SWELL: オープン コミュニティから生まれたスプーン不要のコップ

by Yasuo Matsunaka
- 2016年12月21日
SWELL Fusion 360

ものづくりの主役は、大手企業から個人へ移ると言われている。しかし、それは孤独な作業を意味するわけではない。志を同じくするメイカーズたちは、知識やノウハウを共有するオープン コミュニティを形成し、そこで結び付いている。

メイカームーブメントの浸透により、日本国内でもファブラボDMM.make など、メイカー向けの環境を提供するサービスが増えている。そうした環境の最大の魅力は 3D プリンター、レーザーカッターといったデジタル工作機械へのアクセスだが、コミュニティが形成されるリアルな空間が提供されるのも見逃せない点だ。

Autodesk Creative Design Awards 2016 の「ものづくり部門」でグランプリを獲得した水野諒大氏も、受賞作品の「SWELL」の製作過程で、そうしたコミュニティでのやり取りが大きな助けになったと語る。九州大学芸術工学部の工業設計学科でデザインを専攻し、プロダクトのデザインを学んできた水野氏の卒業研究は、「3D プリンターの特徴を生かしたプロダクトの研究」がテーマ。金型を使った従来の製造方法には無い、3D プリンターの強みを生かしたデザインを行うことになった。

プロダクトとして選択したのは、スプーンやマドラーを使わず、形状だけで撹拌の機能を実現するコップ。そのアイデアはコップの中の飲み物が、スプーンを入れたままだと飲みにくいと感じたことから生まれた。「あらためて観察してみると、スプーンはソーサーなどの上に置くとそれを汚してしまうし、オフィスなどには無いこともあるなど、いろいろな問題を引き起こしています。そこで、スプーンがなくてもココアなどの粉末を溶かせるようにできないか、というところから考え始めました」。

この作品を特徴付けているのが、海の波が持つ緩やかな曲線にヒントを得たという、コップの内側に付けられた多数の隆起だ。「まずは構造モデルとして幾つかの凹凸のパターンを 3D プリンターで作り、そのプロトタイプに水とココアを入れて、コップを回してかき混ぜてみました。実用的に機能するものになるかどうかも確信が持てなかったので、このアイデアが実用化できるよう、最初は機能面に絞ってデザインしました」。

SWELL は、全て Autodesk Fusion 360 でデザインされた。もともと大学の授業で CAD ソフトの使用経験はあったが、昨年秋に Fusion 360 エバンジェリストによる講習会へ参加したのを機に勉強を始めたという。「スタッフをしているファブラボ太宰府でいろいろな人に薦められたこともありますが、それまで使っていたソフトではスカルプトモードでのポリゴンモデリングができず、有機的な三次元曲面を作るときに苦労していたので、乗り換えることにしました」。

コップ側面の内側に付けられた凹凸は、粉末の溶けやすさが向上するよう隣り合ったものの高さに差を付け、実験を繰り返すことで最適な大きさに設定された。その結果、「ココアなら、わずか 20 秒で溶かしきる」ことが可能に。また、撹拌時に遠心力で溢れないよう上部には「返し」を、また溶け残らないよう底部には放射状の凸部が、流体の回転方向に対して垂直に造形されている。

プロトタイプの製作には、ファブラボ太宰府や大学の 3D プリンターが使われた。「主に熱溶解積層法の 3D プリンターを使いましたが、透明な感じを出すためにいくつかは光造形の3Dプリンターも使ってみました」。

水野氏は、ファブラボ太宰府では工作機械の指導、ワークショップの企画・実行のほか、試作やデザインの依頼に対応するデザイン業務も手がけている。「お客さんからの依頼や質問は、すごく自分の勉強にもなります。それまではひとりでじっくり考えてやっていたのに対して、ファブラボではオープンソース化して公開しながらつくっていくので、いろいろな人が改良したり、意見をもらったりしながらデザインが発展していく風潮があります」。

「今回のコップも、3D プリンターで出力中にいろいろと話しかけてくれる同僚やお客さんがいました。取っ手が付いていた方がいいかもしれないとか、混ぜるときにこぼれにくくするにはどうしたらいいか、というような議論が生まれて、それが助けになりました」。

3 カ月を経て完成したデザインが Fusion 360 のレンダリング機能により画像化されたが、実用化の際にどのような材質にするかは、まだ確定していない。「内側の構造が特徴だと思うので、それを外から見てもわかるようにするためには、透明な素材がいいと思っています。耐熱性のガラスで作れたらいいですね」。

Creative Design Award「ものづくり部門」でグランプリを獲得した水野諒大氏
Creative Design Award「ものづくり部門」でグランプリを獲得した水野諒大氏

現在、水野氏は九州大学大学院 芸術工学府でデザインストラテジーを専攻。この大学院のコースでは「実際にデザインを行うプロジェクトだけでなく、デザインコンセプトを決めることから企画、生産、知的財産化、流通、販売までの教育も行われています」と言う。「デザイン思考やインクルーシブデザイン、デザインマネジメントなどを幅広く学んでいます。デザイナーは技術職に近い部分がありますが、そこから一歩進んで、デザインを戦略的に活用できるようになりたいと思っています」。

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