ロボット建設と冒険的建築の安全面に関する、ヴォルフ・プリックス氏の見解

by Zach Mortice
- 2016年10月24日
ロボット建設 The Cloud Museum of Contemporary Art & Planning Exhibition
中国・深セン市の Museum of Contemporary Art & Planning Exhibition 内のThe Cloud [提供: Coop Himmelb(l)au]

建築業会は保守的であり、時には細分化されている。建築家の一部は、施工プロセスの向上と自動化によって、実験的な材料と部品の使用、実験的な方法による組立の両面で戦いが起こると考えている。

その極端にイノベーティブな例が、温度や運動エネルギーに反応して目的の場所へ収まり、組み合わさって建物や材料を形成する、虫に似た自律型ロボットだ。

他の業界では、既に自動化の戦いが始まり、勝利を収めている。何列にも並んだ大量生産用の機械式ロボットアームが、唸りを上げる機器と騒々しい空気圧を伴い、溶接の火花を散らしながら自動車や飛行機、潜水艦を作り出しているるのだ。建築業界で、ロボット建設が一般化しない理由はあるのだろうか?

ロボット建設 MSC ロボット
MSC ロボット [提供: Coop Himmelb(l)au]

建築業界でも最も勇敢かつ創意に富んだ夢想家で、オーストリアの建築事務所 Coop Himmelb(l)au の設立者であるヴォルフ・D・プリックス氏は、自身の常識に基づいて、そうした提案を行っている。氏は中国を拠点とするカーテンウォール技術企業 MSC と提携して、カスタマイズしたロボット ファブリケーターを製作。現時点で利用可能なテクノロジーを活用し、パネル化されたプレファブリケーションによるファサードの設置と取り付けを行う、ロボット アームで構成されたシンプルなシステムを提案している。「違いは、プログラミングだけです」と、プリックス氏。

規格外の空間を自動化の優れた効率で
プリックス氏は 1988 年、ニューヨーク近代美術館 (MoMA) で開催された「Deconstructivist Architecture (脱構築主義者の建築) 」展で、フランク・ゲーリー氏やレム・コールハース氏、ザハ・ハディド氏など同時代の建築家たちとともに世界へ紹介された。それ以来、衝突する形状、ねじれた鋼、異世界的な空間に満ちた、一貫した作品を発表。彼の作品は、トレーシングペーパーやインク、手書きのイラストなど、デジタル以前の時代に生まれた最後の建築学的美意識の一部であり、それがコンピューター デザインの進歩により加速している。現在プリックス氏は、その究極の建築表現もまた、コンピューターによる自動化によって登場することになると考えている。

この製造技術は、勝手気ままで実験的な建築という一部からの批判を優れた効率によって巧みに回避する、プリックス氏の試みだ。これにより規格外の空間が持つ、長年当然のものとされてきた直線的なモデルに対するコストとリソースのハンデをなくそうとしている。

「こうした複雑な形状は建築不可能、あるいは非常に高額で時間がかかる、などと言われることが多いのです」と、プリックス氏。「我々は長年にわたり、コストを下げ、迅速に建設が行える製造技術を開発しようと努力してきました」。

robotic construction MOCAPE interior
中国・深セン市にある Museum of Contemporary Art & Planning Exhibitionの内観 [提供: Coop Himmelb(l)au.]

MOCAPE の The Cloud 製造プラン
Coop Himmelb(l)au は、中国・深セン市の Museum of Contemporary Art and Planning Exhibition (MOCAPE) で、この方法を使った産業用ロボットでの製造を計画していた。プリックス氏が率いるパイロット プロジェクトでは、その中央で回転する大きな塊 (プリックス氏が「The Cloud (雲)」と呼ぶ、溶融金属からなる多層の銀の滴) の内部ファサードをロボットで組み立てる予定だった。(最新の公式発表では、ブランクーシ氏の彫刻作品と火星の第一衛星フォボスを含むとされている)

この塊は建物内の 2 つの空間、つまり現代美術館と、この街の都市開発と建築上の発展 (これは 1980 年当時に人口が 30 万だったの漁村から世界有数の大都市へと成長した深セン市には特に関連の深いトピックだ) に関する陳列を行う展示ホールをつなぐものだ。宙に浮く塊の存在は、斜交する鋼の支持材に囲まることで、空間内に焦点を生み出している。

この建物は 2016 年 12 月に完成予定だったが、クライアントである深セン市文化局および市計画局は、ロボットを用いた The Cloud の製造プランをキャンセルして、カスタム デザインされた金属パネルを従前の方法で取り付けることを選んだ。計画変更の正確な理由は分からないが、自分なりの見解はあるとプリックス氏は話す。「私たちの熱心な提案を、当局は MSC からの金銭授与が理由だと考えてキャンセルしたのだと思います」。

だが、プリックス氏と MSC のロボットには、まだ希望がある。彼は来年夏、同じ技法を使ってウィーンでホテル建設を始める予定だ。

ロボット建設 MSC 研磨ロボット
ビーム溶接部分の研磨を行う MSC ロボット。右下: MSC のロボット [提供: Coop Himmelb(l)au]

ロボットの仕組みはこうだ。まず、機械プレスでパネルを成型する。これを現場に輸送し、機械式クレーンのプラットフォームに乗せた連結型ロボット アームで配置や溶接、研磨、仕上げを行う。これら全ての作業は同じロボットで、異なるアタッチメントを付けて行われる。パネル システムとして構成されるが、コンポーネントは全て既製のものであり、あらゆる重工業系の組立ラインで識別可能。プリックス氏は、通常だと 6 ヵ月かかる作業が 6 週間に短縮でき、必要な作業員も 80 名から 8 名まで削減できると推定している。

プリックス氏はこの建設手法を、偏在する四辺形の圧政から「人々を解放」し、彼自身とデザインに理解のある一般の人々に、より良い体験と喜びを提供する方法であると考えている。だが、それは自動化が自動車業界の労働者を震撼させたのと同様、ひとたび建設業界に到来すれば、施工者たちから生計の途を奪うものになるかもしれない。

ヴォルフ・プリックス氏にとっての「実用性」
建設業界はかなり「緩慢かつ頑固」な分野であり、郊外に続々と建設されているバルーンフレーム構法 (1830年代に開発された技術) の住宅は、その旧態依然とした強情さの証しだ、とプリックス氏は話す。これは保守的で歴史主義的な消費者に支えられた、変化への抵抗であり、こうしたスタンスは業界を壊滅と退化へと追い込むため、他の業界では容認されない。「もし自動車業界が建設業界のように振る舞ってきたら、我々は今も馬車に乗っているでしょうね」。

同時代に活躍する他の建築家の中でも、プリックス氏は純粋な形のパワーを解放することに熱心であり、楽観的であり続けてきた。「建築は、人々を四角くて静的な牢獄に押し込めるのではなく、より素晴らしい方法で反応する可能性を提供します」。

ロボット建設 MOCAPE 外観
中国・深セン市にある Museum of Contemporary Art & Planning Exhibition の外観 [提供: Coop Himmelb(l)au]

「静的」とは、当たり前とされている四辺形を指しており、それをプリックス氏は「愚劣なボックス建築」と呼ぶ。氏にとってロボットによる製造技術は、新しい建設プロジェクトのプレスリリースを発表するたびに持ち上がる「その形状そのものを表現するためにある形状を使用することは可能か?」という問いに対峙する方法なのだ。数本の直線で事が足るところに、弧を描いて動く鋼の片持ち梁を使用する理由は?

プリックス氏は、ロボット自動組立による、より実験的な手法を構想している新世代の建築家やデザイナーが行っていることは、まだ実用的な手段には至っていないと話す。

「小規模な組立は、趣味の領域です」と、プリックス氏。「より大規模な建造物も必要なのです」。小規模プロジェクトは公園の大型テントには向いているかもしれないが、より大きな構造には、伝統的な工法による頑丈な接合が必要となる。

これまでプリックス氏は扇動的な発言を行ってきたが、この発言は、ベテランの域に達し、理論上の反芻よりも実用的応用に興味を持ち、この移行の実現に確実な部分だけを活用したいと願う、ひとりの建築家の言葉として興味深い。

関連記事