Arch_Tec_Lab: 建築のロボット製造のテストベッド

by Zach Mortice
- 2016年12月12日
建築のロボット製造
スイス・チューリッヒにある Arch_Tec_Lab のロボット製造研究所 [提供: Andrea Diglas/ITA/Arch_Tec_Lab]

科学者、企業幹部から映画プロデューサーまでもが 50 年以上に渡り、ロボットこそが未来だと断言してきた。彼らの予言は、特に建築や土木の業界においては正しかったことが明らかになりつつある。だが建設業界でのロボット製造に関しては、スイス・チューリッヒにある Arch_Tec_Lab の研究員たちが最も時代を先取りしているようだ。

ETH (スイス連邦工科大学チューリッヒ校) に新設され、10 月にオープンしたファシリティの機能のひとつに、ロボット製造研究所 (Robotic Fabrication Laboratory/RFL) がある。この研究所は建築に重点を置いているが、巨大な建造庫に収められた最終生成物やプロトタイプは、建築の範疇に収まるインスタレーションや建造物だけではない。

建築のロボット製造 Arch_Tec_Lab の教授向けフロア
Arch_Tec_Lab の教授向けフロアとロボット製造研究所の北西からの眺め [提供: Andrea Diglas/ITA/Arch_Tec_Lab]

それは Arch_Tec_Lab がロボット製造プロセスの作成と、その構築に必要な建設手法とテクノロジーの開発を専門に研究しているためだ。この研究機関は、建築業界における新たなコンセプトの発祥の地となるかもしれない。

同じビル内には、建築テクノロジー研究所 (Institute of Technology in Architecture/ITA) と、ITA の教授や研究員、スイス国内のさまざまな機関や大学に属する専門家が参画する国立研究イニシアチブ、スイス国立専門研究センター (National Centre of Competence in Research/NCCR) デジタル ファブリケーションもオフィスを構えている。

NCCR デジタル ファブリケーションの任務は自動化されたデジタル ファブリケーションに焦点が絞られており、コンピューターや建設組立システム、材料研究の結果を活用し、建築や建設の分野にイノベーションをもたらすことだ。

Arch_Tec_Lab の 1 階にある RFL は、建築学研究の新たな水準となっている。45 x 17 m の広さで、多層構造の構築にも十分な高さ 6 m のこのスペースは、実質的にはロボット組立のテストベッドだ。

NCCR デジタル ファブリケーション専務のラッセル・ラブリッジ氏は「ここは建築・建設分野において、世界最新鋭かつ最大規模のスペースです」と述べている。

robotic fabrication in architecture gantry system with industrial robots
ロボット製造研究所の産業用ロボットと構台システム [提供: Andrea Diglas/ITA/Arch_Tec_Lab]

RFL 内の天井からは 4 基の多関節ロボットアームが吊るされ、2 基の独立した構台に接続されている。これにより、1:1 スケールの実験で内部作業フロアをフル活用できる。頭上で目まぐるしく動き回るロボットは、天井から床まで移動したり、建築要素の配置や取り付けを行ったり、材料を操作したり、出来形プロトタイプを測定したりする。これほどのサイズのロボット システムは、航空宇宙や造船の業界以外には例を見ない。

この空間には運搬トラックが進入可能なほど大きな 4 枚の扉が備え付けられているため、プロジェクトのサイズの制約は、ビルそのもののサイズだけだ。ETH チューリッヒ校の建築、デジタル ファブリケーション学部教授で、NCCR デジタル ファブリケーションのディレクターを務めるマティアス・コーラー氏は「作業エリアに入ると、空店舗のように見えます」と言う。「この研究所で何をするのかは決められていないのです」。

コーラー氏は RFL を「未来の工場」と呼ぶ。20世紀のフォード スタイルによる逐次的な組立ライン構造のイメージとは正反対のこの施設では、無限のカスタム化と自由な製造が約束されている。40 軸のロボット アレイで建設要素や材料、ツールを持ち上げ、空間内のあらゆる場所に配置可能。協調性を持つロボットのコラボレーティブな行動により、製造はフル 3D のプロセスとなる。このプロセスでは、要素は 2D のパスに従って重ねられるのではなく、複雑なマトリクスで組み立てられる。

この研究所の研究イニシアチブには、Gramazio Kohler Research (MITのスカイラー・ティビッツとの連携) による Rock Print ジャミング プロジェクトが含まれることになっている。その他の研究では、型枠を使用せず複雑なコンクリート形状を作成し、それによってコストを削減して、建築廃棄物を排除する方法について調査する研究も行われる予定だ。コーラー氏は、小さな木材をロボットで構造部材へ組み立てる方法も研究中。このプロジェクトは既に Arch_Tec_Lab 内に実際に応用されている。

robotic fabrication in architecture Matthias Kohler and Fabio Gramazio 
デジタルで設計され、ロボットにより製造された Arch_Tec_Lab の屋根の下に立つマティアス・コーラー氏 (左) とファビオ・グラマツィオ氏 [提供: Gramazio Kohler Research]

コーラー氏とパートナーのファビオ・グラマツィオ氏は、この建造物にロボット製造による屋根構造をデザインすることを、RFL の包括的な目標としている。自動化された丸のこで切断された 48,000 個の小さな木材は、カスタムビルドのロボット システムにより、起伏を持つ地形のような屋根に組み立てられている。Arch_Tec_Lab ビルのミニマリスト的、バウハウス的な要素を背景とした、The Sequential Roof と名付けられたグラマツィオ、コーラー両氏による木造トラス構造は、この建物の外観で最も印象的な部分だ。環境に優しい木材による炭素隔離が、イノベーティブな製造技術に組み合わせられている。

デジタル ファブリケーションによる建築の世界には、主に産業ロボットと、3D プリンターの陣営が存在する。NCCR デジタル ファブリケーションは、こうしたテクノロジーが競合するのでなく、補完し合うような道を探ることを目指している。

「どちらにも限界と潜在的な利益があります」と、コーラー氏。「その境界は曖昧になりつつあります」。例えば、デザイナーたちは3D プリンターを構台スタイルのロボットアームに取り付けるようになっている。RFL のサイズと柔軟性を考慮すれば、異種のテクノロジーを新手の奇抜な手法で組み合わせる方法を検討するのに、理想的なスペースといえるだろう。

RFL が最大の価値を提供し得る部分は大型ハードウェアの応用だと考えられるが、チームはこれらのマシンに動作を指示するコントロール ソフトウェアとプログラミングも研究する予定だ。

コーラー氏は、この種の研究の方向性のひとつは、より直感的なコントロール システムを開発し、ロボット プログラミングのユーザー エクスペリエンスと意欲を向上させることだろうと話す。その他の研究分野としては、インダストリアル IoT との統合がある。リアルタイムでさまざまな建材を認識し、対処する能力をロボットにもたらすマニピュレーターなど、空間的、科学的、触知的入力の計測に高度なセンサーが使用されている。

robotic fabrication in architecture Sequential Roof
「The Sequential Roof」が取り付けられた Arch_Tec_Lab ビル [提供: Andrea Diglas/ITA/Arch_Tec_Lab]

現在開発中のプロジェクトでは、不規則な形状の物体をスキャンし、それをコンピューター処理して、定義済みの形状による構造を構築する機能をロボットに搭載させる。この物体には、コーラー氏が「実際に手に取るまでそれに気付かない形状を持つ」と表現する、石や建設廃棄物、がれきなどが相当する。

産業用ロボットは何十年にもわたり、小型部品からコンピューター チップや自動車を組み立てるのに使用されてきた。RFL での大規模な実験により、カスタムメイドの要素でより大型で複雑なビルを構築できるようになれば、建築分野に新たなレベルの精巧さと複雑さが実現するかもしれない。

コーラー氏とラブリッジ氏は、この研究所を使用して「大がかりな構築」を行うことに胸を躍らせており、来年はここで多層構造を建築する予定だ。この新しい住宅モジュールは、スイス連邦材料試験研究所 (Empa) の NEST ビルに設置されることになっている。

「ロボット製造モジュールを、2 階建て住宅のフルスケールで構築することを目指しています」と、ラブリッジ氏。「この規模のロボットは、これまで建築学上の研究では使用されてきませんでした。私たちは、まさに突然、これまで存在しなかった能力を持つようになったわけです。こういった能力は、サイズ、スケール、複数のロボット間における同時相互作用の複雑性、人間と機械の間のつながりにも関係しています」。

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