イラクの都市をテキサス州に再現したプロダクション デザイナー、セス・リード氏

プロダクション デザイン セス・リード
[提供: Ed Salsbury/Impact24]

フォート・フッド アメリカ陸軍基地の 14 万 5 千平米 (編注: 東京ドーム 3 個分) に及ぶ訓練区画が、わずか 4 カ月でナショナル ジオグラフィック チャンネルのドラマ「ロング・ロード・ホーム」用のセットに。この全 8 話のミニ シリーズが描くのは、2004 年 4 月 4 日にフォート・フッド アメリカ陸軍第 1 騎兵師団がバグダッド郊外のサドル・シティで襲撃された、ブラックサンデーと呼ばれる事件だ。

「ロング・ロード・ホーム」の極めてリアルなセットは、エミー賞ノミネート歴を持つプロダクション デザイナー (美術担当)、セス・リード氏の着想、製作によるもので、従軍ジャーナリストによる映像記録と退役・現役兵士の今なお鮮やかな記憶、デジタル デザインとビジュアル エフェクトの最新技術が結集している。CW テレビジョンネットワークの「スーパーガール」や Hulu の「Shut Eye」、ナショナル ジオグラフィックの「コスモス:時空と宇宙」のセット デザインなどを担当した、非常に想像力豊かなリード氏の最新の取り組みとなるこのプロジェクトで、氏はヨルダンとモロッコを訪れ、この戦いを生き残った部隊の数名 (彼らはデザインのコンサルタントを行った) と密接な友情関係を築いた。

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「ロング・ロード・ホーム」撮影用にテキサス州のフォート・フッドに再現されたサドル・シティ [提供: Jeremy Benning]

南カリフォルニア建築大学を卒業した元建築家で、芸術家ローリー・モーゲンスターン氏、ミッドセンチュリー モダンの建築家ジョン・リード氏を両親に持つセス・リード氏に、今回のセット、ハリウッド映画の制作現場における現実的要素と空想的要素の融合、そして製図技師からスタートし、ビジュアルによるストーリーテリングと作話の世界に足を踏み入れるまでの道のりを聞いた。

建築家としてのキャリアをスタートさせた後、どのようなステップでプロダクション デザインへと進んだのですか?
1993 年に、同僚であり、同じく建築家からプロダクション デザイナーに転身したキャサリン・ハードウィックから、製図技師にならないかと誘われたんです。まだ当時はユニオンに所属しなくても参加できる作品がたくさんありました。その最後の大規模な作品が「トゥームストーン」でしたね。実際に建築を行うほか、製図や管理まで、美術部門のあらゆる仕事を経験できました。良いスタートを切ることができ、特に SF や歴史物の作品で物語の語り手側に参加したいと強く考えるようになったのです。私に、より多くのデザインの機会を与えてくれました。

ただし、長く困難な道のりでもあり、プロダクション マネージャーの地位に到達するまで 20 年かかりました。最終的にプロジェクトのマネージメントを担当するようになるまで、美術関連のほぼ全てのポジションを経験しています。

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テキサス州のフォート・フッドで撮影された「ロング・ロード・ホーム」用のサドル・シティのプロダクション アートワーク [提供: James Hall]

113 棟もの建設、改築を行う、現存するセットでも北米最大級のものをフォート・フッドに製作されたわけですが、これほど大がかりなプロジェクトを、どうやって成功させたのですか?
この規模のセットを短期間で構築するため、まずシンプルな図面とデザインを使って作業をスタートさせ、建設チームには、かなりの自由裁量を認めました。問題は、それが生じた時点で現場で解決策を考え出し、できるだけ早く作業を進めるようにしたのです。大工、塗装工、左官、セット装飾担当などで、かなり大規模なチームを構成しました。プロジェクトは入念に計画され、建設が始まる 3 カ月前から、ストラテジーを検討し、図面をまとめるため作業を行いました。1 月に現場での作業を始めて以降は全力で進め、撮影開始まで一度も作業を中断しませんでした。

デザイン プロセスは、どのように始めるのですか?
映画のプロジェクト同様、リサーチから始めました。書籍やインターネット、ニュース映像、そしてもちろん兵士たち自身の提供によるものなど、できる限り多くのイメージ画像を集めました。兵士の多くは現地でデジタルカメラを携帯し、写真やビデオを撮影していました。そうした写真に目を通し、彼らとの対話に時間をかけました。一部の兵士は、実際にデザインにも参加しています。兵士が籠城した建物や通りの描写を得られるよう、手を尽くしました。イラク兵、アメリカ兵の両方がアドバイスとフィードバックを提供してくれました。

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CW の「スーパーガール」 [提供: David Stockton

まず、現在の敷地図の作成からスタートしました。重要だったのは、実際にはアメリカ陸軍基地であり訓練施設である現場にサドル・シティの街路を、社会的、文化的、視覚的にどう再現するのかという点でした。この施設は曲がりくねった通り、切妻屋根、屋根裏に設けられた採光窓など東ヨーロッパを想定したデザインであり、バグダッドとは全く正反対でした。バグダッドの通りは道幅が広く、モスクや大型の建物の多くは 50 – 60 年代の「ミッドイースト モダン」と呼ぶべき様式を留めています。スケッチを進めながら、車が猛スピードで走り抜ける長くまっすぐな通りや、追い込まれた兵士が身を隠す建物など、地図にシーンの撮影場所を書き込んでいきました。

従来の建築ツールに似たソフトウェアを使われていますか?
テレビ番組の場合、素早く変更が行える、操作性に優れたプログラムを使用することが多いですね。そうしたプログラムでは、例えば特定の距離や高さからの「ショット」を実現するカメラやレンズを指定できます。

我々の図面は絵のようなもので、図面の至るところにシンプルな言葉でメモが書き込まれています。特定のテクスチャーについての言及であったり、幾つかのアングルに 3D モデルを使用する場合でも、メモには単に「これを構築する」としか書かれていなかったりします。構造工学はあまり必要ではなく、建設調整と現場管理がより必要とされます。

このロケーションを選択した経緯は?
コスト面からいえば、メキシコやヨルダン、モロッコなどのロケーションを検討するのが妥当だったかもしれません。それらしい質感やバラエティは得られたもしれませんが、完全な本物に見せることは不可能です。一方、アメリカ陸軍は撮影用に広大な土地を提供してくれました。夜中の撮影も、何かを爆破することも、さらに海外では絶対に不可能な兵士や装備を撮影に使うことも可能でした。これは、例のない申し出でした。M1 エイブラムス戦車やブラッドレー歩兵戦闘車、トラック、兵士たち。信憑性の高い真に迫った映像と、質感と文化的リアリティのどちらを取るか、という問題になったのです。最終的には、アメリカ陸軍基地での撮影を選択しました。そのため、質感と建造物の追加が課題となったのです。

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Hulu の「Shut Eye」 [提供: Pierre Gill]

このプロジェクトで、戦闘を経験した兵士たちと一緒に仕事するという体験は、どのようなものでしたか? 兵士の多くは、あなたが再現を目指した光景にトラウマを感じていると思いますが?
彼らの多くは、再現された街路を歩きながら、実際に滞在した建物や区画のロケーションと文字通りマッチさせ、当時の出来事を思い出していました。私は、その瞬間を目の当たりにしました。軍高官、戦死兵の家族、戦死兵の妻たち、イラク国内の別の場所で負傷した兵士。私がセットを案内した人々は、だれもが同じような強烈な情動反応を見せました。

引き返し、立ち去ってしまう兵士もいました。兵士の妻たちは立ち止まり、「夫がどういうところにいたのか理解できるような気がします」と話しました。また兵士たちは「まさに記憶にあるままです、匂い以外は」と言いました。精神を浄化させるカタルシスを経た兵士たちと共に過ごせたことは、これまで携わった作品のなかで最もやりがいを感じた体験でした。リサーチ目的で 2 名の兵士が雇用され、毎日私たちと生活を共にしました。籠城に追い込まれた小隊と行動を共にしていたエリック・ブーキン軍曹と、救援部隊にいたアーロン・ファウラー氏です。彼らにとっては、ここで私たちと過ごし、これらの出来事に向き合ったことが心の救済になったのだと思います。

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