イモムシを模したソフトロボットが目指すユニークな活躍場所

by Yasuo Matsunaka
- 2018年11月15日
イモムシ型ソフトロボット 梅舘拓也 川原圭博
自律分散制御で駆動するイモムシ型ソフトロボット (梅舘 拓也、川原 圭博) [提供: 梅舘特任講師]

ロボット大国として知られ、現在も産業用ロボットの世界では 56% もの製造シェアを保つ日本。そのロボットが AI の劇的な進化にも支えられ、職場や家庭にまで広がろうとしている現在、より人に近い環境で安全に動作させられるような、「柔らかい」材料を使った“ソフトロボット”が注目を集めている。

産業用ロボットは主にロボットアームで構成され、人間の関節に相当するジョイントを動かし、骨に相当するリンクで力を伝えている。自由な動きを実現するため、6 つの関節 (6 軸) で構成されるのが一般的で、その材料のほとんどは「硬い」金属だ。

しかし、近頃注目されているのは「柔らかい」材料を使った“ソフトロボット”だ。その研究で知られる東京大学 大学院 情報理工学系研究科の特任講師、梅舘拓也氏は、人間の記憶や人格と身体との関係性をクローズアップした「攻殻機動隊」に触発されてロボットと人間や生き物との境界に興味を持ち、生き物に近いロボットを作ってみたいと考えるようになったという。

東京大学 大学院 情報理工学系研究科特任講師の梅舘拓也氏
東京大学 大学院 情報理工学系研究科特任講師、梅舘 (うめだち) 拓也氏

柔軟な身体を持つアメーバやイモムシ型のロボットの研究を続ける梅舘氏は、2010 年の段階で、既に単細胞アメーバ生物である真正粘菌変形体の動きのメカニズムを模倣したロボットを作っていたという。「自分がこれまでやってきたことがソフトロボットと呼ばれていることは、後から知りました」と述べている。

「従来の硬いロボットを、日常生活や、土の中や枝の上などの自然環境で動作させるのは、重さの問題や制御の複雑さ、高価すぎる点など、いろいろと無理があります」と、梅舘氏。「ちゃんと機能している生き物から仕組みや形を抽出してきて、我々の日常生活にもう少し近いところで活躍してもらうロボットを作る、というのが今のトレンドだと思っています」と現状を分析している。

ソフトロボットは、柔軟な身体を柔らかい素材で模倣することで、三次元的な変形や非線形の力学応答を実現する。また、硬いロボットで実現している関節や骨だけでなく、その素材により筋肉や腱、皮膚や毛に相当するような特性も獲得。それにより、近くにいる人間などを傷付けない絶対的な安全性や、環境変動に対する適応性なども持たせることが可能だ。

こうしたソフトロボットの設計や製造、制御には、従来の硬いロボットとは異なる考え方が要求される。当初は小さな風船などを利用していたが、サンフランシスコにあるオートデスクの Pier 9 で 3D プリントなど最新のテクノロジーに触れた氏は、これこそが今後の製造方法だと大きな感銘を受けたという。

「ギヤやジョイントを設計するのでなく、剛性分布を設定すれば所望の機能を実現するように設計できる。ソフトロボットとも、すごく相性がいいと感じました」。

米国マサチューセッツ州のタフツ大学で研究を行っていた際に制作したイモムシ型ロボットは、3D プリントによりパーツを作るのでなく、全体がプリントされている。「ようやく柔らかい素材を 3D プリントできるようになり、それによって作ることのできたロボットです」。

従来のロボットが採用していた硬いボディと関節による機械システムでは、機能と形がほぼ一対一対応となり、新たな機能が必要になると、新しい部品を付ける必要があった。だが機構が柔らかいソフトロボットでは、複数の形を実現する大変形や、リアルタイムに外力へ応答する粘弾性、ある部位から別の部位へ力を伝える連続性なども、非常に少ない部品点数で実現できる。

地球上の種のうち、全体の 57% を昆虫が占めており、そのうち 85% がイモムシ類になるという。「地球はイモムシの惑星」だと語る梅舘氏は、イモムシは明示的な骨格を持たない円柱形のシンプルな身体、非常に少ないニューロン数による柔軟なボディの制御、多様で適応的な振る舞いを実現した、柔軟材の動きの制御における理想的なモデル生物だという。

そこから設計論を抽出したイモムシ型ロボットは、柔らかいゴム状の素材と硬い素材を同時に印刷できる 3D プリンターで造形。電気を流すと収縮するバネ状の形状記憶合金が前部に2本、後部に1本あり、その縮むタイミングをずらすことで前進や左右への操舵、操舵とは逆方向への回転など、多様な振る舞いが実現している。

「3D で設計できるツールが手軽に利用できるようになるなど、環境はすごく整ってきています。Fusion 360 は、有機的なカーブを作れるスカルプト機能も素晴らしいと思います。その有機的なカーブをロボットにつけたときに、物理的な意味をどう付与できるかなどを、今後試していきたいなと思っています。」。

自律分散制御で実現する環境変動への適応性

また梅舘氏は生物のように環境の変動へ適応できる、自律分散制御も研究。これは、例えば猫のような動物の 4 本の足が、それぞれ独立して機能しながらも全体としても役割を果たすには、それぞれの足にあるリズム発生器同士が、通信(神経)、機構(身体)を介した相互作用を、自律分散的に制御しているという作業仮説にもとづいたものだ。

それを検証すべく、柔軟素材をボディに取り入れたソフトロボットを意のままに制御するため、最も原初的な単細胞生物から抽出した自動分散制御をロボットに適用。巻き取りを行うモーターがそれぞれ個別に考え、収縮するリズムを整えて動くよう設計されたイモムシ型ロボットが、這行運動を生成することを確認している。

段差を乗り越え壁面を登る尺取り虫ロボット
段差を乗り越え壁面を登る尺取り虫ロボット (森田 雅博、梅舘 拓也、ダ・デゥック・トゥン、川原 圭博) [提供: 梅舘特任講師]

こうしたソフトロボットの開発においては、どの部分を強化すれば速度が上がるのか、どこが地面を蹴っているか、どの収縮がどこに伝わっているかなど、「力」が見えないことに苦労するという。「柔軟ボディはどこでも関節になるので、力がイメージし辛いんです。ロボティクスは力を扱う学問ですが、電気と同じで力は見えないので、そこはすごく苦労します」。

研究開発により、しっかりと動くロボットが作れてしまえば、その後はセンサーを載せることなども簡単にできるという。それによって「我々の届かないようなところで活躍できる機械を作ることができるんじゃないかと考えています」と、梅舘氏。

「その一例が、実際にいま企業と開発している、電線の上を這って移動するようなソフトロボットです。材料費だけだと 2,000 – 3,000 円で作れるので、電線にくっつけたままにしておいて、メンテナンス ロボットして活躍させるような使い方ができると思います」。

梅舘氏は、センサーネットワークや IoT 機器がより自律的で能動的な人工物として作用し、自然物と共生して新しい価値を生むための”万有情報網”の構築を目指し、東大の川原 圭博博士が統括する「ERATO 川原万有情報網プロジェクト」のアプリケーションデザイングループ研究員を務めている。

フレキシブルプリント基板シートを用いた折り紙ロボット
フレキシブルプリント基板シートを用いた折り紙ロボット (李 東池、斉藤 一哉、梅舘 拓也、ダ・デゥック・トゥン、川原 圭博) [提供: 梅舘特任講師]

プロジェクト内には環境発電や無線給電技術の開発に取り組んでいる無線電力プラットフォームグループもあり、ロボットを無線給電で動かそうという構想もあるとのこと。

ソフトロボットは、まだまだ新しい研究分野であり、現時点では従来のロボット研究とは相容れない部分もあるという。「僕ら人間も、硬い素材と柔らかい素材を組みわせて、生物として成り立っています」と、梅舘氏。「ソフトロボットも、最終的には従来のロボットと融合するような気がしています」。

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