旧来の手描きが持つ建築の芸術性をデジタル時代に維持するには

by Taz Khatri
- 2016年10月13日
旧来の建築 ヘッダー

デザイナーが新たなテクノロジーを簡単に利用できる現在、建築における手描きのスケッチは、ダイヤル式電話やタイプライター、旅行代理店と同じ道を辿ろうとしているのだろうか? 伝統的な美術教育を受けていないデジタルネイティブのデザイナーに取って代わられた、テクノロジーに精通せず手描きをメインにしてきた者たちにとって、これは建築業界に関する重要な問題だ。

米国の建築家、故マイケル・グレイヴス氏は 2012 年のニューヨークタイムズ紙の社説で、手書きスケッチの重要性を強調している。「テクノロジーがどれほど優れたものになっても、建築とドローイングを切り離すことはできない」と、氏は綴った。「ドローイングは、単なる最終成果ではない。建築デザインの思考過程の一部なのだ」。

こう感じているベテラン建築家は、彼だけではない。オレゴン州ポートランドの Communitecture Architecture, Planning and Design の設立者兼代表であるマーク・レイクマン氏は、デザイン スタッフと技術スタッフの業務にはドローイング テクノロジーを導入しているものの、自身の仕事ではもっぱら手描きを使用している。彼にとって、手描きスケッチの技量は、伝統的な建築スキル以上のものを意味する。それは「頭の中で何が起こっているか」を示すものなのだ。「アイデアを手描きできることで、空間認知とデザインに関する特別な能力が与えられます」と、レイクマン氏。「デザインとドローイングには、より直接的な関係があります。鉛筆は身体の延長のようなものですからね」。

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マーク・レイクマン氏による、オレゴン州シャーウッドの共同農場直売所プロジェクト Our Table の手描きスケッチ [提供: Communitecture]

さらに「ペンと紙との関係が持つシンプルさとダイレクトさ」が消失することで、建築家がアイデアを頭の中で展開させ、視覚化する能力を失うのではないか、と氏は懸念する。「手描きのスケッチを他のテクノロジーに置き換えると、建築家の可能性を拡大するのでなく、制限してしまいます」。

新しいテクノロジーはパワフルかもしれないが、鉛筆やペンの買い溜めを止めるつもりはないと、レイクマン氏は述べる。「デジタル ツールは、バッテリーが切れたらデザインを止めなければいけないのが嫌なのです。私のペンは、私の魔法の一部です。その電源を切ることはできません」。

「テクノロジーがますます発展して…」と、氏は続ける。「こうした進歩のペースが続くと、クリエイティブな仕事を行う喜びも諦めなければならないのでしょうか? 私は、こうした関係に基づいた、一体感とダイレクトさを弱めるようなこと全てに疑問を感じる権利を重視しています。テクノロジーにより全てがワンクリックで行えるほど簡単になったら、熟慮と内省の文化も手放すことになるのでしょうか?」

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オレゴン州シャーウッドの共同農場直売所プロジェクト Our Table の 2D CAD 図面 [提供: Communitecture]

伝統的手法とデジタルのハイブリッド
テクノロジーに極めて詳しい建築家の中にも、手描きスケッチが恐竜同様の絶滅の道を辿るのは見たくないという人たちがいる。ヒューストンの Mohle Design Inc. で建築デザイナーを務めるジェフリー・ティアーズ氏は、社内の 2D から 3D デザインへの移行の責任者を務めている。だがデジタルの手段を、手描きスケッチを排除するために使っているわけではない。彼にとっての良好なデザイン プロセスには、伝統的なドローイングの手法とデジタル ツールの両方が含まれている。「私が行うプロジェクトでは、まずはできるだけ多くのアイデアと反復が迅速に得られるようスケッチを作成します」と、ティアーズ氏。「クライアントとチームからアイデアを引き出すには、この方が簡単だからです」。

ティアーズ氏はまた、デザイン開発や設計図段階の前の製図/デザインの段階で BIM と Autodesk Revit を使用することにも利点を見出している。「Revit と Dynamo のマス ツールを、全体的な基本概念と、プロジェクトの初期段階での計画を理解するために使用しています」と、ティアーズ氏。

彼は BIM プロセスによって初期段階の手描きのアイデアへ、有益な精度と分析を追加できると話す。「手描きスケッチを 3D モデルに変換し、一般的な形状からスタートして、洗練して分析します。これによりデザイナーとクライアントは、そのビルで可能なこと、不可能なことを非常に早い段階で理解できます」。

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住宅向けアートインスタレーション作品の手描きドローイング [提供: Geoffrey Tears]

建築プロセスの初期段階でこれほどの洞察が可能なら、クライアントがより良い決断を行い、コストを節約して、ひいてはプロジェクトをより良いものとするのに役立つ。だが、こうしたデジタル テクノロジーの利点にもかかわらず、それが従来の建築芸術に取って代わるべきではないとティアーズ氏は考えている。「手描きスケッチが消えてしまうことがないことを願っています」と、ティアーズ氏。「手描きは究極のツールです。直感的で利用しやすく、考えていることを素早く表現できます」。

先進的なベテラン建築家
ブラジルの小規模事務所 Meia Dois Nove のホセ・バッサロ氏など、ベテラン建築家にも、そのスケッチのスキルをデジタル時代へと適応させている人がいる。「建築家として 30 年働いているので、ドローイングを始めたときには鉛筆を使っていました」と、バッサロ氏は Autodesk の In the Fold ブログで語っている。「CAD の導入によってスケッチからクリックへと移行し、より伝統的な方法で実現していた、ある種の喜びを失ってしまった人もいます。FormIt のタッチスクリーン技術は、鉛筆でデザインするという、失われた喜びを取り戻させてくれました」。

Autodesk FormIt はデジタル ツールだが、その手書きスケッチ機能は、手を動かして生み出した「紙」の上のアイデアをダイレクトに変換する能力をデザイナーへ提供する。重要なのは使用される媒体ではなく、こういった実践と物理的なダイレクトさだ。またデジタルスケッチ ツールでは、こうした思考過程が維持されるだけでなく、3D モデリングに素早く変換できる利点もある。

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Autodesk Dynamo 内でモデリングされた住宅向けアートインスタレーション作品 [提供: Geoffrey Tears]

コンピューター支援デザインは過去 30 数年の間に、ブラックスクリーン上の 2D の線から複雑で非常に正確な 3D モデルへと大きく成長した。絶え間なく進化するテクノロジーは、手描きの技術製図や設計図など、かつての建築プロセスのさまざまな側面を置き換えている。だが、デザインの初期段階におけるアイデアを表現する、基本的な手法である手描きスケッチを置き換えるには至っていない。

ティアーズ氏によれば、紙と鉛筆を用いたドローイングとデジタル テクノロジーの関係は、この専門的職業をより高みへともたらすパートナーシップだ。

「手描きスケッチとデジタル デザインは、プロジェクトのどの段階であっても連携するものだと思います」と、ティアーズ氏。「プロセスをコンピューターに移行することで、プロジェクトをより徹底的に、素早く分析して視覚化できるようになりましたが、それでもスケッチやドローイングを完全に止めるには至っていません。デザイン プロセスでは、3D モデルをプリントしてから、トレーシングペーパーを重ねて、そこからペンや鉛筆でさらにアイデアを生み出すことも多いのです。デザインとは、適切なツールを活用してコンセプトを理解させ、仕事をきっちり完了させるということなのです」。

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