アフリカ最長の斜張橋を支えたプロジェクト リスク管理

by Mouncey Ferguson
- 2016年9月7日
モロッコのルグルグ川橋 [提供: Egis JMI]

モロッコがルグルグ川に橋を架けるプロジェクトを行うに際して、企業 6 社による協業で 3 大陸に及ぶコラボレーションを行うという複雑な課題が持ち上がった。アフリカで最も長く、最も高い場所にある斜張橋の建設。そのプロジェクト リスク管理が簡単ではないことは誰の目にも明らかだった。

モロッコの中世の首都フェズから経済と文化の都カサブランカへ車で移動するには、騒々しい政治上の首都ラバトを抜けるしかない。ラバトはクルージングには最適な場所だが、このルートは地域の交易を鈍化させて交通問題を生み出しており、安全面での懸念にもなりかねない。

2010 年、モロッコの国有交通公社 Autoroutes Du Maroc (ADM) が、この問題の改革を決断する。ADM は地域の交通を緩和して商業輸送を促進させるため、フェズとカサブランカをダイレクトに結ぶラバト バイパスの建設に着手。だが、このバイパスを完成させるには、アトラス山脈からラバトとサレの間を南西方向に流れて大西洋に注ぐ、ルグルグ川を越える必要があった。

このバイパスは、ルグルグ川が蛇行するシディ モハメド ベン アブダラ・ダムのすぐ西の部分で川を越える。幅 1 km を超える谷に、通常の吊り橋でなくアフリカ最長の斜張橋を建設するという ADM の選択により、この課題はさらに難しいものとなった。

bouregreg river bridge
モロッコのルグルグ川橋 [提供: Egis JMI]

この橋は、恐らくは世界でも最も複雑で、かつ素晴らしいものになる。ADM は、この壮大なプロジェクトに協調して取り組む 6 社を結集させた。プロジェクトには、南岸から伸びる全長 200 m の連絡橋と、それにつながる全長 742 m の斜張橋の 2 つの橋が含まれる。そびえ立つ 2 本の主塔はイスラムの芸術と建築を彷彿とさせ、斜張橋は両方向とも 3 車線になっている。

3 大陸にわたるグローバルなコラボレーション
デザインはフランスの Setec TPI、STRATES Architects の 2 社が共同で担当した。建設の担当は、モロッコにオフィスを構える中国のChina Overseas Engineering Corporation (COVEC) と Major Bridge Engineering Corporation (MBEC) の 2 社で、2015 年 12 月に竣工。プロジェクトの最終チェックでは、さらに 2 社が連携した。工作図は Egis JMI がフランスとタイのオフィスから提供し、中国を拠点とする Bridge Reconnaissance and Design Institute (BRDI) が詳細な型枠工事と補強の計画を作成した。

このプロジェクトで工作図の作成をリードしたのが、Egis JMI の土木技師、アーノルド・レーダン氏。Egis のチーム メンバーは、これまでにもアフリカやアジア、ヨーロッパ各地で複雑なインフラ プロジェクトに従事してきた。彼らが手がけたフランス ボルドーのジャック・シャバン=デルマス橋は非常に過激な構造で (中央の橋桁がエレベーターのように上下移動する)、ボルドー市はその落成を 3 日間にわたるパーティで祝った。

だが、ルグルグ川のプロジェクトも決して単純なものではなかった。「このプロジェクトでは、世界各地のチーム間での絶え間ない情報のやりとりが不可欠でした」と、レーダン氏。「だからこそ、プロジェクトはより複雑で、やりがいのあるものになりました」。

construction of bouregreg river pylons
主塔の建設風景 [提供: Egis JMI]

橋で連携する 2 社との間では、最終的なデザインの詳細を決定するため 2,174 件 もの文書が作成された。「たとえば鉄骨の確定までに 147 件の文書が必要でした」と、レーダン氏。「鉄筋の検討時に作成された文書は 1,314 件 です。これほどの規模のコラボレーションには、世界中のあらゆる関係者が常に最新のモデルと図面へどこからでも瞬時にアクセスできる、堅固なデータ管理プラットフォームが不可欠になります」。

チームは Autodesk Vault を使用して、単一レポジトリによる文書の保存と共有を行った。それでも「ファイルのバージョン管理は大変でした」と、レーダン氏。この課題は、自社製のファイル管理システムで克服された。また橋のモデリングにおける「柔軟性」と、Microsoft Excel へのリンクにより、より簡単なコラボレーションと共有を可能にする点を評価して Inventor も使用。フィールドのデジタルモデルと地表の三角測量には AutoCADAutoCAD Civil 3DInventor が利用された。

新しいアプローチ: 3D モデリング
ところで工作図とは、具体的にはどういうものだろう? 「工作図は、構造部材や構造要素の詳細を明確にするものです」と、レーダン氏。その目的は、計画の基本的な寸法管理以外の、あらゆる寸法を慎重に検証し、その正確さと実行可能性に責任を持つことにある。

「独自の言語と手法による専門的なプロセスであり、プロジェクトの成功に重要な影響を与えます」と、レーダン氏。

head of pylon bouregreg river bridge
尖塔の建設 [提供: Egis JMI]

専門知識同様、コミュニケーションも重要だ。「この過程で、必ずと言っていいほど契約書類に関する質問が発生します」と、レーダン。「それをタイミングよく解決するのが担当者の責任であり、それにはオーナーとの良好なコミュニケーションが不可欠です」。

ルグルグ川のプロジェクトでは、Egis は一般的な 2D の工作図でなく 3D モデルを使用した。「建設業界では、一般的に 2D の図面が使われています」と、レーダン。「それが最終的に建設へ使われますが、今回は 2D の図面では不十分でした」。

たとえば高くそびえる主塔は、極めて建設が難しいものだった。「あらゆる細部のジオメトリを正確にやりとりして、そこに全てのケーブルも含める必要がありました」と、レーダン氏。

その過程で、Egis は 2D の設計図では分からなかった「干渉」を、3D モデルで発見できた。レーダン氏は、これは設計上の問題ではなかったと指摘する。「2D 図面では、設計は機能しているように見えました。3D で確認して、初めて問題が見つかったのです。3D によって、最終的な状態で設計の意図を確認できるようになりました」。

head of pylons cables bouregreg river bridge
尖塔のケーブル [提供: Egis JMI]

主塔の問題の詳細は複雑だが、レーダン氏は「主塔の独特な形状により、尖塔から伸びるケーブルの向きに問題が生じた」と言う。重要なのは Egis が問題を特定し、それを解決するため新たなデザインを提案できたことだ。「新しいデザインに採用された金属製のボックスは、ガイドチューブ機構が最適な調整を行い、尖塔がケーブルの張力に耐えられるようになっています」。

Egis は、橋桁部分の設計の問題も発見した。「モデルを操作することで、この成形済みケーブルの直径だと、補強された状態で干渉を生じる可能性があることを突き止めました。これは、2D デザインでは分からなかったことです。最小限の許容差に基づくケーブル間の干渉検出を実行し、結果として干渉ゼロだと確認できました」。

工作図に 3D モデルを用いる Egis の新しいアプローチにより、図面は改訂無しに承認が得られ、提出も一度のみだった。こういった 3D モデルやグローバルな協調的なプラットフォームがなければ、このプロジェクトの建設にはかなりの改訂や遅延、金銭的損失が生じていただろう。

橋の 3D モデリングと工作図。これは美しい友情の始まりになるのかもしれない。

アフリカ最長の斜張橋に関する 3D モデリングと大陸間コラボレーションの詳細は、Autodesk University 2015 で行われた Egis のプレゼンテーション (英語のみ) をご覧ください。

関連記事

Success!

ご登録ありがとうございました

「創造の未来」のストーリーを紹介中!

日本版ニュースレターの配信登録