カールした金属板: サーモバイメタルが農業を変える

by Zach Mortice
- 2015年10月13日
Bloomパビリオン [提供: Brandon Shigeta]

産業革命によりビル建造用のありとあらゆる素材が大量生産されて建築家へ提供されるようになって以来、一部のデザイナーは特徴的な要素に、そのアイデンティティとデザインの基盤を置くようになった。ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ氏にとって、それは隆々たる鉄骨とガラスであり、フランク・ゲーリー氏が選択したのは、チタン製のうねる波。マリオ・ボッタ氏はポストモダンの影響をレンガで表現した。ザハ・ハディッド氏の作品では、ドラマティックにスカルプトされたコンクリートが一目でそれと分かる外観を与えている。

ドリス・サン氏にとって、それはサーモバイメタルだ。

研究に基づくサン氏の制作活動はカリフォルニア州ロサンゼルス近郊のローリング・ヒルズで行われ、この奇妙であまり知られていない素材をダイナミックで変形可能な建築要素へと変貌させる取り組みに専心している。主に助成金により運営される (サン氏によれば「クライアントはいない」とのこと)彼女の会社DO|SU Studio Architectureはオープンエンドの実験を追求しており、素材の新たな特性や反応に注目して、今後の実用的応用に関する研究を行っている。「結果が出るまで、それが何なのかはっきりとは分からないのです」と彼女は言う

thermobimetal_bloom_curled_surface
カールしたサーモバイメタルの表面 [提供: Ingalill Wahlroos-Ritter]

サーモバイメタルは、ほとんどの素材が共通して持っている特質を利用した合金だ。産業用プレス機で2種類の金属板が永久に外せないよう貼り合わせられ、過熱されると一方の金属板が素早く膨張し、他方はよりゆっくりとした速度で膨張する。前者の金属の膨張が他方の膨張率の低い金属によって抑制されるため、金属板は湾曲を始める。

サン氏のスタジオでは、アート・インスタレーションやパビリオン、建築要素の構築にサーモバイメタルを使用している。彼女の仕事は、この一見シンプルな湾曲動作を利用して、実用的な建築構造にどう変換させられるかを解き明かすことだ。これまでのところ、彼女はサーモバイメタルを通気や日よけの開口部の開閉、軽量な構造表面の強度を向上、ツールや手を使用する必要のない自動組立など自動制御の手段として使用している。

thermobimetal_bloom_surface_curl_sequence
Bloomのサーモバイメタル表面が時間と温度に合わせて湾曲する様子 [提供: DO|SU Studio Architecture]

サン氏の Bloom パビリオンを例に挙げると、これはロサンゼルスの Materials and Applications ギャラリー (http://www.emanate.org) に設置された空間だ。先日 2015 AIA Small Project Award を受賞した Bloom は、14,000 枚の葉状のサーモバイメタル製の薄板から構成されている。一連の結合するアーチに通風筒が乗せられたような形状の Bloom は、太陽熱に反応して移ろい、伸び、うねる。まるで機械仕掛けのランの花を思わせる。時間の経過につれて、パビリオンの表面は巻き上がり、太陽光と新鮮な空気を内部に取り込んだり、排除したりする。

これはベーシックかつ二元的な反応の範囲内でデザインされた、あまりにもシンプルで決まり切ったプロセスに思えるが、サン氏は、それ以外にも影響を与える可変要素があるという。それは量と温度、金属の曲がり具合だ。また、決められたデザインにおける金属板の切断方法と設置場所の配列も、湾曲にさらなるひねりを与える。「実際には非常に複雑です」とサン氏。「難しいのは、閉じた状態から完全に開いた状態へ移行するもの、さらにその間の位置するものをデザインしなければならない点です。その反応は日によって異なり、それを事前に知ることはできないからです」。

thermobimetal_installation
サーモバイメタル取付の様子 [提供: DO|SU Studio Architecture]

サン氏のサーモバイメタル・プロジェクトは、クロムめっきが施されたような金属的な光沢が各オブジェクトに SF のような鋭さを与えているにもかかわらず、生命的かつ有機的な特性を非常に強く感じさせるものとなっている (サン氏は、建築家になる前は生物学を学んでいた)。花びらのような双曲面、抽象化された軟体動物の殻のらせん、複雑なシンメトリーを思わせる雪の結晶。熱に反応して生まれるこれらのオブジェクトの動きは、ハエジゴクの捕食の様子に似ている。素材の薄板が動き始めると、それは突然かつ揺らぐようでありながら着実に収縮を続けていく。

しかし、これら一連の作品に一貫性があるように見えたとしても、そこに先入観や特定のゴールはないとサン氏は話す。「美的側面についてはあまり配慮していません」。DO|SUのオブジェクトの形状は計算と配列により決定され、芸術的嗜好の余地はあまりない。

thermobimetal_armoured_corset
Armoured Corset [提供: Courtesy DO|SU Studio Architecture]

DO|SU のオブジェクトの形状は計算と配列により決定され、芸術的嗜好の余地はあまりない。

Bloom パビリオン以外にも、Armored Corset インスタレーションがあるが、これは巨大な金属製の甲虫の背甲を思わせる。Exo Structural Tower は、湿地帯のアシのように上に伸びている。Tracheolis プロトタイプは、バッタの腹部に並ぶ酸素吸入用の穴 (気門と呼ばれる) にインスピレーションを得たものだ。ここでは、一連のチューブ状の空洞からなる 3D プリンター製のコンクリート ブロックに弁のように取り付けられたサーモバイメタル製の薄板が、空気を流入させたり排出させたりする。こういった呼吸する建築要素をつなぎ合わせることでダイナミックな自動換気システムを形成可能となり、従来の冷暖房空調システム (HVAC)の必要性を低減できる。

DO|SU プロジェクトは植物を思わせるが、その類似性を高めているのは、類似する一連の機能だ。花のような Bloom パビリオンは、太陽光を集めることを意図したものだ。だが、サン氏は「生物学との最大の関連性は、この素材が独自の行動システムを有しているという事実です」と話す。

商業的に最も将来性の高い研究として、DO|SU は金属板を二重の羽目板張りのガラスの間に取り付けたサーモバイメタル ウィンドウ システムに焦点を置いている。気温が低いと、金属板は太陽の角度に並行となり、太陽光と熱を十分に取り入れることができる。気温が上がると、金属板が湾曲を始め、太陽光を遮るようになる。

thermobimetal_window_system
サン氏のサーモバイメタル・ウィンドウ・システム [提供: DO|SU Architecture Studio]

操作に外部エネルギーを必要とせず、環境にダイナミックに反応するこういったシステムは、受動的 (パッシブ) 対能動的 (アクティブ) という、一般的な持続可能ビル・システムの二元的な境界を越えたところに存在している。グリーンビルディング・ムーブメントが成熟するにつれて、最も持続可能なビルとは、より高価で能動的なエネルギー生成や環境制御システム (ソーラーパネルなど) へと進む前に、まず静的かつ受動的な要素 (高品質の断熱など) から始まる、というコンセンサスが得られつつある。受動的システムと同じく、サーモバイメタルは取り付けさえ完了すればエネルギーも操作も必要ない。しかし、気候と環境に反応する点では能動的システムと同じだ。これは「スマート」な材料とシステムが必ずしもコンピューターを必要としないことを再認識させるものだ。サン氏はこれを「パッシブ – アクティブ システム」と呼び、「独自のカテゴリに分類されるものです」と話している。

サン氏はサーモバイメタルを使用した自身の作品のほとんどを日当たりの良い南カリフォルニアで開発してきた。彼女によると、より冷涼な気候での検証はまだ行ったことがないが、どのような気候であっても、しきい値温度への到達に問は題ないだろうとのことだ。「寒いところに立って作業をするのが嫌なんです」とサン氏。「ちょっと自分勝手ですよね」。

thermobimetal_self_assembly_box_sequence
サーモバイメタルを使用した箱の自動組立の様子 [提供: DO|SU Studio Architecture]

サン氏は、イケアのような平箱梱包で提供され、指定のしきい値温度になると自立するサーモバイメタル製の椅子を思い描いて (研究して) いる。「この場合、「DIY (do-it-yourself: 自分でやる) ではなく「DIWNO (do-it-with-no-one:勝手にやる)」ですね」。

DO|SU Studio Architecture のその他の作品同様、自動組立椅子は、伝統的な建築の概念から遠く離れたところにあるように思える。しかし、彼女の研究が繰り返し示しているように、実用的応用とは、それぞれの研究が求める論理の連鎖を、それがどこに導くのかについて多くを問うことなくただひたすら辿ることにより生じる結果なのだ。

「椅子を作ることができれば」とサン氏は続ける。「緊急避難所を作ることだってできるのです」。

関連記事