Rhizomatiks Research がオリジナルのデバイスで開く新たな地平

by Yasuo Matsunaka
- 2018年7月30日
Rhizomatiks ドローン
Redshift Live に登壇された Rhizomatiks Research の面々。左から望月俊孝 (ハードウェア デザイナー、エンジニア)、田井秀昭 (サーキット デザイナー、プログラマー)、原田克彦 (ハードウェア デザイナー、エンジニア)、柳澤知明 (インタラクションデザイナー、ハードウェアエンジニア)、石井達哉 (CGデザイナー、ソフトウェアエンジニア)、西本桃子 (ハードウェアデザイナー、エンジニア) の各氏。[Rhizomatiks Research オフィスにて]

今年 2 月、イタリア ミラノで行われた「2018-19秋冬コレクション」ではドルチェ&ガッバーナの新作バッグ、時空を超えた永遠の愛を意味する“ディヴォーション”が Rhizomatiks Research 開発のドローンによって空中でお披露目された。ほぼ全てが Fusion 360 でデザインされたこのドローンをはじめとしたオリジナル デバイスへの取り組みでRhizomatiks Research が目指すものとは。

最新のテクノロジーを使ったメディア アートからデザイン、広告まで、地下茎 (= Rhizome) のごとく領域を超えた意欲的な活動で注目を集め続ける Rhizomatiks (ライゾマティクス)。その共同設立者である真鍋大度氏が代表を務める Rhizomatiks Research は、技術と表現の新たな可能性を探求する部門であり、ドローンや VR/AR などのテクノロジーを駆使した、斬新かつ個性的な表現で知られている。

このドルチェ&ガッバーナのファッション ショーを彩った Rhizomatiks Research のドローンは、Perfume のステージや ELEVENPLAY とのコラボレーションによる「24 drones」など、様々な作品でも重要な役割を果たしてきたもの。2015 年に発表されたノサッジ・シング「Cold Stares」の PV で使われた機体をもとにマイナーチェンジが繰り返され、5 パターンほどの形が存在しており、現在は 3D プリンターで出力する部分を含め、ほぼ全てが Fusion 360 でデザインされている。

Rhizomatiks Research のハードウェア デザイナー、エンジニアの西本桃子氏によると、このドローンは搭載するものをスポットライトやカメラなどに変えながら、さまざまなプロジェクトに使われてきた。「ドルチェ&ガッバーナのときは、鞄を吊るということで、それが取り付けられる部分を改造しました」。

6 月に行われた Redshift Live イベントのプレゼンテーションでは、このプロジェクトでは現場に話が来てから一週間後にはミラノでフライトさせるという驚異的な短期間であったことを明かし、オーディエンスを驚かせた。

「まずは、これまでの経験の積み重ねから、どの部分をクリアできれば行けそうかということを判断しました」と、西本氏。「この場合は発射できれば大丈夫という判断で、その日のうちに即席で発射台を作ってテストしました。当初は服やバッグを吊って飛ばす演出をしたいという依頼でしたが、小さなバッグを載せることになりました」。

ドローンのフライト パスは、同社 CG デザイナー、ソフトウェア エンジニアの石井達哉氏がシミュレーションを行った。石井氏は、Rhizomatiks Research がマルコ・テンペスト氏と 24 機のドローンを使って制作したドローン マジック (2016 年) で、CG ソフトウェアである Autodesk Maya を使うようになってから有機的な動きを実現できるようになったと言う。

「ドローンはプログラムの自律制御ではパターンや幾何学的な動きを得意としますが、今回は狙った演出通りに動かすため、曲に合わせて動きを作りました」と、石井氏。「複数台を決まった形に沿って有機的に動かすには、現場でのスケジュール感も含めて、Maya の方がぴったりハマりました」。

観客のすぐ横でドローンを飛ばすリスクに対し、ドローン本体にもさまざまな安全対策が施されている。「トラブルの主な原因は、無線が途切れる、ハードウェア的に故障する、隊形が崩れてモーションキャプチャーでのトラッキングに問題が起こるという 3 つです」と、西本氏。「問題が生じたときはその場で静止して、スロットルをだんだん下げて緊急着陸するようになっているので、大事故になるようなことはないですね」。

リハーサル中にはドローンがコントロールを失う場面もあったが、現場では舞台装置に合わせたフライト パスの細かな調整を含め、夜を徹して何度もテストが繰り返された。度重なる交換により、大量に持ち込まれた 3D プリンター製のアームやガード、LED で光る球の部分などのパーツのストックを全て使い尽くし、最後のパーツで何とか乗り切ることができたという。当日は電波環境の問題もあったが、ショー本番は滞りなく成功。これだけ多数のプロジェクトを驚くほどのペースで手掛けながら、本番でドローンが墜落したことは過去にも一度もないという。

Rhizomatiks Research のプロジェクトでは、ドローン以外にもさまざまなハードウェアが使用される。リオ五輪の閉会式で披露された 2020 年の東京大会プレゼンテーションなど、最近のプロジェクトで使われることの多い、無線LED で光るデバイスなど、ハードウェアの大半が自社開発によるものだ。

この無線 LED デバイスもドローン同様、さまざまなプロジェクトを経て開発と改良が重ねられている。現在のシステムの原形は 2015 年 7 月、北海道・セキスイスタジアムで行われた「真駒内花火大会」のために Rhizomatiks Research + MIKIKO が作り上げた、テクノロジーを演出に取り入れたマスゲームのパフォーマンス「segments」用のデバイスだ。

120 m に及ぶステージで 128 本のデバイスが使われるパフォーマンスのため、920 MHz 帯の無線を使い、アクリル製パイプの内部に、サーキット デザイナーである田井秀昭氏の設計による基板や電池が収められたオリジナルのフルカラー LED ライトスティックが制作された。「量産品は表面実装になっていますが、仕様検討の段階ではブレッドボード上でプロトタイピングをします」と、田井氏。

「機能が固まって来たら Autodesk EAGLE 上で回路を作って発注します。仕様を満たせているか、より良くするには何が必要かを機構と合わせてチェックし、二次試作をしますが、その段階では自分で部品を半田付けしています」。その後の基板の量産のプロセスでは、細かいスケジュール管理が必要だ。「本番の日程から逆算して、クリエイション、リサーチ、試作と期限を区切り、そこまでにできる限りのことをやるという感じです」。

Rhizomatiks Research では、実際の案件の作業がリサーチにつながることも多いという。「案件で課題を与えられ、知らなかった分野について深く調べていく中で新しい技術を見つけたり、使えそうなものを発掘したりすることも多いですね」と、石井氏。「会社から与えられるテーマを研究しておくと、それが後の案件になることもあります。例えばシーグラフの論文で最新のリサーチの情報を追うなどは、皆やっていると思います」。

「自分でプレゼンテーションして会社から研究費をゲットし、ものを作って提案をする仕組みもあります」と、田井氏。「役に立つかどうか分からないけど試したいことは、そういう形で研究を始めて、案件に結びつけるということもあります」。

西本氏は、会社以外で自主プロジェクトを行うこともあるという。「Rhizomatiks の名前でやるところまでには達していない、興味はあるけど未熟な部分は、やってみて、失敗してもそれを生かせる場を作っています」。

Redshift Live のイベント会場には、Rhizomatiks Research のような職場で働くことに興味を持つ人も多かった。西本氏はその環境を「刺激しかないくらいに刺激が多い」と形容する。「ここには一回逸れている人が多いですね。ハードだと工学だけではなくて、自分がすごく興味があることにのめり込んだことがある人っていうのが強いのかな」。田井氏もそれに同意する。「学問としては数学と英語。でもそれより、のめり込めるものを見つけられるように、いろんなことを実験するといいと思います」。

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