きゅんくんが創造する、ファッションとしてのアーム ロボット

by Yasuo Matsunaka
- 2016年9月15日
きゅんくん METCALF clione
METCALF clione [model: しらい, photo: 荻原楽太郎]

急速に進化、普及するロボットは、いつ人間の仕事を奪うのか? そんな議論がますます喧しくなる昨今だが、そもそもロボットとは何のために存在するのだろう? 「ロボットは人間の役に立つべきもの」。その呪縛にも似た先入観をひとまず脇に置き、人間の生活を豊かにするパートナーとしての役割を考えてみよう。そう、ファッションのように。

現在、日本で実に 30 万台以上が稼働しているという産業用ロボット。そして、さまざまなテーマに沿って学生が設計し、その技を競う「ロボコン」で目にするような手作り感溢れるロボット。ロボティクス ファッション クリエイターとして活躍する「きゅんくん」は、そんな、全くタイプの異なるロボットの両方に魅力を感じてきたという。

根っからのロボット好きで、小学校の卒業アルバムには自分で作ったロボット キットの完成図を描いたという彼女は、展示会で触れた「実際に販売されて、経済活動に貢献している」産業用ロボットに衝撃を受ける。大学の機械工学科に進み、そこで専門スキルを学ぶ一方で、ロボット コンテストに出場するような、製品として販売されるロボットとは異なる不器用なロボットにもずっと惹かれてきた。ゴツゴツしていたり、自分で加工した金属がむき出しになっていたり、配線がごちゃごちゃしていたりするのに魅力を感じ、「(一般的な) 製品だと途中経過と思われるようなものの愛らしさを残したまま、ブラッシュアップできないだろうかと考えていました」という。

きゅんくん モデル Metcalf
きゅんくん (左) [model (右): しらい, photo: 荻原楽太郎]

彼女が「ファッションとして身に付けるロボット」を作りたいと思ったのは、高校生のとき。在籍していた被服部で作品として展示物を作成するにあたり、自分が表現するテーマとして行き着いたのが“テクノロジー”だった。「電子工作をしたり、ロボットのキットで人型ロボットを作ったりはしていたけど、当時はオリジナルのメカをどうやって作ればいいのか分からなかった」という彼女。非凡なところは、それを“服”としてアウトプットした点にある。

しかも“ウェアラブル”という言葉を全く知らないまま、現在のような作品を作り始めたというのも興味深い。「最初は、自分が勝手にやっていたことに名前が付いていることに結構違和感がありました。でも、私がやっていることはウェアラブルなんだ、と納得して。ロボットが役に立つものとか、コミュニケーションするものだとかいう固定概念もないですね」。

きゅんくんが世界的に大きな注目を集めたのが、2015年3月にテキサスで開催された SXSW (サウス・バイ・サウスウェスト) 2015 の DMM.make AKIBA ブースだった。ここでウェアラブル アーム ロボット METCALF (メカフ) を発表。ハードウェア スタートアップの展示が多いなか「機能のない、ファッションとしてのウェアラブルデバイス」という独自のコンセプトが異彩を放っていた。

こういった海外の展示会では、日本とは異なる反応が得られるというのも興味深い。「日本だと (ロボティック ファッションを) 受け入れる文脈ができすぎているところがあって、今まで存在していたものと地続きのものとして見られることが多いんです。SXSW で最初に展示したときは、かなり驚いている方が多かったですね。韓国は日本と近いところがあって、日本のアニメやサブカルチャーの文脈で見る人も多かったです」。

きゅんくん
METCALF clione [model: 近衛りこ, photo: 荻原楽太郎]

2016 年 3 月には、新たなウェアラブル ロボット METCALF clione (メカフクリオネ) を発表。METCALFからの大幅な軽量化、グラフィック デザイナー Rei Nakanishi によるグラフィックプリントの外装、V-Sido OS 採用によりスマートフォンアプリからのロボットアーム操作の実現など、大幅なアップデートが行なわれている。「これまで幾つも作品という形で発表してはいますが、自分の中ではプロトタイピングだというイメージで開発しています。ひとつ作るとたくさん直したいところが出てきて、すぐにまた直して作るというサイクルが気に入っています」。

きゅんくんの作品の多くはアーム ロボットだ。その理由はというと“腕が一番面白いと思うから”なのだという。「可動範囲が大きいことだったり、人間と同じことをしようとして人間の腕とは異なる形状になっていることだったり。そういうところがすごく面白いなと思っています。中国では深センで展示したのですが、街ではビルもビカビカ光っていて、光るものは珍しくないんですけど、動くものはちょっと珍しいらしく、すごい注目を集めていました」。

「大学生になり、ロボットを自作できる知識や技術が身について、やっとやりたいことができるようになってきた」という彼女の制作活動には、“21 世紀の産業革命”メイカームーブメントに向けたビジネスとして注目を集めている、充実したものづくり環境も欠かせない存在だ。現在、彼女が拠点としている DMM.make AKIBA(ハードウェア開発を支援する複合型ものづくり施設)は 2014 年のオープン当初から活用しており、多くの時間を過ごしているという。

今後のものづくりで重要なオープンイノベーションを成功させる資質に、コラボレーションなどのソーシャルスキルも挙げられることが多い。きゅんくんが制作期間わずか 3 カ月 で完成させた METCALF clione と、その発表と同時期に横浜スタジアムで開催された「AKB 48 単独コンサート」で使用された、METCALF clione から派生した 3 台の METCALF stage の納品を同時進行することができたのも、ソフトウェア開発やグラフィックの部分でのコラボレーションあってのことだ。もちろん、こだわりを持つ機械工作の部分は、様々な構造の改良を含めて全てを自身で手がけている。

METCALF clione Inventor
METCALF clione は、きゅんくん自身が Autodesk Inventor で設計を行った

「学部では理論を学ぶことが多く、オリジナルで制作を行なうことはあまりなかったので個人でものづくりを始めました。いまは部品も、加工機も手軽に手に入ります。レーザーカッターや 3D プリンターといった機材もレンタルなどを利用して気軽に使えますし、通販でも購入できる。自分でものづくりを始めてよかったなと感じていますし、この時代に生まれてよかったな、と思います」

現在は、さらに次の作品を構想中で「次々に違うタイプのものを作ると、制作の過程で発見した問題が生かせなくてもったいない。どんどんアップデートして作るべきだと考えているので、まずは METCALF のシリーズにこだわっていきたいですね」と語る。

「人間の世界を便利にするものに興味が無いわけじゃなくて、なぜか他の人がやっていないことを気づいたらやっていたので、このプロジェクトを進める責任があると思っています。ある程度まで満足が行ったら、また違うことを始めるときに、人の世界を便利にするものを作ってみたいとは思います。10 年後には、自分が作りたいと思ったものを制約なく作れるくらいに技術力を磨きたいですね」。

*トップ画像: METCALF clione [model: しらい, photo: 荻原楽太郎]

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