エネルギー研究所の研究支援機関
国際再生可能エネルギー研究所の研究支援機関の正面玄関 [提供: NREL]
技術の進歩も役立っている。より効率的な暖房、冷蔵、照明装置を改良された外構、よりパワフルなソーラー パネルと併用することにより、低エネルギーあるいはゼロ エネルギー ビルの提供は 10 年前よりも簡単になっている。また設計者たちは、ゼロ エネルギー達成に未来の技術は必要ないことを立証している。既製のシステムで問題なく機能するのだ。

898 平方 km にわたる国立再生可能エネルギー研究所 (NREL) の研究支援機関について考えてみよう。幾つか手が込んだ仕組み (蓄熱迷路なんて聞いたことがあるだろうか?) が組み込まれているものの、職場に日光をもたらすよう配慮された立地、配置、ファサードが省エネの難点を解決している。ここに高度な科学技術は使用されていない。

異なっているのは、従来の建築方法に比べて、より先鋭的なコラボレーションへのアプローチだ。かつて建築家は現場を監督する「棟梁」としてもてはやされ、時代を超越した多数の建設物を生み出した知性に、私たちは今でも尊敬の念を持っている。しかし非常に進んだ今日のグリーンビルディング (緑の建築) のデザインの世界において、ネットゼロ ビルを提供するための複雑な専門知識すべてをたった一人で把握することは、建築家を含めた誰にとっても不可能だ。

NREL プロジェクトでは、建築家はエンジニア、建設業者、各種コンサルタントによるエキスパートのネットワークから情報を総合して取り込む「コラボレーション マスター」に変わった。こうして集められたデータをもとに、設計プロセスを通じてトレードオフを継続的に評価することで、機能や実践面において性能上の目標を提供することができる。建設業界ではこれを「統合設計」と呼び、既定の固まった物の見方や習慣を考慮すると、実現困難なことだと認識されている。

仮想モデルは、ネットゼロ実現成功の鍵となっている。2D ドローイングに代わって 3D モデルが、チームの設計と建築の真実を語る唯一の資料としてますます活躍するようになっている。3D での設計、連係、オプション、検討の利点は多種多様だ。

デビッド&ルシル パッカード財団本部_Jeremy Bitterman 提供
デビッド&ルシル パッカード財団本部 [提供: Jeremy Bitterman]
性能のシミュレーションは、ネットゼロ ビルへの正しい取り組みに極めて重要なものとなっている。内在的な問題と予測される人間行動を考慮し、最終的に空間がどのように利用されるのかが光熱費に大きな影響を与えることになる。デビッド&ルシル パッカード財団本部のエンジニアたちは、通常よりも時間をかけて、所有者の使用過程を詳細に理解するよう努めた。この努力は功を奏し、本部は認証を受けたネットゼロ エネルギー ビルとして最大の建設物となっている。

建設物の枠を超えて: ネットゼロの拡大
それぞれのネットゼロ ビルは、単体としても評価すべき設計、工学、建設、運営で立派な成果を上げている。しかし、気候変動に対処する変化をもたらすには迅速な規模拡大が必要だ。こういった建築のトレンドは都市においてどのような意味を持つのだろうか? より大規模に考えることにより、建設物の集まりや共有インフラ間でリソースを活用してネットゼロの費用効率を上げることができるのだろうか?

2014 年のレポート」で、New Buildings Instituteはネットゼロ エネルギーに手を伸ばすプロジェクトの拡大を指摘しており、 プロジェクト面積の大部分を教育部門が占めている。多くは単体のビルだが、一部にはキャンパス、地区、さらにはコミュニティ全体へと広がるものもあり、1 棟のビルでは不可能な規模の効率性を実現している。

カリフォルニア大学デービス校ネットゼロ ウェスト ヴィレッジ
ヴィレッジ スクエアはカリフォルニア大学デービス校のコミュニティ ライフの中心となっている [提供: Karin Higgins/UC Davis]
米国最大のネットゼロ コミュニティは、カリフォルニア大学デービス校の多目的キャンパス区域であるウェスト ヴィレッジだ。完成すれば、3,500 名の学生、スタッフ、家庭に住居を提供することになる。第一次入居者は既に 1 年以上居住しており、ネットゼロの目標達成まであともう一歩というところだ。技術的問題や、居住者の電化製品による予想を超えた電力需要により、エネルギー ニュートラルを名乗ることができない状態だ。

強力な環境ステートメントを発しているのはカリフォルニア大学デービス校だけではない。673の署名を集めた米国大学学長機構公約 (American College & University Presidents’ Climate Commitment:ACUPCC)は、教育部門のカーボン ニュートラル目標への積極的な取り組みを強調している。大学はある意味都市の縮図であり、地方自治体規模でカーボン ニュートラルが実行可能であることを示す理想的な実験の場となっている。ネットゼロ ビルの原則は、この戦略全体の大部分を占めている。

アリゾナ大学は、Ameresco (全米最大の独立系 ESCO ソリューションのプロバイダー) および Rocky Mountain Institute と提携し、2025 年までにキャンパス全域において徹底したカーボン ニュートラル化を実行する予定だ。効率に優れた建設物、低い炭素移動量、再生可能エネルギーの増大にホリスティック (全体的) なアプローチを用いてエネルギー需要を低減することを計画している。

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[提供: New Buildings Institute]
ネットゼロの模索は、大学キャンパスの外にも広がっている。FortZED は、コロラド州立大学キャンパスとフォート コリンズ中心部の一部を含むゼロ エネルギー区域だ。さまざまな種類の建築様式にわたる省エネ対策を組み合わせ、新しい再生可能エネルギー生成の新時代をもたらしている。

FortZED は、公益事業と提携し、風力、太陽光、バイオマスを含む多数の小規模分散型再生可能エネルギー生成システムを送電網で双方向にネットワーク化することによるネットゼロ地区構築の実行可能性を検証する、説得力のある一例となっている。このアイデアは、通常の送電網が一方向の供給用に設計されていることを考慮すると、目を引くものだ。

米国の都市の多くが省エネ プロジェクト 2030 Districts を計画しており、公益事業の関与は避けられないものとなっている。ネットゼロ エネルギー地区の最終的な効果は、そのビジネス モデルにも影響する。各家庭の電力計のメーターがゼロとなる地区では、照明用の送電系統や配電系統の費用は誰が支払うのか?

都市規模での問題を複雑にしているのは、建設物のエネルギー使用だけに焦点をあわせても、それは移動による排出、送水、廃棄物インフラからの影響に取り組む総体的な計画の一部でしかないことだ。 ネットゼロ都市 の実現は、ものごとを統合的に考えることのできる人々(大規模な技術的、経営的、社会的課題への対処に熟練したシステム思考ができる人々)にかかっている。彼らこそ、私たちが遅かれ早かれ「ふるさと」と呼ぶようになるであろう都市へと未来への種をもたらしてくれる救世主なのだ。

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