大林組のトンネル建設プロジェクトが CIM で生産性向上

by Yasuo Matsunaka
- 2018年3月15日
CIM 大林組
施工案件 (トンネル) [提供: 大林組]

近畿自動車道紀勢線の山岳トンネルとして 2015 年に竣工した見草トンネルは、3 次元モデルのフル活用により生産性を向上。このプロジェクトをはじめ、大林組は 2012 年から積極的な施工における CIM 活用を行い、生産性向上の効果を上げてきた。その結果 2017 年度の国際コンテスト「AEC Excellence Award」で日本初の入賞を果たし、大きな注目を集めた。

掘削面の状況を事前に予測するトンネルナビ、コンクリートの耐久性向上やひび割れ防止など、見草トンネルには株式会社大林組の新たな施工技術が随所に使われている。だが、同社土木本部 生産技術本部先端技術企画部 課長の杉浦伸哉氏は、「見草トンネル自体には、他のトンネルと違うところは特にありません」と言う。「重要なのは、プロセスなんです」。

現在、土木の世界で ICT 活用をリードする存在である杉浦氏。彼が大林組で土木分野全体の CIM (建設分野における BIM モデルの構築・運用) 対応責任者となったのは、国土交通省が CIM の推進を掲げた 2012 年に遡る。

「土木技術者は必ず平面、断面、立面など図面を読むことができますが、本当の細部までは読み込めていない人の方が多いと思います」と、杉浦氏は言う。「インフラ工事において、大規模な施工現場では、協力会社を含めて 500 人以上が関わる場合もあります。これまで、従来のコミュニケーション ツールだった言葉に加えて 3D モデルなどのデジタル ツールを使うことで、意思疎通が迅速にできるようになると言われてきました。でも、そうしたツールを扱うためのソフトウェアは、使いこなすのが難しかったり、高価だったり、人間の思考回路より遅かったりして、使い物にならなかったんです」。

その状況が変わり始めたのが、この 2012 年前後だった。「ソフトウェアが加速度的に良くなってきて、ハードウェアもそれを扱えるように進歩したので、モデルを使った三次元での説明がとても簡単に実現できるようになったのです」と、杉浦氏。「実際に数カ所の現場で使ってみたら、とても便利だということになりました。これまではステップ図で説明していたものを、3D モデルを 360 度回して見せることができたら、着実に理解も深まります。打ち合わせでも使うと便利でずっと使い続けたい、という話にもなりました」。

3D モデルというと建築物や構造物の形状を立体的に視覚化したイメージが思い浮かぶが、杉浦氏が「共有する、活用する」というポイントから注目したのは、BIM/CIM モデルのオブジェクトが形状情報以外に持つことのできる「属性情報」だった。「土木構造物は、常に計測しながら作っています。たわみやゆがみ、変位といった計測データを、3D モデルの属性として現場で入力できて、それを色や矢印で表現して見える化しようと考えました」。

その当時、大林組では BIM ソフトウェアの Revit、土木設計用の 3D CAD ソフトウェアには AutoCAD Civil 3D を使い、その情報に時間軸を追加してステップで見せるにはプロジェクト レビュー ソフトウェアの Navisworks を使って、属性として時間や色を入力していた。「例えばコンクリートの打設に関して、それをいつ行なったのか、どこから生コンを入れたのかなど、現場で管理したい項目もあります。そこで Navisworks のアドオンソフトである伊藤忠テクノソリューションズ (CTC) の 3D 属性管理ソフトウェア Navis+ を追加することで、そうした属性情報をエクセルから付加して、形状と属性をまとめて扱えるようになりました」。

大林組 CIM
Navis+ により CIM モデルへさまざまな属性情報を追加可能

見草トンネルの現場では、建設管理に初めて 3D モデルと属性情報をフル活用。トンネル掘削における変位情報や地下水位情報、地形情報、地質情報のさまざまなデータが現場で逐次入力され、また、3 次元モデル情報共有クラウドサービスの CIM-LINK により、現場と本社の間でデータと属性情報を簡単に共有することができた。「土木・インフラの世界では、地形や地質を扱うことになります。トンネルの場合は、掘削している土や岩が次はどうなるかを予測して施工する必要があるため、計画と施工時の現況、そしてこの先の予測を、計測した情報や周辺から出てくる地下水の情報、画像などを包含して判断することが大切です。トンネルは、構造物以上に判断する材料となる情報が多いのです」。

こうした取り組みにより、施工管理の効率は実に 35% も向上したという。「この見草トンネルの現場で一番若かった主任が、いまは管理職レベルになり、その経験を踏まえて、別のトンネル現場でも CIM を使うことの効果を数値で示せるようになっています」と、杉浦氏。「自分で経験してきたデータを出してもらうと、本当にどれだけ時間が削減できているかがわかる。4 割以上も削減できた時間は、翌日の段取りや事務処理の時間に当てられます。こういうツールができて楽になるということがわかれば、みんなやるようになります。これこそが、いま日本の建設業で求められている働き方改革なのです」と。

杉浦氏は CIM の現場導入を積極的にサポートする一方で、「現場には、必ず CIM を活用するように言っているわけではありません」と言う。「メリットは説明しますが、その現場でメリットがあると思ったら採用して効果を上げましょう、というスタンスです。ルールでなく成功体験によって広まっているのです」。

情報交換のため、先進的な取り組みを行う海外の同業他社とも積極的に交流が行われている。「CIM (Construction Information Modeling/Management) という言葉は日本独自のもので、海外は建築も土木・インフラも BIM と呼ぶので、海外の人たちと話すときには CIM を BIM for Infrastructure と言い換える必要がありますが、これほど便利なものを、なぜ皆が使わないのか、と思っているところは彼らも同じですね」と、杉浦氏。「海外の方が、実際に使っている数は多いと思いますが、日本が技術的に遅れているということはないと思っています」

その一方で、産官学で連携して日本から CIM をアジア圏を中心とした海外に広めていこうという流れもあり、最近は中国や韓国、シンガポール、タイなどの東南アジアでは CIM という言葉が通じるようになってきたという。「いま、ラオスでやっているダム建設でも CIM を使っています。うまく説明をするツール、現場をちょっと楽にできるツールが欲しいという思いは万国共通で、海外でもメリットがあるし、便利だと思ったら、皆が使うんですよ」。

大林組 CIM 杉浦伸哉
株式会社大林組土木本部 生産技術本部先端技術企画部 課長の杉浦伸哉氏

見草トンネルで採用されたプロセスは、大林組が施工を行う他の現場でも活用されながら、さらに進化を続けているという。「共有する、活用するという基本は変わらないのですが、どんどん新しい技術が出てきているので、それをプロセスの中にどう落とし込むかを、常日頃考えています」と、杉浦氏。「プロセスは同じでも、使えるツールはどんどん新しくなっています。ツールが新しくなれば、表現できるまでのサイクルも短くなり、より多くの時間を削減できるようになります」。

「CIM はツールが使えればできるものではなく、ノウハウ = 使い方が重要です。やみくもに使ってもかえって面倒臭いし、手間やお金がかかるだけです」と、杉浦氏は笑う。「使っていない人ほど、面倒だ、コストがかかると言いますが、使い始めている人は何も言いません。それは、便利だから。最初は面倒だと思っても、その先に光が見えたから進んだのです」。

関連記事

Success!

ご登録ありがとうございました

「創造の未来」のストーリーを紹介中!

日本版ニュースレターの配信登録