ストーリーテリングが海洋保全 、ひいては地球保護の最短ルートである理由

私は 2015 年 10 月、パプアニューギニアからソロモン諸島に向かう TEDのMission Blue II 調査航海でナショナル・ジオグラフィックの号に乗り込んだ。これは海洋保全とその機会について意見を交わし、海における最大の問題を解決するための科学者や活動家、政策立案者、イノベーター、探検家によるコラボレーションだ。

海洋の未来とその影響、特に建築とインフラ産業のデザイナーやエンジニアに与える影響について、オートデスクの考察を形成する上で素晴らしい体験となった。

海の衛生のことは忘れがちだ。特に、膨大な海原との直接的な関係が見えない業務に従事している、多忙なプロフェッショナルにとっては。だが地球上における人類の存在は、海の衛生と切っても切れない関係にある。健全な海がなければ、人間が息をすることはできない。地球の酸素の半分は、プランクトンに由来するものだからだ。

TED Mission Blue II expedition ocean conservation
TED Mission Blue II の調査航海でパプアニューギニア・リセナンに停泊中のナショナル・ジオグラフィックの船 M/V Orion 号。DJI 製ドローン Inspire で撮影

このように海は重要なのだが、問題を抱えている。この 100 年で海面は約 18 cm も上昇した。二酸化炭素濃度も、過去 65 万年で最高となっている。CO2 の増加は海の酸性化を招き、プランクトンの外骨格を壊す。これが問題なのは、プランクトンは食物連鎖の一部であり、人間の呼吸に必要な酸素を産生しているからだ。魚類の最大種の 90% は失われてしまったが、採掘や漁獲、投棄から保護されている海は全体のわずか 4% に過ぎない。

著名な海洋学者であるシルヴィア・アール博士は、2009 年にTED Prizeの受賞スピーチでこう話した。「地球上にある水の 97% は海です。海がなければ、地球の生命維持装置は機能しません。海がなければ生命は存在できない。青がなければ緑は存在し得ないのです」。

問題の解決
オートデスクのチームは過去 2 年に渡って、海とその動態がデザイナーやエンジニア、今後使用するツールにどのような影響を与えるかを調査してきた。幸運にもチームは、世界をリードする数々の海洋学者や海洋生物学者、自然保護活動家と連携する機会を得た。

この活動から、私たちは次のことを学んだ。海は非常に複雑なシステムであり、かなりひどい状態にある。一部の地域では危機的状況だ。早急に取り組めば、今ならまだ好ましい変化を生むこともできる。その速度を制限する唯一のステップが、認識と関与だ。

この結論は、数カ月に渡った科学研究から得られるであろうと予想していた結果とは異なるものだった。だが海が直面しているあらゆる問題の解決には社会的、文化的、経済的、政治的に影響を与える、膨大で多角的な努力が要求される。また、その目的と緊急性が広く一般に周知されていなければ、これら各方面で同時に進展を得ることは難しい。

最初の任務は政策立案者や科学者、デザイナー、エンジニア、学生、さらには幼い子供たちが、地球の持続可能性を確保するための解決策に取り組むよう、海への関心とその問題への関与を高めることだろう。だが、人々の行動を変えるような、説得力があり感情に訴える体験で大衆にアプローチするにはどうしたらよいだろうか?

Jacques Cousteau, Steve Zissou, Bernard Moitessier, and Sylvia Earle
ジャック・クストー、スティーヴ・ズィスー、ベルナール・モワテシエ、シルヴィア・アール各氏

海には、もっと多くのストーリーの語り手が必要だ。

あらゆる世代の人々が、ジャック・クストー氏、スティーヴ・ズィスー氏、ベルナール・モワテシエ氏、シルヴィア・アール氏ら語り手たちに触発されてきた。残念ながら、このうち 2 名は他界しているし、1 名は実在しない人物だ。アール博士は目覚ましい活躍をしているが、仲間がいれば助かるに違いない。現在の海は、この 4 名のように海の物語を語る人間を大勢必要としている。

物語を語ること
大きな課題ではあるが、より突っ込んだ新しい方法で人々の関心を引くのに役立つテクノロジーに私は胸を躍らせている。

リアリティ キャプチャと写真測量法は、元来は水上の工事現場や製品、その他をキャプチャするようデザインされたテクノロジーだが、今ではサンゴの高解像度 3D モデルのキャプチャに使用されている。Autodesk Foundation (オートデスク基金) の助成対象である The Hydrous はそれを実行し、絶滅の危機にあるサンゴ礁の保護にプラスの影響を与えているスタートアップの好例だ。

3D モデルのキャプチャは、水中カメラと Memento などの製品を使用した比較的シンプルなプロセスだ。3D Memento ファイルは、2D 写真に比べて人を引きつける魅力を持つだけでなく、3D プリンターを使用することでサンゴの物理的なレプリカを、世界のどこででも作成できる。

海に行ったことのない子供たちが、実際のサンゴの 3D プリントを手にした際に得られる感銘のパワーを想像してみてほしい。この体験が子供たちの海への愛着に火を付け、変革のために活動する海洋科学者や政府の指導者になるという意欲につながるかもしれないのだ。

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ニューヨークのクリントン・グローバル・イニシアチブで 2015 年 9 月に開催された「Sustainable Oceans」パネルで、シルヴィア・アール氏 (写真はモーリス・コンティとのダイビング風景)は、海洋保全に関する最大の問題は無関心だと語った。[提供: Tom Gruber]

サンゴの計算可能な 3D データを作成する利点はもうひとつある。かつて科学者は巻き尺を使用してサンゴを調査していた。冗談のようだが、サンゴをひとつずつ手で計測していたのだ。今ではソフトウェアとカメラ、インターネット接続により、データを収集して世界各地の人々に対して公開する語り手の数を、その数千倍に増やすことも可能だ。

だが、もうひとつの課題がある。それは人々の無関心だ。これは善悪の問題ではなく、このことについて考えることがないことが原因だ。意識したり関心を抱いたりすることがないのは、共感しにくいからだ。多くの人にとって、海は何の変哲もない巨大な平面でしかない。

幸運なことに、人は他の人には共感しやすい。人類の豊かな航海の歴史を通じて人々の関心を引くことはできる。ウッズホール海洋研究所のブレンダン・フォーリー博士は、最も重要な水中遺跡発掘現場と言えるアンティキティラの沈没船の研究を主導している。これは 2,000 年前に沈んだ船で、有名なアンティキティラ島の機械 (アルキメデスが設計したと考えられている古代のコンピューター) を含むギリシャの秘宝が積まれていた。

フォーリー博士とそのチームは、発見された遺物の記録にリアリティ キャプチャを使用して科学者や学生、一般に 3D データを公開するだけでなく、3D キャプチャ後すぐ崩壊してしまった遺物のデジタル保存も行っている。オリジナルの遺物が無くなっても、Memento ファイルを 3D プリントすることで忠実度の高いレプリカを作成可能だ。

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モーリス・コンティ (左) とキリバスのアノテ・トン大統領 [提供: Jonathan Knowles]

海面上昇と気候変動も語られるべきテーマだ。こうした概念を把握するのは難しく、政治的論争や誤解も付き物だ。ぼんやりとしか認識できない、今後起こるかもしれない問題を防ぐために行動を変えるというのは難しいものだ。

私は以前より海面上昇について考えてきたが、Mission Blue II での調査航海中に、この問題に対する私の認識を変える出来事があった。キリバス大統領であるアノテ・トン氏と朝食を共にしたとき、私は彼にこう尋ねた。「今後の海面上昇を抑制する戦略として、どのような方策をお考えですか?」。彼はいぶかしげに私を見つめ、頭を横に振ってこう言った。「それはどういう意味でしょう? 数々の村が既に移動済みです。居住区域だった島の一部は、すでに水面下なのです。30 馬力の船外機付きボートで、フルスピードでその上を航行できるほどの水深になっています」。

この時初めて、私にとって海面上昇が現実の問題となった。これは遠い未来に起こる、備えておくべき危機の話ではない。この問題に対する私の理解を根本的に変えたのは、この会話、このストーリーを体験したことだった。

もっと多くの人々が、こうした「アハ体験」を持つべきだ。土木技師から 5 歳児まで、あらゆる人間が変化をもたらすことができるのだから。最初のステップは、まず会話に加わることだ。それが海面上昇、難破船、サンゴ、海洋ほ乳類など何であれ、友達や家族を海の物語に結び付け、彼らの情熱と好奇心をそそる必要がある。より多くの人々が関心を持つようになれば、次世代に伝えるべきストーリーも、より良いものになるだろう。

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