製造業の新たな秩序: 大企業はスタートアップから (そしてスタートアップは大企業から) 何を学べるか

by Diego Tamburini
- 2015年5月11日
大企業はスタートアップから何を学べるか
Micke Tong

テクノロジー業界に、昔ながらのストーリーが戻りつつある。そう、ジョブズとウォズニアックが活躍した 1970 年代の再来を思わせるような事態だ。

このところ、ガレージで試行錯誤する発明家や、全く新しいプロダクト (そして業界そのもの) を生み出す大学生のサクセス ストーリーは耳にしなくなっていた。ソフトウェアや iPhone アプリを制作するだけでなく、実際に手を触れられる製品のイノベーションの話だ。

それが今また生まれつつある。クラウドファンディングから低コストのハードウェアやソフトウェア、生産まで、ハンデがなくなって誰にでも公平な機会が与えられるようになったからだ。スタートアップや企業家が、再び大企業と競合して市場にイノベーションをもたらせるようになった。しかも、ときには大企業よりも迅速に、夢にも思わなかったほどのスピードで。

大企業とスタートアップこれは「伝統的な」大企業製造業が絶滅の道を辿っていることを意味するのだろうか? GE やボーイング、トヨタ、3M といった世界の大企業が、軽快な新興スタートアップに屈するのか? 話はそれほど簡単ではない。

現実的には、大企業製造業は今後も存在し続けることになるだろう。それには理由がある。製造業は非常に複雑なビジネスだ。製造業での成功、特にグローバル規模での成功を収めるために必要な専門技術やリソース、ベストプラクティス、設備、サプライチェーンは一夜で手にできるものではない。自宅のガレージをオフィスとする小編成なチームの運営で利益を上げることは不可能だ。

またブランド認知の問題もあり、これも製品によっては極めて重要な要素となる。考えてもみて欲しい。50 年にわたってペースメーカーを製造している Medtronic, Inc. の製品ではなく、優秀な MIT の学生数名が開発した、ボストンに小さなショップを構えるペースメーカーを安心して選ぶ気持ちになるだろうか?

しかし、製造業の性質は今後変化していくに違いない。この変化の核となるのは、全ての企業にとって決定的に重要な要素、つまりイノベーションへの取り組みだ。ビジネスを確立させている企業も、スタートアップも互いに学ぶべきことが数多くある。

大企業はスタートアップから何を学べるか: 大規模であっても敏捷性を保つこと
大企業の問題のひとつは、イノベーティブであり続けること、新しいアイデアに向かって迅速かつ造作なく方向転換することが非常に困難である点だ。サイズと、それに伴う煩雑な事務処理がイノベーションを抑制してしまう。これは、かつてはそれほど問題ではなかった。全てがもっとゆっくりと進んでいたし、企業がコスト管理と生産量増加 (そして時折の新製品発表) をうまくやりくりできさえすれば問題はなかった。

しかし技術革新のペースと需要シフトは加速を続け、今や大企業であることはマイナスとなり、もはやコストと生産性の管理はビジネス成立のための十分な戦略とは言えなくなった。

innovation_startups_enterprise企業にはイノベーションが必要だ。それも今すぐに。製造業界の民主化の恩恵を受けた小規模製造業スタートアップが、より優れたイノベーションをより迅速にもたらす上で重要な役割を担うようになり、課題はますます難しくなっている。規模の経済は崩壊しつつあり、業界トップという価値は失われつつある。

しかし公平のために言えば、新興の小規模スタートアップにも課題はある。ほとんどのハードウェア スタートアップは素晴らしいアイデアを持っているが、製造とビジネスにおける専門知識には乏しい。

プロトタイプから (利益を生む) 商業生産への移行には四苦八苦している。車のライトに目がくらんだ鹿のように、Kickstarter キャンペーンの大成功という栄光に動転している。その多くが目標額の数千倍にも上る資金調達を実現しているのだ! 製品をどこで製造するのか (中国? オクラホマ?)、素材と製造プロセスはどうするのか? 効率的なサプライチェーンを構築するには? 製品の価格や販売、流通の方法は?など、さまざまな決定を行わなければならない状況に置かれることになる。ときには要望に応えることができない場合もある。

つまりハードウェア事業の難しさを、身を持って体験することになるのだ。

ここに、興味深いイノベーションの機会がある。大手企業が持つ製造の専門知識と、スタートアップのイノベーション力や「ひらめき」を組み合わせてみてはどうだろう? 私には、それこそが進むべき方向のように思える。ますます多くのイノベーションが「ビジネスを確立させた」大企業製造業という壁の外からやって来るようになり、一流企業はこの新しい現実を受け入れ、一枚岩の状態とは異なる、より開放的な状況へと順応していくだろう。

小規模ハードウェア スタートアップとフォーチュン 500 企業が互いに見習うべき点は多い
製造の民主化の恩恵を受けたハードウェア スタートアップは、大企業には導入が難しいイノベーションを取り入れることができる。大企業でイノベーションの導入が難しいのは、適切なタイミングで反応できないこと、社内にそのような素質を持つ人材がいないこと、好機を逃してしまったこと、イノベーションを投資の価値があるものと考えていなかったことなどが理由だ。スタートアップのハードウェア イノベーション一方、スタートアップはクールな破壊分子であり、メディアの寵児であり、投資を引き寄せている。彼らはクラウドファンディングやクラウドソーシング、オープンソース ハードウェア、サービスとしての製造(MaaS)、ソーシャルネットワーキング、コミュニティ、アジャイル製品開発といったクリエイティブなアプローチを用いている。また IT インフラを自社内に構築することで時間やリソースを無駄にすることがない。使用するもの全てはクラウドにある。

今後、こういったハードウェア スタートアップはそれぞれ違った道を辿ることになるだろう (もちろん、生き残ることができればの話だが)。一部は大企業の目にとまり、ノーとはいえない巨額のオファーを提示されることになる。意外かもしれないが、Google やマイクロソフト、Amazon、Facebook といった企業がそれを行っている。例えば Google は Nest、Boston Dynamics、Deepmind などを買収することでハードウェア製品に進出しており、Facebook も Oculus VR 買収で同様のことを行っている。

一部のスタートアップは自立して成長し、いつの日か業界を牽引するリーダーたちに戦いを挑んだり、さらには取って代わったりすることになるだろう。数年前までこのような例はひとつもなかったが、最近では Pebble、Square、Leap Motion、Modbot、GoPro、Lightning Motorcycle などの例がある。また一部には、ニッチ市場や取り組む企業の少ない市場でより優れた貢献が行えるよう、意図的に機動性に優れた小規模形態を維持する企業もあるだろう。

スタートアップとエンタープライズのコラボレーション一方で、大手は次のアイデアが社外にあることを認識し、それを取得できるよう、組織やプロセスの変更を行うことになる。

大手は外部のイノベーションに対してより透過性を強め、社外の人材 (開発者、愛好者、カスタマー) の関与に、より積極的になるだろう。スタートアップのベストプラクティスを実践し、利益とリスク削減への集中を改め、イノベーション カルチャーを取り入れるようになる。独自の社内アクセラレーターやインキュベーターをスタートさせるようになるかもしれない。官僚主義的な決定や PowerPoint、説得、権力による決定から新機軸による決定へと、意志決定の方法を変更する必要が出てくるだろう。

革新か、敗北か
ひとつ確かなことは、そのサイズを問わず、完全に安泰な企業はないということだ。これまでも、業界の巨人たちが小企業に屈してきた。もちろん、その逆もある。しかし現実に大企業という存在が消えることはないだろう。

ハードウェア スタートアップのブームは大きな興奮を呼んでいるが、ひとつ肝に銘じておくべきことがある。ブームは常に起こる。それは目新しいことではない。今回のブームでは数々の教訓、ビジネスとイノベーションへの重要なアプローチが変化し、また変化せざるを得ない状況となった。「イノベーションの新秩序」とは、大企業を地球上から消し去る小企業を指すのではない。すべてを一変させるイノベーションという展望において、それぞれがどのような行動を取るのかということなのだ。

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